マッサージ、未来永劫、前後左右
ぐへえ、と息が漏れた。
「お疲れですねえ」
はなさんが苦笑しながら、お茶を出してくれた。
「ういー」
ほどよく冷やされたお茶が、渇いた喉にしみる。
「お手伝いありがとうございました」
はなさんのボランティアの手伝いをした日だった。
それほどの力仕事があったわけではないのだけれど、割と細かく動くことが多くて、結構な運動になった。
休日だったのもあって、朝から夕方前まで、結構みっちりと働いたと思う。
「なんていうか、はなさんてこういうのをやってもあんまり疲れてるところ見ないよね」
「そうですか? なんだかんだと疲れてはいますけど・・・・・・」
んー、と考えて、
「ペース配分に関しては、やっぱり慣れです」
「そっかあ・・・・・・」
うーん、と考える。
「はなさんは、結構長いんだよね」
「まあ、なんだかんだ、中学生のころからやってますからね」
ぼくが中学生のころって何やってたかなあ、と思い出す。
特に何も考えてなかったことしか覚えてない。
「・・・・・・はなさん、しっかりしてるよね」
「ほめても何も出ませんよ」
はなさんはにこにこと笑っている。
「・・・・・・・・・・・・うーん。お茶がうめえ」
「お代わり、いかがです?」
「ください」
「はいはい」
はなさんは、新しくお茶を淹れてくれた。
今度は、少し熱めだった。
「はふう・・・・・・」
「本当にお疲れみたいですね。・・・・・・マッサージでもしましょうか?」
「・・・・・・はなさんのマッサージ」
ふむ、と考える。
「お願いします」
「はい。じゃあ、ちょっとうつ伏せになってください」
言われた通りにうつ伏せになる。
そのうつ伏せになった腰のあたりに、はなさんが座った。
「・・・・・・じゃ、行きますよー」
肩に手が置かれて、ぐぐぐ、と力がかかる。
そこから揉み解されて、
「うあー」
「力の抜けた声ですねえ」
はなさんのくすくすと笑う声が聞こえる。
肩から下に行って、背中に。
前後左右にぐいぐいと力の入った手が動いて、背中が揉み解されている。
「あー。はなさん。きもちよいですー」
「それはよかった」
なんともふわふわと温かい。
ちょうどよい力加減で、疲れていたものがほぐれていく感じがある。
はなさんの体重がかかって、なんともよい。
「・・・・・・はなさん。上手だねえ」
「上手にできてますか。それはよかった」
ほ、は、とぐいぐいと押す力に合わせて、はなさんが息を吐く音が聞こえる。
はなさんの体重と体温のマッサージが、本当に気持ちいい。
「・・・・・・はなさん。ありがとうねえ」
「いいんですよ」
ふふふ、とはなさんが笑っている。
なんだか妙に嬉しそうだ。
「・・・・・・サンは、意外と筋肉の感触がありますね。思ったよりも脂肪が少ない感じが」
「そう? よくわからないけど」
「サンは、意外と食べる割には太りませんよね」
「そうかなあ? よくわからない」
「まあ、いつも元気でカロリー消費が高いんでしょうね」
「なるほど」
はなさんの考察には頷けるところもある、ということにしておく。
「・・・・・・大変じゃない? マッサージ」
「いえいえ。楽しいですから」
「あとで、ぼくもやってあげる」
「そうですね。お願いします」
「まかされー」
+++
はなさんがうつ伏せになっている。
その腰に跨って、はなさんの背中に手を当てる。
「じゃあ、いくよー」
「ハイ。お願いします」
はなさんの口調は笑みを含んでにこやかだ。
まずは、と軽く肩を押していく。
「・・・・・・結構固い」
「知らないうちに凝っているんですかね」
「揉み解す。もみもみ」
肩、肩甲骨、背中。
手を当て、体重をかけながら、ぐぐぐ、と押して、揉み解していく。
「くふふ。・・・・・・ちょっと、くすぐったい」
はなさんの笑い声が漏れ聞こえる。
「軽いかな」
「いえ。ちょうどいいですよ」
ふふふ、とはなさんが笑っている。
「そっかあ」
はなさんの体温を手の平に感じる。
なんだか、この手に感じる感触が、結構気恥ずかしくもある。
シャツ越しとはいえ、はなさんの感触はすべすべしているように感じる。
筋肉がしっかりとあって、その上にやわい部分がある。
脂肪か、と思う。
「はなさん。固いと思ったけどやわこいね」
「何を確かめているんですか」
はなさんの苦笑する気配がする。
「いや、でも、何て言うか。揉み解すとあったかくなって柔らかくなるんだよ」
「力の入っていない筋肉は柔らかいらしいですから」
「ほほう?」
ふむ、と考えながら、ぼくははなさんの背中を押す。
なんか、変な気分になってくる。
「はなさん、どこかマッサージしてほしいところない?」
「いえ。サンにおまかせしますよ」
「うーい。・・・・・・では、今日は立ち仕事だったし、足いってみよう」
「・・・・・・くすぐらないでくださいよ?」
「まかせろい!」
太もも。やらこい。
ふくらはぎ、やらこい。
足首周辺、やらこい。
「はなさんがやらこい」
「やらこい、とは? いえ、ニュアンスは通じる気がしますけど」
はなさんの苦笑する気配が強い。
「まあ、この辺にしとこうか」
「そうですか。ありがとうございます」
身を起こしたはなさんが、シャツの裾を引っ張ってしわを伸ばしている。
「・・・・・・まあ、素人のマッサージって、実はよくないかもだけど」
「ちょっと揉むくらいなら大丈夫ですよ」
お茶の残りを飲む。
「マッサージ器、とか買おうかな」
「それもいいですね」
「実家にあったやつって、結構大きい奴があってさあ」
「どれくらいですか?」
「アイロンくらい? 片手で持てない大きさだったから、両手で持って父さんの背中に当てるんだけど。マッサージ器全体が振動するから、長い時間やってると持ってる手がしびれてくるってやつで、今考えると結構ひどいな」
「それはそれで面白そうですけど」
「まあねえ」
思い出し笑いが漏れる。
「まあ、マッサージが必要なら、またわたしがしてあげますよ」
「それはうれしい」
「そうですね。喜んでもらえるなら」
ふふふ、とはなさんが笑う。
「何なら、未来永劫、わたしがマッサージしてあげましょう」
「あはは。そうなると、ぼくもお返し必要だね」
なんとも楽しそうな未来だと思った。
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