藪から棒、最先端、おみやげ
今日は、はなさんの家に遊びに来ている。
静かな日である。
はなさんは、机に向かって何か書き物をしているし、ぼくは適当に買ってきた雑誌を開いている。
「・・・・・・はなさんてさ」
「はい」
ぼくが声をかけると、何か書き物をしていたはなさんが振り向いた。
「あ。邪魔してない? 大丈夫?」
「大丈夫ですよ。夏祭りの招待状を書いているだけですから」
夏祭りの招待状。
「招待状。・・・・・・あんまり聞かないだけに、なかなかわくわくする言葉だね」
「そうですね。だから、送ると喜ばれるんですよ」
机の上をちら、と見て、はなさんは微笑んだ。
「ボランティア?」
「ええ。老人ホームに。幼稚園の先生に頼まれました」
はなさんは、ほんと、色んなところでボランティアしてるよなあ、と思う。
「でも、どうして手書き?」
「そっちの方が素敵じゃないですか」
「素敵って言葉がさらっと出てくるあたり、はなさんクオリティ」
「なにがですか?」
ぼくのたわごとに、はなさんが苦笑している。
「手書きって、大変でしょ?」
「まあ、最初の一枚だけで、残りはコピーになるでしょうけど」
「なるほど。原本づくり」
「ええ。子供の手のコピー機です。同じものはコピーできないし、何か付け足されたり逆に減ったりしますけど」
「それはまた」
なんとも微笑ましいものだ。
「味があるっていっていいのかな?」
「そうですね。やっぱり喜ばれますよ」
ふうん、と頷く。
「確かに、小学生ぐらいの時に、そういうのやった気もするなあ・・・・・・」
んー、と思い出す。
「だめだ。よく覚えてない。なんか夏祭り企画して、出し物に手作りの輪投げかなんか作ったっけ?」
「手作り?」
「段ボール丸めて、棒を立てて、わっかを作ってさ」
こう、と手で示してみる。
「あら、かわいらしい」
「ほんとうにかわいらしい工作だったと思うよ。ぶっちゃけ今ならもっとうまく作れるね」
「子供のころの工作なんてそんなものでしょうに」
「最先端の工作力で、せいぜい輪投げっぽいものっていうのも、情けない話だけどね」
「喜んでもらえました?」
「わっかが紙製だから、軽くてまともに飛ばなくてねえ・・・・・・。回転させて投げるとうまく飛ぶんで、ご老人方の前でお手本見せたら、すっごい喜ばれて褒められて、ぼくもすっごい喜んでた覚えがある」
「微笑ましい」
「まったくだね。自分でもそう思う」
あの当時は、自分がすごい気がして、能天気に喜んでいたけれど、
「・・・・・・今思えば、孫みたいな年の子が無邪気にはしゃいでたら、楽しかったんだろうね」
「普通の大人が見てたって、結構楽しいですよ」
「そうだね」
自分がそういう場面を見たとして、微笑ましい気分になるだろうな、とは思う。
「・・・・・・ところで」
「ん?」
「何か、話があって声をかけたんじゃないんですか?」
「おお。そうだった!」
ぽん、と手を打つ。
「それはともかく、ってやつだ」
「はいはい」
「はなさんってさ。怖いものある?」
「・・・・・・お饅頭?」
「いや、落語でなくて」
「なんですか? 藪から棒に」
はなさんがずいぶんと訝し気な顔をする。
まあ、唐突な質問だし、当たり前か、とも思う。
「いや、最近暑くなってきたし、夏も近いじゃない?」
「そうですね」
「夏といえば、海と山とお化けじゃん」
「怪談、ですか」
「そそそ。・・・・・・ぶっちゃけ、ホラーとかどう?」
「全然平気です。・・・・・・ああ、いえ、暗闇とか肝試しはしっかり怖いんですけど、映画とかは全然平気ですね」
「作り物は怖くない、と?」
「ええ。どちらかというと、街頭の下、灯台下暗し、とかの暗闇部分とかの方に怖さを感じます」
「あー。想像で怖くなるの?」
「ええ。時々猫とかが潜んでいると、目が光って見えるのでびっくりするんですよね」
「ちょっと分かる」
「映画とか、見てる時は平気で、見終わった後に家の中の暗闇が怖くなるタイプです」
「あー・・・・・・」
すごく分かる。
「サンはどうなんですか?」
「ぼく? 全然だめ」
肩をすくめて首を振る。
「まったく?」
「うん。ホラー映画にホラーゲームにお化け屋敷。全部だめ」
「あら意外」
「だって、あれって見た人を怖がらせるために知恵を絞ってるじゃん。ぼくは常々思ってるよ? きっと本物より怖いって」
ぼくが顔をしかめて言うと、くすくすとはなさんが笑っている。
「まあ、そうかもしれませんね。わたしは本物見たことありませんが」
「ぼくは一生見たくない」
「ふふふ」
はなさんは笑っているが、ぼくとしては笑いごとではない。
「サークルの先輩たちがさー、なんか夏休みに肝試しを企画してるっぽくてさー」
「あら」
「ぼくは絶対逃げようと思う」
「逃げられますかね?」
「逃げ切る。・・・・・・とりあえず、タイミングを見てぼくは実家に帰ります」
「あらまあ」
「そして、イベントが終わったころに、何食わぬ顔して戻ってくるよ」
きりっとしていうと、はなさんが笑いだした。
「そこまでやらなくても、本気で拒否すれば、あの先輩たちだって無理に誘わないでしょうに」
「甘いね。やつらはいつのまにか後ろにいる!」
「その方がむしろホラーですが?」
「というか、ナオさんが逃がしてくれない」
「あー」
ナオさんは絶対に捕まえに来る。
「ナオは、そうでしょうねえ」
「ナオさんはイベントごとは絶対外さないからね」
「絶対追いかけてきますね」
「それこそホラーのごとく」
あはは、とはなさんが笑っている。
ぼくも苦笑する。
「ということで、何かしなければならなくなる前に逃げようかと思ってね」
「なるほど」
「はなさん。ぼくのためにナオさんを足止めしてよ」
「構いませんけど。わたしとしては、サンと一緒に肝試しとか、してみたいですねえ」
「しまった、敵がここにも」
はなさんは笑顔だけれど、ぼくとしては冗談じゃない。
「まあ、そこまでサンが嫌がるんじゃ、無理強いはできませんか」
「さすがはなさん!」
「怖がってるサンとか見てみたいですけどね」
「・・・・・・・・・・・・」
「ああ、そこまで逃げ腰にならなくても大丈夫ですよ」
ふう、と腰を下ろす。
「まあ、うまいこと行ったら、何かおみやげ買ってくるよ」
「あら、ありがとうございます」
のち、おみやげを渡しに行ってそのままホラー映画祭に巻き込まれるのだが、ぼくはまだそれを知らない。
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