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じゃがいも、子持ちししゃも、哲学者

「子持ちししゃもかあ」

「なんか嫌な思い出でも?」

 なんとなくぼやいたぼくに、はなさんが首を傾げながら聞いてきた。

「んーん。ただ、ちょっと苦みがあるのが苦手」

「あー」

「あとね。丸ごと食べるから、骨が残ることがある」

「細かい骨ですか。食べられますよね?」

「食べられるけどね」

 なんか、口の中に細かいのが残るのが嫌だ。

 ちょっと複雑な気持ちでパック売りの子持ちししゃもを見る。

「骨ごといけるから、栄養とかありそうですけどね」

「んー。・・・・・・なんだろうね? ちょっと食べにくい感じが印象に残ってて、ちょっと苦手かなあ、と」

「ふむ」

「干物系の魚は、ちょっと苦手」

「美味しいのに」

 はなさんは言うけれど、ぼくは首を振る。

「子供のころ、夕飯には干物の魚を焼いたものがたくさん出てきたものですよ」

「美味しかったですか?」

「正直、毎回同じ味だった」

「あー・・・・・・」

 安かったんだろう、とは思う。

 あと、グリルに入れて焼くだけだから、簡単だったんだろう、とも思う。

「・・・・・・正直、煮魚の方が好きだった」

「あらまあ」

 くすくすとはなさんが笑っている。

「じゃあ、子持ちししゃもを煮てみましょうか」

「・・・・・・。味の想像がつかないなあ」

 醤油かな、と首を傾げる。

 はなさんはスーパーの中を歩きながら、

「ほかは、どうしましょうか?」

 んー、と考える。

 今日は、はなさんが夕飯を作ってくれるらしい。

 理由を聞けば、

「気分です」

 という答えが返ってきた。

「なんか嫌なことでもあったの?」

「いえ。ただ、今日は父も母も家にいないので、どうせならサンと夕飯を一緒しようかな、と思いまして」

「それで、どこか食べに行くではなく、自分で作る、あたりがはなさんかなあ」

「どこか、というのもありですけどね」

 ふふふ、とはなさんは笑う。

「なんだかんだと二人で外で食べることはあるでしょう?」

「まあ、ファミレスとかね」

「まだ未成年ですけど、成人したら、居酒屋とかも行ってみたいですねえ」

「先輩に、確かバーでバイトしている人いなかったっけ?」

「サンがバイトしているところも、夜はバーですよ?」

「そうなの? 夜までバイトはしてないから知らなかった」

 へー、と頷くとともに、どうしてはなさんはそんなことを知っているんだろうという気になる。

 相変わらず、はなさんは、ぼくの身の回りのぼくの知らないことを知っていることがたまにある。

「じゃあ、成人したらそっちでもバイトできないか、マスターに聞いてみようかな?」

「サンがカクテル作るんですか? しゃかしゃかと振って」

「こう?」

 顔の横で両手を振ると、ふふふ、とはなさんは笑った。

「まあ、とにかく、なんだかんだ二人で外食することは多いですが、学生ですから、お財布は薄い」

「ないわけじゃないんだけどね」

「それに、結構この辺のは行き尽くしましたし」

「まあ、一通りは入ったね」

「わたしが料理することもなかったわけじゃないですけど。数は多くないですから」

「ぼくは、はなさんの料理好きよ? 普通においしい」

「ありがとうございます。・・・・・・しかし普通とは・・・・・・」

「いや、料理ってたまにハズレがあるから」

「言いたいことは分かりますけどね」

 はなさんも苦笑している。

「・・・・・・さて、話を戻しまして。ししゃもとごはん。あとは・・・・・・」

「野菜?」

「ししゃもですからね。・・・・・・じゃがいも、にんじん、玉ねぎ」

「煮物かな?」

「うーん。・・・・・・ボウルに入れて、水を入れて、ラップをかけて、チン、と」

「あー。楽でおいしいやつ」

「やったことありますか」

「あるある。楽。塩かけたり、バター載せたり」

「楽ですよねえ」

 シンプルだけど、楽。

 あと、根菜を中心にやると結構腹に溜まる。

「今日のところはこんなところでしょうか」

「そうだね。シンプル」

 実を言うと、二人して手持ちが少ない。

 ぼくはバイトの給料日前。仕送りが振り込まれるのも、もう数日先。

 はなさんもお小遣い前らしい。

 自炊で、と言い出したのも、一人より二人でお金を出し合った方がいいからだ。

「・・・・・・・・・・・・こういう日もあるってことなのかな?」

「金の切れ目、というか、谷間、という感じですかね?」

 苦笑。

 はなさんは、なんだかんだとハズレのない料理を作るので、ぼくは安心している。

「・・・・・・サンだって、決して料理できないわけではないでしょうに」

「人の作ってくれたごはんはおいしいよ?」

「わたしは自分で作ったごはんですが」

「・・・・・・・・・・・・今度は、ぼくが作るよ」

「楽しみにしてます」

 決して得意ではないんだけどなあ、と頬をかく。

 外は夕闇。

 もうしばらくすれば暗くなるだろう。

「どうせなら。今日は泊る?」

「そうしますか」

 はなさんも頷いたし、今日はちょっと楽しい日だ。


+++


 はなさんの作る夕食は、普通においしかった。

「・・・・・・何だろう。奇抜さのない、安心するおいしさ。・・・・・・これが、家庭的な味・・・・・・」

「ほめられているのかなんなのか」

 誉め言葉だよ、とぼくは思う。

「ぼく、味付けがおおざっぱだからたまにトンチキな味になるんだよね」

「味見しながら作りましょうね?」

「そうなんだけどねえ」

 自分で食べる分だけだと、適当に味付けしてもどうにかなるので、やっぱりトンチキな味になることがある。

「やはり、料理は人の作ったものに限る。人に作ってあげるでもいいけど」

「一人で食べても味気ない、と」

「そうだね」

 たくさんで食べた方がおいしいよ、と。

「・・・・・・よく考えると、大学入ってからはなさんと食事することはほんとに多いけど、はなさん以外と食事することって少ないかも」

「そう、ですか?」

 講義の時間の関係などで、基本一緒に行動しているはなさんと食べることが多くなるのだ。

「・・・・・・まあ、別にだから何か困るかというと、うれしいの方が多いけれど」

「そうですか」

 くすくすとはなさんが笑っている。

 哲学者が考えるまでもない。

 ぼくは、はなさんと食事するのは好きなのだ。

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