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リラクゼーション、株式会社、麻婆豆腐

「麻婆豆腐にはリラクゼーション効果があると思う」

「今日の話題は出オチですか?」

「初手から厳しすぎる!」

 はなさんがにっこり笑っている。

「なんか今日は反応厳しくない?」

「いえ、いつも何の話ですか、で始めるのも芸がないかと思いまして」

「芸とは・・・・・・」

 はなさんの言動が謎だなあ、と思いつつも、ぼくは首を振って、

「話を戻そう」

「?」

「麻婆豆腐にはリラクゼーション効果があると思う」

「ギャグじゃないんですか?」

「違うよ?」

 そんな心底不思議そうな顔をしないでほしい。

「いやだって、辛いものにはそういう効果があると思わない?」

「辛いものに心を落ち着ける効果はないでしょう」

「そうかなあ・・・・・・」

 んー、と考える。

「辛いものを食べると心が落ち着く。ない?」

「落ち込んでいる時に辛いものを食べると元気になる、というならわかりますが」

「体温が上がって、汗が吹き出し、涙も出てくる」

「・・・・・・・・・・・・正直、辛いものってそこまで求めるほどではない気もしますね」

「でも、なんか無性に食べたくなること、ない?」

「あります。・・・・・・何でしょう? 辛い、と分かっていると、大体こんなものか、という感じることはあります」

 ジャンクフードのように、普段は別にそうではないのに、なんとなくそう食べたくなる時がある。

 あと七味は味を変えるにも便利だし、

「辛ければ辛いほどそれ以外には無心になる」

「すべてを忘れる時はあります」

「・・・・・・・・・・・・どんだけ辛いのならいける?」

「世界が赤くなるくらいには」

「・・・・・・・・・・・・そっか」

 はなさんの辛さの限界値が分からない。

「はなさんは辛いの平気な人?」

「ある程度は。辛口のカレーくらいは平気です。激辛はだめですが」

「そうなんだ。ぼくはね。ワサビとからしは平気なんだけど唐辛子には好みがある」

「?」

 答えが分かりづらかったか、はなさんが首を傾げたので説明する。

「いや、唐辛子ってさ、辛い中に甘味があるやつと、ひたすらに辛くて痛いだけのやつとあるでしょ?」

「ああ、なるほど・・・・・・」

「辛いだけのやつはだめだ。あれは食べ物じゃない」

「痛いんですよね。・・・・・・水とか飲んでも消えなくて」

 食べた後も、なんだかひりひりとした感覚が口の中に残るのが不快に感じてしまう。

「水だけだと辛いのは消えないっていうのは聞いたことある」

「そうですね」

 うんうん、とはなさんも頷いている。

「あと、辛いだけのやつは、唐辛子の欠片がビニールかプラスチックかってくらいに固くない?」

「そうですね。それもわかります」

「ただ辛いだけじゃ美味しくないと思う」

「美味しい辛さ。・・・・・・そういうのは食べたくなりますね」

「で、最初の話に戻る」

「?」

「麻婆豆腐にはリラクゼーション効果があると思う」

「無理やり戻ってきた感がすごいですが」

 ぼくとしては、結論は変わっていないのだけれど。

「いいかい?」

「はい」

「まず。赤い」

「赤いですね」

「そして、豆腐が白い」

「見た目がいいですよね。麻婆豆腐は」

「見た目がいい料理って、見てるだけでもおいしい」

「見てるだけでも。・・・・・・言いたいことは分かる気がします」

「ねぎとか散らす?」

「彩りが増えましたね」

「白いご飯を添える」

「美味しいですね」

「ほら。リラクゼーション」

「・・・・・・・・・・・・」

 はなさんが何か考えている。

「この場合のリラクゼーションって、美味しいイメージが付けばなんでもいいのでは?」

「・・・・・・・・・・・・」

 確かに、とか思ってしまった。

「確かにさ。味の想像がしやすくて、美味しい。おなかが落ち着く想像ができると、心も落ち着く」

「なんかうまいこと言ってます?」

「いやね。つまりさ」

「はい」

「ぼくは麻婆豆腐が食べたいです」

「それだけのためにここまで引っ張ったんですか?」

「だって」

「だってって、情けない顔しないでくださいよ」

「作るのは簡単なんだよね。今はスーパーにもソースが売ってるし」

「レトルトのやつですよね。豆腐を切って、フライパンで炒めれば完成するという」

「簡単に作れておいしいから好きだよ? ごはんを炊いたうえにぶっかけて麻婆丼」

 赤いご飯。

「・・・・・・使っているのが豆腐だから、なんだかんだ健康にもよさそうな気が」

「辛いものばかり食べているとおなか壊しますよ」

「あー。それはあるか」

 食べすぎはよくないか、と思う。

「・・・・・・・・・・・・今日は家で麻婆豆腐を作ろう」

「よかったですね」

「はなさんも食べにくる?」

「あら。ご相伴にあずかってもいいんですか?」

「もちろん」

 うんうんと頷く。

「スーパーで豆腐と麻婆豆腐の元を買って帰ろう」

「シンプルな食事ですね。卵スープも追加しましょう」

「じゃあ、杏仁豆腐をデザートに」

「いいですね」

「あと、辛味増しに豆板醤を」

「追加で辛くすると」

「野菜も何か足した方がいいかな?」

「揚げなすをごはんに載せて、その上から麻婆豆腐をかける」

「何それおいしそう」

 夕飯が決まった。


+++


「株式会社サン食品提供。麻婆丼」

 ドン!

「なんか本当にありそうなのでやめましょうよ。そういうこと言うの」

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