エンドロール、パッチワーク、コーヒーメーカー
コーヒーメーカーをじっと見る。
「・・・・・・・・・・・・」
家電量販店には、コーヒーメーカーのコーナーがあるものだ。
一列全部、コーヒーメーカー。
お茶を淹れられるもの。
ミルがついているもの。
電動ミル。
そのほか。
「種類多いなあ」
「サンのミルはここで?」
「うん。ちょっと思いついた時に見つけたら安かったから」
ぼくが自分で買った電動ミルは、初めてバイト代をもらった時に買ったやつだ。
「ほんとはね? マスターが店で使ってるやつ買おうかって思ったんだけど。あれ、豆挽く機能しかないのに十万とかするの」
「・・・・・・・・・・・・プロ仕様、ですね」
値段を見た時、ドン引きした。
こだわりに戦慄したのだ。
「普通に通販で売ってたけど。買う人いるんだなあって」
「何か違うんですか?」
「その違いが分かる人になりたいけどさ。わかった結果あのこだわりに突き進むなら、わからないままでもいいかなって」
味の違いとか、そこまでこだわるようにはなりたくないな、と思う。
「正直、プロって怖って感じるよね。熱量のケタが違う」
「あはは・・・・・・」
はなさんは苦笑している。
「でも、サンがコーヒーメーカーを持っていないっていうのは、ちょっと意外でしたね」
「いや。普通にペーパードリップでいいからね? 手作業だけど、用意するのに手間がかかるわけではないし。一人分ならむしろ手ごろ」
「じゃあ、今日はコーヒーメーカーは買わないんですか?」
「買わないよ。見に来ただけ。・・・・・・どうせペーパードリップがほとんどでしょ。あって金属のメッシュ」
「味って違うんですか?」
「コーヒーの油分がペーパードリップだと紙に吸われちゃう? 飲みやすくなるんだったかな?」
バイト先のマスターは、こだわる割には、聞かれない限りこういううんちくを語らない。
語り過ぎるとうざがられるし、店の雰囲気を壊すから、ということらしいが。
「まあ、淹れ方で味は少しは変わるらしいよ?」
「へー・・・・・・」
「・・・・・・父さんはさ。机の上にコーヒーメーカー置いててね?」
「サンのお父さん?」
うん、と頷く。
「で、好きな時にコーヒー淹れて飲んでたね。ペットボトルの水も完備して」
父さんの部屋はいつもコーヒーの匂いがした。
「サンのお父さんって、在宅で仕事しているんですか?」
「そうだよ? キャッチコピー作ったり、ちょっとした翻訳とかしてる。本人は作家紛い、とか言ってたけど」
「ははあ・・・・・・」
はなさんと言いながらも、コーヒーメーカーの列を見やる。
「・・・・・・なんか、あれだね? コーヒーメーカーって、一列占有するほどのもんかな?」
「そうですね。なぜかありますよね」
「あれだよ。インスタントを飲んでいると、豆から淹れたコーヒーにこだわるようになるんだよ」
「そういうものなんでしょうか?」
「もしくは、家でもめちゃくちゃコーヒー飲みたい人がいる?」
「そんなにコーヒーが好きになると」
「むしろ、仕事で眠気覚ましに毎日コーヒー飲んでるせいで、逆にコーヒーがないと落ち着かないとか・・・・・・」
冷静に考えると、
「やばない?」
「そこは気にしないほうがいいですよ。きっと」
はなさんに、やんわりと首を振って止められる。
「コーヒーって嗜好品のはずだけど、なんか眠気覚ましの効果の方が印象的」
「仕方ないところはありますけどね」
苦笑を浮かべるはなさんと、コーヒーメーカーの棚から離れて、家電のコーナーを進む。
「サンは、アイロンは持ってますか?」
「一応、あるよ? お母さんに言われてるから、ハンカチとかの小物はちゃんとかけてる」
「偉い偉い」
はなさんに撫でられた。
「正直、あんまりアイロンかけてないしわのあるやつの方が、気楽に切れてぼくは好き」
「ぴしっとしている方が見た目はいいんですけど」
はなさんの服は、確かにぴしっとしてるけど、
「まあ、自分の服だし」
「しっかりしましょうね?」
「バイト先の服はちゃんとかけてるよ? 客商売だから」
「ああ。マスターはそのあたりこだわりますよね」
「というか、初日に接客と一緒にアイロンのかけ方も教わった」
「・・・・・・・・・・・・教育熱心ですね」
なんだかんだと、それでうまくやれているのだから、いいことを教わった、と思うべきなのだろうけど。
二人で家電コーナーを見回っていると、新しい家電がたくさんあって目移りする。
「ぼくさ。プロジェクターが欲しい」
「プロジェクター」
「そう。ぼくの部屋の壁白いでしょ? あそこにさ、プロジェクターで大画面にするの。・・・・・・百万するようなテレビより大画面にできるぜ」
ちょっと画質は荒くなるかもしれないけれど、十分許容範囲のはずだ。
「大画面の方がさ、映画も終わりのエンドロールまで楽しめるってもんよ」
「でも、ああいうのって部屋を暗くしないといけないから、結構目が悪くなりそうですよね」
「そこだけは気を付けないとだけどね」
でも、大画面の魅力には抗いがたい。
「・・・・・・調べると、一万くらいでも結構いいのあるんだよね」
テレビをディスプレイにするよりいいかもしれない。
「まあ、壁との距離を置かないといけないだろうから、部屋の広さで設置場所を考える必要はありそうだけど」
「でも、ホームシアター、というのはいいですね」
「・・・・・・・・・・・・」
少し考える。
暗い部屋。
壁一面に移る大画面の映画。
はなさんと並んで見る。
「楽しそう」
やっぱ買おうかな、と思うけれど、
「ほしいからって買っちゃうと、部屋がいっぱいになりますよ?」
「む」
それは困る。
あまり部屋自体は広くないのだ。
「・・・・・・・・・・・・がまん」
「偉い偉い」
はああ、とため息を吐く。
「広い部屋なら、いいのかなあ?」
「学生が考えることじゃないですよ。社会人になってお金稼ぐようになってから考えましょう」
「むう」
家電を見て、生活の中でそれを使う想像、というのは楽しいけれど、現実的に考えると無駄遣いにも思える。
「はなさんだったら、ぼくの部屋には何がたりないと思う?」
「そうですねえ・・・・・・」
うーん、と考えたはなさんは、ふと視線を少し遠目にやって、
「家電を増やすのは無駄遣いですけど」
はなさんが向かったのはインテリアのコーナーだ。
「こういうのは見た目がよくなっていいと思いますよ?」
パッチワークのクッションだった。
「お揃いにしましょう」
「・・・・・・いいね」
はなさんが嬉しそうだから、それでいいかと思った。
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