サラダバー、素うどん、デジタル
はなは、珍しいものを見た、と思った。
サンが、自分以外の人間と昼食をともにしている。
大学の学食だ。
外は明るく、雨の降る気配はない。
今日は午前に講義がないため、昼からの講義になる。
昼食となるものを家で摂ってきてもよかったが、用意するのも面倒で、学食で食べることにしたのだ。
サンに連絡をすれば、サンも同じようにする、ということで、学食で待ち合わせをすることになった。
そうして学食を訪れてみれば、サンが別の人間と席を共にしている。
「・・・・・・ナオですか」
向かいに座るのが誰か、と思えば、ナオだ。
やっぱり珍しい組み合わせ、と思ったところで、最近はそれほどでもないですか、と思い直す。
この間ナオがサンに絡んでから、サンはたまにナオを話すようになった。
ふふふ、と笑いが漏れる。
大学に入学して以降、サンははなと一緒にいることが多く、というか、はなの知る限り、はな以外と一人で話していることはなかったと思う。
「・・・・・・・・・・・・ほうほう」
なんだか話が弾んでいるように見える。
なんというか、子供の成長を見守る親の気分。
「いえ、それはないですけどね」
とりあえず、話しかけましょうか、と近づいていく。
「あ、はなさん」
「おー。はな。よっす!」
「こんにちは、サン。ナオ」
サンが先にはなに気づき、背を向ける形になっていたナオが振り返りながら手を挙げて挨拶してくる。
「二人は、もう食べ終わったんですか?」
「ぼくはまだ」
「うちはもう食べ終わった。サンがはなを待ってるて言うから、ちょっと付き合ったろ、と思ってな?」
ナオとサンは、セルフサービスのお茶で話をしていたらしい。
午前の講義が終わる前で、まだ人が少ないから問題はないだろう。
もう少し時間が経って人が増えてきたら、席を取っているのはよく思われないだろう。
「はなも昼飯まだか」
「そうです。自分で用意するのも面倒で」
ナオの言葉に頷きつつ、はなはナオの隣の席に座る。
「ぼくもそう」
「うちは午前一コマ講義あったからなあ。午後からも講義あるし」
「普段は、どこで?」
「講義あるときは大学。ない時は大体インスタントかなあ」
ナオはからからと笑っている。
「健康に悪そう」
「若いうちはこれでいい! まあ、腹は膨らんでも、あんまり身になってる感じはしないけどな!」
けらけらと笑う。
「別に、弁当屋とかの弁当でもいいんだけどなあ」
「この辺弁当屋とかあったっけ?」
「サンの家は、うちの家と大学挟んで大体反対側だろ? うちの近くには弁当屋があるんだよ」
「へー」
弁当屋ですか、とはなは首を傾げる。
「コンビニの弁当と何がちがうんですか?」
「作りたての温かさ」
「レンジとは違うと」
「そりゃそうだ。それに、牛丼屋のテイクアウトとかもあるし」
「テイクアウトするの?」
「サンはしねえの?」
「しないねえ。ぼくはそのままお店で食べる」
「えー」
「だって、持って帰ったらゴミが増えるじゃん」
「・・・・・・・・・・・・なるほど」
なんともわかりやすいサンの言葉に苦笑する。
「うちは基本的に家でテレビ見ながら食う!」
「お行儀悪いですよ」
「誰も見てないし」
「一人暮らしだとそうですけどね」
ナオも一人暮らしでしたか、と頷く。
「それに、持って帰る間に冷める」
「チェーン店の牛丼が多少冷めたくらいで味変わるかい」
「気分的な問題。・・・・・・あとは、テイクアウト用のあの容器が食べにくくて嫌い」
「それはよくわからんな!」
けらけらとナオは笑っている。
「あ、と。はなさん、結構いい時間だ」
サンが腕時計を見ながら言う。
「・・・・・・そうですね。じゃあ、サン。昼食買いに行きましょうか」
「そうだね」
「お? うちはまだここで少し待ってる」
「いいんですか?」
「んー。お茶はあるしな。どうせ、次の講義までは暇だから、席取っといてやるよ!」
「ありがとうございます」
お茶はセルフサービスだし、とナオはお茶をすすっている。
「じゃあ、行きましょう。サン」
「うん」
二人で外から学食の列に並ぶ。
注文して、受け取る方式だ。
「何食べる?」
「お昼ですしね。・・・・・・うどんを」
「素うどん?」
「きつねで」
「なるほど。じゃあ、ぼくもそれでいこう」
サンと同じ列に並ぶ。
「きつねうどん。・・・・・・油揚げ」
「本当に同じでいいんですか?」
「足りなきゃ、別に何か買うよ。・・・・・・サラダバーとかあるし」
「そうですか」
サンは割と細身なのだが、はなの見ている限り結構大食いだ。
まあ、副食とか、小鉢も結構充実している食堂ですしね、と考え、
「そうですねえ。コロッケとかもいいですね」
「おなかに溜まるやつだ。・・・・・・食べるとお昼の講義が眠くなるよ?」
「それは大変」
くすくすと笑っている。
注文してきつねうどんを受け取り、
「サラダバーですか」
ボウル皿にトングでつまんだサラダを載せていく。
「さて・・・・・・」
見ると、サンが冷蔵庫を見ている。
ガラス張りの冷蔵庫。中身はデザートだ。
「食べるんですか?」
「んー」
ひょいひょい、とプリンを二つ取っている。
「・・・・・・二つも?」
「待っててくれるんだし、ナオさんに一つ」
「・・・・・・サンは優しいですねえ」
「そうかなあ?」
「律儀、かもしれませんけど」
「そっちのがいいよ」
ナオは、サンからプリンをもらえば喜ぶでしょうね、と考える。
ナオも、なんだかんだとよく食べるイメージがある。
よく食べるのはいいことですよね、と頷く。
「まあ、食べながら話すのはお行儀悪いですが」
「気を付けるよ」
サンが苦笑している。
この大学の学食は、会計もセルフだ。
トレイをカメラの下に持って行けば、載っているものに応じて料金が表示される。
サラダバーだけ、はかりに載せる必要があるが、
「・・・・・・」
何度か使って慣れたものだ。
さっさと終わらせて、電子マネーで支払う。
セルフのお茶を取って、トレイに載せ、ナオの待っているテーブルへ。
「おー。きつねうどん。・・・・・・腹減ってきた」
ナオの言葉に苦笑する。
「ナオさん。僕が来たときなんか食べてなかった?」
「まあ、食ってたけどな。ちょっと腹減ってきた」
「しょうがないなあ」
これあげる、とサンがプリンを一つ差し出すと、
「いいのか?!」
「いいよ。待っててくれたから。お礼」
「ありがとな!」
快活に笑って、ナオはプリンにスプーンを突き刺す。
「・・・・・・うまい!」
「よかった」
ナオの素直な感想に、サンがにこにこしている。
「ふふふ」
その様子を眺めていると、なんとなく微笑ましい気持ちになる。
「いただきます」
そのあと、食事を終えて食器を返して、三人で少しばかり話した。
席を立ったところで、ナオが言った。
「・・・・・・よし、今度三人でメシな!」
「はいはい」
「お店はナオのおすすめでお願いします」
「おう! 任せとけ!」
いい店見つけとくからなー、と元気に去って行く。
「ナオさん。元気だなあ」
「見ているこっちも元気になります」
スマホの時間を見る。
デジタル表示は、講義開始の十分前。
「行きましょう。遅れちゃいますから」
「うん」
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