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ゴッドハンド、バウムクーヘン、ボーダーライン

 テーブルの上にどん、と置かれている。

 置いてあるのは一つだけ。

 どでかいバウムクーヘンだ。

 丸のままのバウムクーヘンがどどん、と置かれている。

「・・・・・・おいしそうだねえ」

「実際、美味しいとこのですよ」

 バウムクーヘンを箱から出したはなさんが、にこにこと笑っている。

 今日は、はなさんがぼくの部屋に遊びに来ている。

 おいしいものを手に入れた、というので、ご馳走してくれる、とわざわざ持ってきてくれたのだ。

 持ってきてもらうのは悪い気もしたけれど、なんだかんだと来てくれたのはうれしい。

「コーヒー淹れようか」

「そうですね。甘いものですして」

 台所に行って、コーヒーを入れる準備をする。

 お湯を沸かせるように電気ケトルに水を入れてスイッチを入れる。

「はなさん。どうする? ちょっと時間かかるけど豆からいく?」

「挽くところからですか?」

「そう。いけるよ?」

 はなさんはんー、と考えて、

「そうですね。どうせだからお願いします。どうせなら美味しくお願いしますね」

「・・・・・・インスタントの方が美味いかもよ?」

 はなさんは笑顔だけど、ハードルが上がった。

「大丈夫。サンならできます」

 ハードル上げてくるなあ、と苦笑しながらも、豆と電動ミルを取り出す。

 計量カップで、二人分の豆をミルにセットしてスイッチを入れる。

 それなりの音を上げながらミルがまわる。

 ポットにドリッパーをセットして、フィルターを入れて、挽き終わった豆を流し込む。

「・・・・・・・・・・・・」

 お湯が沸いたのを見て、

「とぽとぽー」

 バイト先のマスターに教えてもらったやり方を意識しながら、お湯を淹れていく。

「ん」

 お湯が注がれると、コーヒーの匂いが広がっていく。

「わー。ここでも結構コーヒーの匂いが来ますねえ」

 部屋の方で待っているはなさんにも、同じ匂いは届くらしい。

 淹れ終わったコーヒーをポットからカップへと移して、部屋へと運んだ。

「・・・・・・・・・・・・はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 コーヒーをはなさんに渡す。

「コーヒーの匂いですね。サンのバイト先と同じ匂いです」

「いやいや。マスターのやつと比べないでよ。豆は同じだけどさあ」

 さすがにそれはない、と慌てて手を振ると、はなさんはくすくすと笑っている。

「あ、切るやつもいるよね」

「ああ、そうですね」

 包丁を持ってきた。

「さて、切るか」

 包丁を構える。

「・・・・・・・・・・・むう」

 ちょい、ちょい、と動かして、

「どう切ろう?」

「普通に真っ二つでよいのでは?」

「はなさん、これの半分食べられる?」

「いけます。だいじょうぶ、美味しいですから」

 うん、とはなさんが自信満々に頷いた。

 テーブルの上のバウムクーヘンは、結構な大きさなのだけれど。

 まあ、でも、

「バウムクーヘンってさ、切るの難しくない?」

「?」

「いや。ホールケーキとかならさ、真っ二つとかやりやすいけど、バウムクーヘンは真ん中穴じゃん。・・・・・・真っ二つって意外と難しい」

「ああ。なるほど」

 うんうん、とはなさんは頷いた。

「たしかにそうですね」

「・・・・・・・・・・・・はなさんだったら、どう切る?」

「そうですね」

 ちょっと貸してください、というので、はなさんに包丁を渡す。

「面倒なので雑に行きましょう」

「え?」

 ほいほい、とバウムクーヘンの載った皿をくるくる回しながら、はなさんは包丁を入れていく。

「はい。八つに分けました」

「・・・・・・わあ。ゴッドハンド。あの切り方でなんでほぼ八等分にてきるの?」

 皿の上のバウムクーヘンは、ほぼキレイに八つに分けられている。

「気合と根性」

「絶対うそだ」

「まあ、タイミングを合わせてうまく切ることですよ」

 なんでもないように言っているけれど、なんだかんだですごいことやってるよな、と思う。

「まあまあ。いただきましょう」

「そうだね。ごちそうになります」

 一切れ取って、口に運ぶ。

「甘いけど、甘すぎないね。こういう味は結構好き」

「シンプルな味ですけどね。やっぱりおいしいですよね」

 うんうん、とはなさんも満足そうに頷いている。

 実際、スーパーなんかに売っているものと比べると、一段二段味が違う気がする。

「なんだろ。砂糖の味が違う?」

「どうなんでしょう? わたしもさすがに味の違いの細かいところまではわかりませんね。どういう作り方をしているのかもわかりませんし」

「あー。まあ、それが分かったところで、バウムクーヘンなんてそんな作れるものじゃないけどね」

「作るには専用の道具が要りますからね」

 くるくる回しながら、焼きを入れつつ、生地をかける。

 バウムクーヘンの作り方は簡単に言ってしまえばそんなもので、一本焼き上げるにはそれなりに時間がかかる。

「・・・・・・結構お高い?」

「まあ、一つニ千円ほど」

「お高い。・・・・・・半分出そうか?」

「いいんですよ。サンに食べてもらいたくて買ってきたものですから」

「むむう・・・・・・」

 そう言われると、気になる。

 はなさんは嬉しそうににこにこしているから、何とも言い難いけれど。

「美味しいでしょう?」

「とてもおいしいです」

「それはよかった」

 にこー、とはなさんの笑顔が輝いた。

 眩しい。

 うれしそうなので、ぼくもうれしいけれど。

「わかった。今度ぼくも何かおいしいものを探してみる」

「このコーヒーもおいしいですよ?」

「いやいや。マスターの方がおいしいから」

「年季と経験が違いますからね。でも、近づくといいですね」

「そうだねえ」

 正直、あの味は何かが違うので、全く近くなるとは思えないのだけれど。

 バウムクーヘンを一切れ、食べる。

「・・・・・・このおいしさに見合うくらいのコーヒーにしたいところ」

「十分おいしいですけどねえ」

「ぼく的にはまだまだ」

「そうですか」

 ふう、とコーヒーを一口飲んで、息を吐く。

 バウムクーヘンの味と、コーヒーの苦みは、うまくはまっているように感じるけれど。

「・・・・・・まだまだ」

 ボーダーラインまでには、あと十歩くらい足りない気がする。

「次はもうちょっとおいしいコーヒーにする」

「がんばってください」

 はなさんはにこにこと笑って応援してくれた。

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よろしくお願いします。

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