フリースタイル、木炭、激安
「不思議な話」
「どうしたんですか?」
「コンビニにね? 木炭が売ってた」
「・・・・・・・・・・・・木炭?」
「そう」
ぼくは、はなさんに、コンビニで見たものについて話していた。
「なんかね、ティッシュとかが並べてあるところにね。木炭の箱があったよ。ホームセンターとかで売ってるやつ」
「へー」
はなさんが何かを考えている。
「夏が近いですから、キャンプ用でしょうか?」
「こんな街中のコンビニに? 近くにキャンプ場があるわけでなし、あったとしてもコンビニに置く?」
なんというか、コンビニというのは、無駄のない品ぞろえの店と思っている。
要は、日常生活の中で使われるものばかり置かれている、とぼくは思っている。
果たして今の時代に、日常生活で木炭が必要な時とはいつなのか。
「コンビニの店長の趣味というのは?」
「えー・・・・・・」
コンビニの品ぞろえが、店長の趣味で決まるだろうか。
「コンビニって、本社が品揃え決めるんじゃないの?」
「さあ? わたしもそこは知りませんし」
ふむ、と考える。
「あり得るのかなあ?」
「あまり深く考えても仕方ないのでは? 売っているものは売っているのです」
「・・・・・・まあ、そうだね」
木炭は、
「でも、木炭と見ると、燃やしたくなるじゃない?」
「危険思想ですか?」
「違うよ! そうじゃなくてさあ、バーベキューとか、したくならない?」
「まあ、わたしの家は、父が好きですからねえ」
そういえば、以前も誘われたことがあったか。
「バーベキューはいいと思うの」
「そうですねえ。・・・・・・でも、二人でやるのはちょっと」
「ナオさんも呼ぶ」
「んー」
「大人が欲しいか」
「火の扱いなら、ある程度できる人がいるといいんですが」
「・・・・・・ふーむ」
考える。
「あ」
「あ」
二人で、多分同じ人の顔が浮かんだ。
「「湯原さん」」
+++
「で、私が呼ばれた、と」
呼び出しに応じてくれたのは、三十代の男性である。
大学にいるには、実は微妙に似つかわしくないようにも感じるが、これでぼくらと同期だ。
というか、サークル四人の新人のうち、最後の一人がこの人である。
「なんだー? 湯原はサンとはなの頼みを聞いてくれないのか?」
ナオさんが湯原さんに絡んでいる。
「いえいえ。ナオさん。若い子たちの頼みだ。こんなおっさんでよけりゃ、骨折りさせてもらいますよ、と」
湯原さんは、木炭の入った段ボール箱を軍手を付けた手で持っている。
「しかし、はなさん。本当に庭先をお借りしてもいいので?」
「いいんですよ。父と母からも許可は取りましたし、後片付けだけきちんとすれば」
湯原さんとはなさんが話すと、なんというかはなさんがぼくより数段大人に見える。
「つーか。あれだ。なー。サン?」
「何がなー、なのさ。ナオさん」
「これ、あれだろ? 親睦会。湯原は一人だけ、新人歓迎のあとサークルに顔出さないからなー」
「あー。そうだよねえ? あの後も、イベントやったけど全部不参加だし」
「いや、それはご迷惑をおかけして」
この中で一番年上だというのに、湯原さんは腰が低い。
「つーか。ほんと、なんでお前来んかった?」
「いやあ。娘が熱出してたもんで」
予想外な言葉が飛び出した。
「湯原。娘いるんか」
ナオさんが茫然と呟いている。
「ええ。まあ。今年で十八歳になります」
「ぼくらと同い年、だと?」
戦慄。
「私が十六の時の子供でしてねえ・・・・・・」
いやあ、となんか照れたかのように笑っているが、
「大学生?」
「ええ。こことは違う大学に通ってます。もっと海に近いところで、ダイビングのサークルに入ったとか」
「ふへー」
もはや感嘆しかない。
「あら? 二人は知らなかったんですか?」
「はなさん知ってたの?!」
「ええ。ちょっと前に偶然」
「予想外過ぎる」
「あっはっは」
湯原さんは軽く笑いながら、バーベキューコンロの台の中へ木炭を積んでいる。
「木炭、フリースタイル積み」
山のように木炭を積みつつ何か言ってる。
「何を言っているの?」
「いやあ」
お恥ずかしい、とテレテレしているが、おっさんと自称する割には、
「湯原さん。子供っぽいね」
「そうですか? いやあ、うれしいなあ!」
はっはっは、と湯原さんは笑っている。
「いや、笑ってていいの?」
「私、子供に戻りたくて大学来たんですよ」
「はあ?」
木炭に火を点け、うちわであおいで大きくしながら、湯原さんは言う。
「子供のころは、なんでもできるような気がして、当時付き合ってた女性に子供ができたって、聞いた時も、『俺なら何とかなる!』って大口叩いたもんです」
ずいぶんと苦い顔で笑う。
「ちょっと想像すりゃ分かる。高校中退で、まともに子供を育てられる人間になれるわけがない。相手のご両親にも自分の両親にも意地を張ってずいぶんと迷惑と心配をかけました」
火のついた木炭が赤々と燃える。
積んでいた木炭を崩して広げると、その上へ網を載せ、
「子供を死なせかけて、自分も過労で倒れちまって。親は泣かせるわ。警察の厄介にはなるわ。・・・・・・泣いてる赤ん坊取り上げられて、慌てて追っかけてみりゃ、おふくろがあやしてずいぶんと穏やかな顔で寝てるんだもの。・・・・・・恥も外聞もなく、実の親に土下座しましたねえ」
すごい穏やかな口調で語っているが、火に照らされている雰囲気もあって、すごく重い。
「おかげで、大学にやれるまでに娘も元気に成長できて」
「よかったですね」
はなさんが微笑んでいる。
なんか涙が出てきそうだ。
「周りの人の助けや人情を実感しましたよ。いろんな人に頭下げて、ようやく自分は人並だった。自分にできることなんて、本当にちっぽけだと」
でもねえ、と湯原さんは続ける。
「・・・・・・娘が高校の友達連れて遊んでんの見て、元気なのを見てたらね。私も、もう一回やってみようかねえ、って」
「もう一回?」
「ええ。働いて働いて働いて。娘のために時間使って、自分の時間なんかほとんど持てちゃいなかったが、娘が自立し始めて、暇ができてくると、あれもやりたい、これもやりたいってね?」
にや、と湯原さんはいたずらっぽく笑う。
「で、高校卒業して大学入ったら、娘は本当に手を離れちまうし。運よく、あくせく働かんでもある程度金を稼ぐ程度のことはできるようになったし」
網の上に肉を並べていく。
「そうすっと、まあ、なんです? 暇があって、金もある。いろいろ試してると、娘が楽しそうにしてるのに、私も混ぜてほしくなってね。私だってまだまだできるぞ、と」
じゅーじゅー、と肉がいい音を立てている。
「で、大学に?」
「ええ。娘を抱えてるときは、若者が楽しそうにしてるのを横目に、自分と娘のことで手一杯だった。でもねえ。楽しそうだって、外から見てるだけじゃあ、我慢できなくなってねえ」
「年を考えろ、おっさん」
「なあに。三十代前半だ。健康診断に病院に行ったときだって、看護師さんにゃあ、『まだ若いんだから』って言われたんだ。私はまだ若い。むしろ、年を考えれば、ここが最後のチャンスでしょう」
吹っ切った、そんな感じの笑顔だった。
「だからねえ。おっさんとはいえ、いろいろ遊びに誘ってくれると、嬉しいねえ」
はっはっは、と湯原さんは笑っている。
「・・・・・・・・・・・・うーむ。濃い人生送ってんなあ。湯原さん」
焼けた肉を載せた皿を渡された。
「私の人生はいい人生だった。で、これから第二の人生のつもりで、私は大学に来たんだ」
「・・・・・・・・・・・・なんだか身が引き締まる思いです」
はなさんは至極真面目な顔をしている。
「そんな気張らんでおくれ。私は、皆と同期。気楽に付き合っておくれ」
はっはっは、と湯原さんは笑っている。
激安セールで買った肉や野菜を、湯原さんは実にうまく焼いてくれた。
「湯原。美味いぞ!」
「はいよ! どんどん食べなせ!!」
二人が仲良くなっているのを見て、ぼくとはなさんは顔を見合わせて笑う。
年齢が一回り違うけれど、なんだかこの四人は仲良くやっていけそうな気がした。
出しちまったよ。四人目。
こういうキャラは好きなんだけど、どうなんだろうなあ、とちょっと戦々恐々としています。
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