習字、音楽番組、ホットコーヒー
「はなさんは、習字ってしたことある?」
「学校の授業で」
「それ以外は?」
「まあ、中学生ぐらいまで、教室に通ってましたね」
「だよね」
うんうん、とはなさんの書いた綺麗な字を見る。
ぼくの書いた字は、ちょっと歪んで見える。
「ぼく、一応習字は習ってたけど、あんまりうまくないよねえ」
「そうですか?」
はなさんは首を傾げるが、並べてみると、
「はなさんの字の方が綺麗」
「ありがとうございます」
はなさんは微笑んで頷いた。
「でも、サンの字も読みやすいと思いますよ?」
「そうかなあ?」
丁寧に書きはしたけれど、どうにも、という感じがぬぐえない。
はなさんの字と比べているから、なおさらなのかもしれないけれど。
今は二人で、大学の講義のノートを見せ合っている。
講義のあとにたまにやる。
正直、大学に抱いていたイメージとして、数学とかないものと思っていたのだけれど、ぼくの通う大学では必修に数学や英語の講義がある。
授業内容は、高校の時とさほど変わらない。
なんで大学でまであの勉強をやるのか、と思わなくもないけれど。
一週間に一回しかないので、授業の密度自体は、高校のそれとは違う。
そういう授業で取ったノートは、講義の終わりに見せ合って補完し合っている。
何せ、高校の教室とは違い、大学の講義室はそれなりに広いため、黒板の文字が見えにくいことも多いからだ。
ある程度前の方に席を取っても、たまに見えないことはある。
「先生、字が汚いです」
「言っても仕方ないですね」
ふふふ、とはなさんは苦笑している。
はなさんは、板書の書き写しはほぼ完ぺきだが、ぼくの方は七割ほどだ。
無駄話もほとんどなく進行していくため、結構進みが早い。
はなさんと見せ合うため、丁寧に書きたいぼくとしては、ちょっと速くて困る。
はなさんは、特に苦労もせずに板書できている見たいだけれど。
「コツとか、ある?」
「いえ? ひたすら書くだけですね」
「むう」
難しいなあ、と思う。
ボイスレコーダーや録画、ノートパソコンで取る人もいるけれど、ぼくは普通に手書きだ。
「・・・・・・まあ、教科書読んで復習すればいいんですし、それほど板書にこだわる必要もないですよ」
「そか」
ふう、とはなさんのノートを写しながら、ため息を吐く。
「正直、使わない系統の知識である予感がいっぱい」
「諦めましょう。勉強ですから」
「・・・・・・・・・・・・物分かりのいいセリフは嫌いだい」
「あはは」
写し終え、ノートをはなさんに返す。
「大学に来てまで、何やってるんだろうね?」
「いえ、大学は学校ですから。勉強するところですから」
「・・・・・・・・・・・・みとめたくないなあ」
「サン」
はなさんのたしなめるような声。
遊びに来ているわけではないけれど、
「一応さ、専門的なことを学びに来たのではなかろうか」
「具体的には?」
「アンドロイドの作り方」
「教えてくれるわけないでしょう。そんなの」
「こういう感じで」
ノートの端に有名な猫型ロボットを描いてみる。
「無駄に上手いですね」
「ほんと、無駄技能だよねえ?」
小学生ぐらいの時に模写しまくったためか、今も書き方は覚えている。
「顔が食べられるヒーローとかも結構描ける」
「ほう? ・・・・・・今度のボランティアは幼稚園にしましょうか」
「最近の子供は喜ばないんじゃない?」
「そうですか?」
最近の子供の流行りなど知らないから、はっきりとしたことは言えない。
ただ、書いて喜ぶなら、
「日曜朝の変身ものとかではなかろうか」
「それもイメージですね」
子供の好きなものなんて、時代関係なく同じ気もするけど。
「はなさんだったら、当時のヒーローって何?」
「あー。・・・・・・日曜日の朝は早起きでしたねえ」
なんかしみじみ呟いてる。
「ぼくは週刊少年漫画の主人公だったけどね」
「手が伸びるやつですか?」
「いや、派出所のおまわりさん」
「・・・・・・・・・・・・ヒーロー?」
「ヒーローじゃん」
「・・・・・・・・・・・・まあ、ヒーローですか」
警察官がヒーローでなくてなんだというのか。
「なんだっけ? 日曜日の朝はねえ。アニメに特撮に音楽番組に、といろいろ見てたなあ」
「日曜日なのに、外に遊びに行こうとしないと」
「日曜日は家族でテレビを見る日だよ。大河ドラマとかも」
「なるほど」
思い返してみると、日曜日はテレビを見ている時間が長かった気もする。
「・・・・・・・・・・・・大学来て一人暮らし始めてからは、テレビなんてながら見しかしてないけど」
「ドラマとか、見ないんですか?」
「あんまり。バラエティの方が好き」
「そうですか」
「はなさんは、ドラマ見るの?」
「言われてみると、わたしもあまり見ませんね。大河ドラマとかは毎週見てますけど」
「ね」
子供のころは、テレビばかり見るもんじゃない、と言われたけれど、いざ自由に見てもいいようになると、それほど見たいものでもなくなる。
「わがままな」
「本当に」
くすくすとはなさんと笑い合う。
「外に面白いことがたくさんあるから」
「そうですか?」
「はなさんはテレビの中にはいないからね」
「サンもそうですね」
ふふふ、と笑いながら、はなさんは立ち上がった。
「帰りましょう。なんだか、ちょっと歩きたい気分です」
「そうだね。・・・・・・ちょっと喉乾いたし、どこか行く?」
「んー。・・・・・・どこかでテイクアウトの飲みものを買って、その辺散歩しましょう。今日はいい天気ですし。まだ夕方まで時間もあります」
「そうだね」
ぼくも立ち上がる。
「じゃ、行こうか」
ホットコーヒーを買って、温くなるまで話しながらはなさんと二人で話しながら歩く。
いい天気なのも相まって、穏やかな気分になる日だった。
評価いただけると励みになります。
よろしくお願いします。




