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チェックメイト、オノマトペ、のらりくらり

「はなさんってさ、チェスできる?」

「コマの動かし方ぐらいは知ってますけど、やり方はしらないですね」

「ぼくも大体そんな感じか」

 ふうむ、と唸りながら、スマホをスワイプする。

「どうしたんですか?」

「うん? マンガでさ。チェックメイトって言ってるから」

 キャラが黒いコマを動かし、にや、とキメ顔で言い切っている。

「ああ。・・・・・・チェックメイトということは、勝負が決まったんですね」

「? そうなの?」

 次のコマで白いコマが動かされて、キャラが、『ふ、読んでいたとも』とか言ってるんですけど。

「チェスの場合、チェックで、相手のキングを取れる状態。この状態は、まだ負けではありません。チェックメイトは、どのコマをどう動かいてもキングを取れる状態です。・・・・・・チェックメイト、と言いながら指したとしても、間違ってたら恥ずかしいですね」

「・・・・・・・・・・・・このマンガ。キャラが三回チェックメイトって言ってるんですけど。すごいキメ顔で」

「・・・・・・・・・・・・そういうこともありますよ」

 はなさんも、なんとも言えなさそうな顔をしている。

 結構知能指数高めなキャラが策略を巡らしている系の漫画だと思っていたけれど、そう聞くとギャグマンガにしか見えない。

「・・・・・・じつはギャグマンガか、これ」

「作者が気分だけで決めたのでは?」

「いや、ここまでで結構伏線をしっかり決めてたし、実はこのキャラはオバカです、という複線かもしれない!」

「・・・・・・まあ、今後の展開でわかりますよ」

 読み終わったのでアプリを閉じる。

「・・・・・・いや、ぼくも単純に作者のミスじゃないかなあ、とは思うけどね」

「ふふふ、まあ、その作品世界では、チェックメイトはそういう使い方をするんだ、と思っておきましょう」

「そうだね」

 あまり深く考えない。

 漫画に限らず、創作物を楽しむ方法の一つだと思う。

「・・・・・・しかし、ドカン、とか、どん、とか。オトマノペは面白いね」

「オトマノペ?」

「ほら、ええっと、なんだ? 擬音表現」

「ああ。音とかを文字で表現するやつですか」

「そうそうあれ」

「おとまのぺ?」

「おとまのぺ」

「・・・・・・オノマトペでは?」

「え?」

「え?」

 スマホで検索。

「・・・・・・オノマトペだった。・・・・・・ぼくずっとオトマノペって言ってたよ」

 うわあ、と頭を抱える。

「覚え間違いですねえ」

「母音の並びが同じだから聞き間違え」

「・・・・・・ああ。たしかに。オトマノペとオノマトペ。・・・・・・なるほど」

「いや、なんかそうしみじみと頷かれるとなんかいたたまれない」

 うう、とうつむく。

「まあ、自分でも気づいていない思い違いって、結構あるでしょうしね」

「・・・・・・はなさんは何かある?」

 聞いてみたが、はなさんは顎に手を当てて考え出す。

「うーん。どうでしょう。・・・・・・自分で気づいていないから」

「記憶でなんかない?」

「幼いころなら、ツーリングが二輪車の旅行のことだと思ってた、とか?」

「あー。でも、小さい時なら仕方ない」

 小さい時なんて、それこそ数えきれないくらいそういう間違いはあった気がする。

「覚えてないだけで、結構いろいろやらかした気がするものね」

 子供のころは楽しんでやっていた気もするが、今思い返すとなぜそうしたのかわからないことは多い。

「親に聞けない話ですよね。絶対何かネタ持ってますよ。あれ」

「聞きたくないやつね。・・・・・・ヘタに友達連れていくと何か語りだすやつ」

「ありますよねえ」

 はあ、とため息を吐く。

「子供のころなんて、ほんと怖いもの知らずだもんね」

「そうですね」

「子供の時なんて、ナメクジを砂場に転がして唐揚げ、とか言ったり、カタツムリを手の平に載せたり、平気だったもんなあ。・・・・・・今は無理だけど」

「そんなことしてたんですか?」

「そんなことしてた。どっちかというと、友達のやり口に付き合ってただけだけど」

 うあー、と転がる。

「やばい。一度思い返すと、どうして当時はあれをなんとも思っていなかったのか、とか思ってしまう」

「黒歴史ってやつですね。・・・・・・子供は本当に恐れ知らずですよね」

「はなさんは、ない? アニメのキャラのセリフとかポーズの真似とか」

「あー。それはありますね。周りみんな見てますから。一緒に見ると、なんて言うか、同じポーズを取って連帯感があって、テンションが上がるんです」

 子供のころなんてそんなものか。

「まあ、かっこいいキャラの真似すればテンション上がるよね」

 小学生の帰り道、雨あがりに持っていた傘で必殺技の真似とか、チャンバラとか、いろいろやってたなあ。

 しみじみと思い返していると、はなさんがふふふ、と笑っている。

「アルバムでも引っ張り出してみれば、きっとそういう思い出もたくさんあるんでしょうけど」

「・・・・・・見たくねえー」

 黒歴史は黒歴史のままにしておきたい。

 暴いてはダメだ。

「そうですね。自分一人だとしても、きっと悶絶してしまうでしょうし」

「・・・・・・・・・・・・ね」

 しょうがないよね、と思う。

「それに、いまの自分と比べると、昔の自分は本当になんか同じ人間かってくらい違いますし」

「そんなに?」

「昔はここまで本を読んでません。敬語でもなかったですし、何なら握りこぶしで喧嘩の毎日だった気も・・・・・・」

「荒れすぎでは?」

「サンはどうなんです?」

「んー」

 考える。

「どうだろう?」

 昔の自分。

「あんまり、のらりくらりとはしてなくて、むしろ即断即決傾向にあったような」

「今も割と即断即決では?」

「いや。今は選ぶ前にそれなりに考えるよ? 直感は大事にするけど。昔は本当に何も考えてなくて、よく喧嘩した気がする」

「そういうサンも、ちょっと見てみたいですけどね」

「それを言うなら、ぼくだって」

 お互い、大学生になって初めて知り合ったのだから、それ以前を知りたいと思うのは、自然なことだと思う。

 恥ずかしいこともたくさんあるから、きっと話すことはないだろうけど。

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