当たり外れ、停留所、運転手
「旅行に行きたい」
「ほう?」
ぼくがぼそ、とつぶやいた言葉に、はなさんが反応した。
「なんかね、旅行に行きたい。日帰りでもいいので」
「いいですね。どこに行きたいんですか?」
「んー」
特にどこ、というわけでもないのだけれど、
「遊園地」
「ちょっと遠目ですね」
「少し暑くなったら海とか」
「泳ぐんですか?」
「普通に観光地。・・・・・・京都とか」
「お寺巡りですか」
「聖地巡礼」
「何のアニメを見るんですか?」
「温泉」
「のんびりですね」
ふふふ、とはなさんが笑っている。
「はなさんだったら、どこ?」
「そうですねえ。・・・・・・温泉とか?」
「ほう? 渋い」
「遊園地で遊んで温泉のあるホテルに泊まって、ゆっくり帰ってきたいですね」
「一泊二日か。・・・・・・あまりお金ないけど」
「二人で出せばいいのでは?」
「うん? 二人分なら費用も二人分では?」
「ホテルで同じ部屋を取れば少し安くなります」
「ふむ」
なんか自然に二人で行くことになっている。
そんなことを自覚し、へへ、と笑う。
「ちょっとした旅行なら、どこでも行けるねえ」
スマホで検索してみれば、結構安くどこにでも行ける。
大学があって、駅も近いこともあって、予約さえすれば温泉の日帰りも十分可能だ。
はなさんを誘って、週末に本当に日帰りで行くのもありかもしれない。
「電車もバスもあるし、なんだかんだ観光地近いから、結構いろいろ楽しめそう」
「そうですね」
まあ、こういうのは計画が楽しいものだけれど。
「ぼく、旅行っていうと修学旅行くらいしか経験なくて」
「どこに行きました?」
「京都奈良。北海道。沖縄」
「日本の端から端まで」
小学校が京都奈良。中学校が北海道。高校は沖縄だった。
「小学校の時は計画通りに目的地をめぐるためにバスの停留所をあらかじめ地図に書いてさあ」
「地図ですか」
「スマホ使用禁止って言われて。紙の地図に目的地への経路を手書きして、それを持ち歩いてた」
「あら。楽しそう」
結構大変だったよ、と笑う。
割と暑い時期だったから、汗で地図がふやけて破れてしまったり、目的地として決めた場所を全部回り切れなくて、結構悔しい思いをしたり。
楽しかったけど。
目的にたどり着けば、先生がチェックポイントよろしく立っているので、到着を報告して、今後の予定を決める。
毎度毎度わいわいと話し合って、なんだかんだと盛り上がったのを覚えている。
「沖縄はあれだね。タクシーの運転手のおじさんが愉快でした」
「へえ?」
「なんか班ごとに一台割り振られてね。一日同じタクシーでいろいろ行った」
「なるほど」
「運転中、結構喋ったよ。楽しかった」
修学旅行、というと、ホテルで友達としゃべりあったことそうだけど、なんだかんだといろいろ見て回ったのが楽しかった。
酒を実家に送ったり、お土産を買ったり。
ホテル傍のビーチで泳ぎもした。
空気が違う、という奴だろう。
普段同じクラスでろくに会話をしない相手とも、なんだかんだと話した気がする。
「旅行って楽しいものだよね」
「その通りですよ。・・・・・・家族旅行とかしなかったんですか?」
「じいちゃんばあちゃんの家に行ったのがかろうじて旅行? インドアなんだよね。父さんもお母さんも」
「あら」
基本的に両親はそういう人たちだった。
家の中で、のんびり映画を見たりするのが好きな人たちだ。
「はなさんは? 家族旅行とかした?」
そうですね、とはなさんは頷いた。
「父がなんだかんだとアウトドアが好きですから。夏は海水浴。冬はスキー。連休には温泉地」
「へえ。いいなあ」
「結構大変ですよ。家族と一緒って」
「そういうもの?」
「家族旅行だと、親としか遊べませんから。友人を誘うようになってからは、それはそれでたのしい旅行でしたが」
「なるほど」
ふうん、と頷いていると、
「たぶん、今年もどこか行こうと言い出しますし。もしよければサンもいかがですか?」
「いいの?」
「もちろん。サンが来てくれるならわたしはとてもうれしいです」
「そっか。ぼくもはなさんと行けるならとてもうれしいな」
へへへ、と笑う。
はなさんが誘ってくれるのは、やはりとてもうれしい。
「そっか。ぼくもいろいろ考えてみようっと」
「考える、ですか?」
「そ。はなさんと、どっか行く計画」
「あら。考えるなら、わたしもきちんと混ぜてください」
「もちろん」
はなさんと行く旅行だから、はなさんの意見ももちろん重要だ。
「旅行っていうと温泉だけど」
「別に、ちょっと遠くの駅に行って、その周りをまわるだけでも楽しいですよ。きっと」
「ふむ」
想像してみる。
適当にキップを買い、行けるところまで行って。気が向いたところで降りる。
あとは、駅の周囲で買い食いをしたり、お店を冷やかしたり。
普段大学帰りにやっていることかもしれないけれど、
「遠くの場所でやったら、また違う雰囲気がありそう」
「名物、とか言われているものを食べてみたり」
「行く先によって、結構当たり外れがありそうだけどね」
「それも楽しいですよ」
はなさんが微笑んでいる。
ぼくも同意した。
「そうだね。きっと楽しい」
はなさんと一緒なら。
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