朝三暮四、信号待ち、アナログ
信号待ちをしていた。
手には買い物の荷物。
両手いっぱいなので、ちょっと重い。
レトルトや冷凍食品をそれなりに量を買い込んだため、結構ビニールが手に食い込んで痛みがある。
「うん。ちょっと買いすぎたかな?」
保存がきくものだし、今まで買いためたものも尽きてきたため、一度に買えるだけ買っておこうかと思った。
それで買ったものの、
「ちょっと重いよねえ」
軽く持ち上げて持ち直すものの、やっぱり重さは変わらないし、手の中で細くなってしまったビニール袋の持ち手が食い込む。
「いたいいたい」
ふう、とため息を吐きつつも、青信号を渡って、アパートへ向かうのだった。
+++
「てな感じでさ。やっぱり、一度に買う量を多くするより、ちょっとずつ定期的に買った方がいいかなあ」
「買い物に限らないですけど、家事の類はちょっとずつ毎日やるのがいいですよ? どうせ毎日のようにやらないといけないんですから。一回の負担が減るようにした方が楽です」
「うん。さすがはなさんなアドバイス」
その通りなのかもしれない、とは思う。
「気が付いたらやるといいんです」
「気が付かない時は?」
というか、正直家事をやるタイミングなんてぼくは分からない。
「気が付くようにしましょう? 気が付かないのは、部屋が汚いことに気づいていないとか、洗濯物が溜まっていることに気づいていないとか、そういうレベルですよ?」
「む?」
「カーペットに埃が落ちていたから掃除機をかけるというレベルですよ? 埃だけ拾ってゴミ箱に入れるんじゃなくて、掃除機までかけることです」
「・・・・・・・・・・・・なるほど」
たしかに、そういうときで言うと、ぼくはカーペットの埃なんて拾ってゴミ箱に入れるくらいだ。
「あとは、サンは一人暮らしする前はお母さんが家事をやってたんじゃないですか?」
「まあ、ほぼまかせっきり・・・・・・」
「じゃあ、サンがやってなかった分は全部お母さんがやってたんですから。今まで気づいていなかった分に気づくようになりましょうね」
「はーい」
なんというか、微妙にはなさんに説教されている気がする。
「はなさんは、普段からやってるの?」
「ええ。普段からやらされてましたから。今となっては自分でやるようになりましたね」
うーん。
「ぼく、お母さんに甘やかされてた?」
「そういうことかもしれませんね」
「むう・・・・・・」
にこにことはなさんが笑っているのが、なんだか面映ゆい。
「親孝行が必要ですね」
「そうだね」
頷く。
「まあ、正直、仕事量自体は変わらないわけですし、普段から少しずつやるのも、後でまとめてやるのも」
「夏休みの宿題みたい?」
「まあ、そういう感じで。・・・・・・でも、朝三暮四の故事とは違って、こちらは見かけだけでも量を変えることで、感覚的には楽になりますから」
「毎日のことだから、か」
「そういうことです。極端な話。大量を短い時間でやるって、結構負担なんですよ。長い時間をかけた方が気分はかなり楽なんです」
はなさんの言うことは至極もっとも、と思う。
「あとは、あれです。怠け者の節句働き」
「普段怠けてると遊びたいときに遊べない、って意味だっけ?」
「大体はそんな感じですね。普段遊んでいると、お祭りなり何なり、本当は遊ぶべき日に働かないといけなくなると」
うんうん、とはなさんは頷く。
「まあ、家事が仕事かどうかは評価が分かれるでしょうけど」
「仕事、と思わない方がいいよね」
「毎日、自分に必要なことですからね」
「うーーん」
「一人暮らしは、究極的には全部自分でやらないといけないんですし。全部仕事と思うと結構辛いですよ。休みなしのブラック企業になりますから」
「おおう」
はなさんの言うことに頷きつつも、
「まあ、ちょっと考えてみる」
「がんばってください」
+++
翌日、休日だったので、日の高いうちに掃除機をかけておく。
「・・・・・・掃除機かけるのって、結構面倒だよね」
コンセントを差して、動かして、うるさい音を我慢しつつ、部屋に一通りの掃除機をかける。
「これを、定期的に」
面倒くさいなあ、と思う。
「ていうか、だからロボット掃除機か。あれは放っておいても毎日動くし」
なるほどなあ、と頷き、掃除機をかける。
見える範囲に一回掃除機をかけ、電源を切る。
エアコンなどは、まだ一年目だし、掃除の必要はないだろう。
そういえば、ちょっとした隙間に埃とか溜まってたか、と思い出して、掃除機を引っ張る。
「・・・・・・・・・・・・ういういうー」
自分でも変な鼻歌、と思う歌を口ずさみつつ、掃除機を部屋全体にかけていく。
「さて、これでよし、と」
掃除機をかけ終わり、時間を見ると昼前だ。
「どうしよ。買ってきたのでもいいけど、外食べに行くのでもいいし」
悩みどころだ。
今日は特にはなさんとの約束もないし、一日フリー。
一人でどこか食べに行く、という気分でもない。
「洗濯機回しちゃったし、レトルトでも食べるか」
食べ終わるころには洗濯も終わるだろうから、そしたら干さないといけない。
「洗濯機。干すのも自動でできないか、と」
乾燥ができる洗濯機はあるけれど、ぼくの部屋に据え付けられているのはそれじゃない。
「ま、今日は天気いいし。昼に干せば夕方には乾くでしょ」
空気も結構からっとしているし、気温も高めだ。
「むしろ、ちょっと冷たい飲み物とかほしくなる頃合い」
レンジでレトルト食品を温め、皿に盛ってテーブルに置く。
「・・・・・・麦茶とか、いいかなあ」
麦茶用の茶出しポットを買う必要はあるけれど、毎日冷蔵庫に麦茶が入っているのはありだ。
「・・・・・・・・・・・・ふむ」
はなさん、と連絡先を呼び出して、メッセージを送る。
「はなさんは、麦茶なら、水出しとお湯出しとどっち派?」
送る。
しばらくして返信があった。
「えっと、『わたしの家は、沸かしたお湯にパックを入れて、冷めたところでポットに移して冷蔵庫に入れます』。なるほど」
ぼくの家だと、水出しだった。
ペットボトルを買うよりは経済的だろうし、検討してみよう。
昼食を食べ終わるころに、洗濯機の電子音が鳴った。
いいタイミングで、洗濯が終わったようだ。
「はいはいよ、と」
フリーな一日でも、忙しい忙しい、と思いながら、ぼくは洗濯物を運ぶ。
外はいい天気だ。
「・・・・・・・・・・・・む」
特に用事がないけれど、今日は外に出ようと思った。
いい天気だ。こもるのはもったいない。
洗濯物を干し終え、ぼくは部屋着を着替えた。
アナログの腕時計をはめて、カバンを身に着け、
「よし。行こ」
玄関のドアを開ける。
さて、どこに行こうかな。
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