負け犬、あみだくじ、もぐら
線を引く。
フリーハンドなので多少歪んではいるが、まあ、問題ない。
引いた縦線に横線を何本か追加して、
「・・・・・・あみだくじー」
「いきなり何を始めたんですか?」
「うん。この間からちょっとずつ準備を進めてきた例のアレについてです」
というのは、
「バーベキューの?」
「うん。湯原さんの娘さんとの親睦会」
「・・・・・・・・・・・・いまさらな気がしますが、湯原さんの娘さんへの期待度がすごいことになってませんか? サンの中で」
「いや、ぼくはもう会ってるし。話してるし。かなりかっこよき人なのも知ってるし」
バイト先で会った話はしているし、はなさんも頷いた。
「かっこいい、ですか?」
「うん。やっぱ湯原さんシングルファーザーだったからなのかな。かなりしっかりしてた。・・・・・・ぶっちゃけ男らしい」
「それは女性に対する誉め言葉としてどうなんですか?」
「でもね、それが似合うわ。男前」
内面がイケメンで、外見は美人。
「なんか、同性の後輩にすごいモテてそう」
「・・・・・・なるほど、ちょっとイメージできました」
はなさんも腕を組んで、うーん、と唸り、
「なるほど、ちょっと興味本位でしたけど、もっと会いたくなりましたね」
「うんうん。だよねー」
すすす、とさらに線を付け足す。
「ところで、いまさらあみだくじで決めるようなことがあるんですか?」
「んー? ちょっと親睦を兼ねてゲームをね」
「ゲーム?」
「ゲームというか、なんだろう? 自己紹介?」
「はあ」
「いや、湯原さんは湯原さん。じゃあ、娘さんをなんと呼ぼうかな、と思って」
「そうですね」
「そこで、あだ名を適当に決めて、あみだで決めようかな、と」
「サン。それはいいんですか?」
「大丈夫。本人から許可はもらってる」
昨日の夜電話して聞いたら、割と大受けしてた。
「・・・・・・それ、相当愉快な性格してますね。娘さん」
「とても仲良くなれそうだよね」
「サンはそうかもしれませんが」
下に候補を書き記していく。
「・・・・・・・・・・・・リョウコさん?」
「そそ、湯原涼子さん。お湯なのに涼しい」
「名前をからかうとあとで戦争になりますよ」
「おっと」
それはいけない、と思いながら、思いつくあだ名を書き込んでいく。
「リョウさん、リコさん、ルコさん、ユリさん、スズさん・・・・・・」
反対側には番号を振っておく。
「これを、本番の日に、娘さんに選んでもらい、当たったやつでぼくは一生呼び続けるよ」
「微妙にセリフが重いですよ」
「ナオさんにも候補を聞いておこう」
「ナオなら、ノリノリで変なあだ名をつけそうな」
「ボケ倒したらツッコミが必要だけど、まあ、大丈夫でしょ」
ナオさんは、意外とあれで常識的なところもあるし。
そこで、はなさんを見て、出会ったころを思い出す。
「はなさんは、もうはなさん、って感じだったんだけどね」
「そうなんですか?」
「なんかね。はなさん、と呼びたかった」
普通に口をついて出てきた言葉だったため、特に意識していなかった。
「ただ、湯原さんの娘さんって、ずっと言ってたから、この間あったときにそう呼んじゃって」
そうしたら、
「なんか呼び名を考えてって」
「ちなみに、サンは何て呼ばれてるんですか?」
「サンちゃん」
「ちゃん付け」
「はなさんもちゃん付けで呼ばれるよ。きっと」
「それはそれは」
ふふふ、とはなさんがなんか笑っている。
「まあ、もう少し先の話だし」
「そうですね」
+++
ぼっきゅぼっきゅとハンマーを振り下ろす。
ゲームセンターだ。
「で、はなは今日は帰ったかー」
ナオさんが、ハンマーを振り下ろして、おもちゃのもぐらを叩いていく。
「なんか、用事あるって」
「そうかー」
ゲームが終わり、ナオさんはハンマーをこちらに渡してきた。
「次、サンな」
「はいはい」
あみだくじの呼び名欄を埋めてもらうためにナオさんを呼び出したら、そのままゲームセンターに連行されて今に至る。
途中ではなさんは、用事があるから、と帰ってしまったため、今は二人だ。
ぼっきゅぼっきゅともぐらを叩く。
結構早いし、疲れる。
「でも、娘さんの呼び方なー」
「なんかしっくりくるのを探してる。呼びやすいのがいいよ。できれば二文字だね」
「ほー?」
「はなさんも、ナオさんも、二文字だし」
「サンもなー」
うーん、とあみだくじの紙を見て、ナオさんはうなる。
「これのどれかでいい気がするなー」
「じゃあ、横線足しといて」
「おーけー。任せろ」
ちょいちょい、とナオさんが線を足しているのを横目に、ぼくはもぐらを叩き終える。
「あ。負けてる」
「おしゃ。うちの勝ちー!」
きゃはは、とナオさんが笑っている。
「今度は、湯原の娘さんも誘ってみたいな」
「大体電車で二時間くらいの場所だって。ちょっと足を伸ばせば遊べない距離じゃないね」
「あー。だから湯原は時々週末いないのか」
「会いに行ってるみたい。頻度は減らすらしいけど」
「減らすのか?」
「入学直後に体調崩してたのを心配してたから。その続きみたいよ? 最近は、向こうも友達できたから、少し減らすって言ってた」
「なるほど。いい親だなー」
うんうん、とナオさんが頷いているのが、なんか笑える。
「ナオさん。意外と湯原さんのこと気に入ってるね」
「おう! あのおっさんはいい人だからな」
笑顔で断言されると、なんだか微笑ましい。
「それはそれで、不思議な縁、ってかんじだけどね」
「それな。縁。まったく想像もしたことない感じで、なんかわくわくしとる」
「そうだね」
二人でゲームセンターの中を歩きながら、笑い合う。
ちょっと休憩として、飲み物を飲んで、
「会うとき楽しみな!」
「そうだねー」
それはそれとして、もう少し遊んでいこう。
さっきのもぐらたたきは負けてしまったし、そのままでいるのも悔しい。
「負け犬返上!」
「おっしゃこいやー!」
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