表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
62/768

背水の陣、迫害、メロンパン

 珍しいこともあるものです、とはなは思う。

 目の前、サンが珍しく興奮している。

 それも、どちらかというと怒りの方向にだ。

 サンと交流を持つようになってこちら、サンが怒る、という場面を見たのは初めてかもしれない。

 ほんとうに珍しいことです、とはなは感慨深く思う。

 機嫌が悪い時、サンは怒るよりもむしろ拗ねる。

 不貞腐れたように黙り込み、こちらに背中を向けて座り込んだり、寝転がって丸まったりする。

 放っておくと長引くので、適度に甘いものなどを並べておくと、そのうち回復する。

 静かに放っておいても問題はないが、距離を取るとこちらをじっと見つめてくる。

 それでいて、こちらから視線を向けると視線をそらし、近づけば距離を取る。

 なのに、一定距離は離れない。

 はなとしては、どう扱っていいのか、愛でればいいのか、という気分になる不機嫌なやり方だ。

 誰かに当たらない、という点では、立派なのかもしれない。

 そんなサンが、荒げる、というほどではないにしても、声を大きくして怒っている。

 身振りも大きい。

 そして、はなに同意を求めている。

 はなとしては、実にくだらないと思うが、そのくだらなさがかわいらしいとも思った。

「だからね! はなさん!!」

「はい」

「戦争だ。戦争だよ! これは!! ぼくはやつと敵対し、勝利しなければならない! でなければ迫害の憂き目に遭う!!!」

 実に大げさな言い草である。

 ぷんぷん、という擬音が似合いそうですね、と考えて、噴き出しそうになるのをこらえる。

「はなさん?」

 おっと、と表情を引き締める。

 サンがジト目ではなを見ていた。

 はなとしては、サンの味方をしたいところではあるのだが、内容が内容なだけにどうにも本気になりづらい。

 というか、ここまで的確に怒らせるとか、ナオはすごいですねえ、と、はなはもはや他人事の境地だった。

 なんとなく見ていると思う。

 サンは怒っている、というよりは、楽しんでいるのかもしれない、と。

 何せ、最初は仲良く歓談していたのだ。

 それが、何かを切っ掛けに言い合いになり、そしてナオが先に怒った。

 勢いに任せて言いたいだけ言った後、逃げ去ったナオに、サンは徐々にボルテージが上がっていった、という感じだ。

 横で聞いている分には、本当にくだらないことだったのだが。

 はなが見ている前で、サンはコンビニのビニール袋に手を突っ込み、何かを取り出した。

「メロンパン」

 円形に格子状の模様の入ったパン。

 言わずと知れたメロンパンだ。

「サンライズともいう」

 サンは齧り付いた。

 甘いものが食べたくなったのかもしれない。

「そういえば、最初にメロンパンと呼ばれたパンは、大きなアーモンドみたいな形ですよね」

「そうだよ。こっちの丸いのは、本当はサンライズ。・・・・・・メロンパンの方で定着しちゃってるけどね」

「たまに、スーパーで見る位ですね。そのアーモンドみたいなメロンパンは」

「なんでメロンパンって名前なんだろ?」

「メロンみたいな形だからですよ」

 はなが言うと、サンは怪訝そうな顔をする。

「とても見えないよ?」

「丸い方のメロンを連想するからです。メロンパンができた当時、日本でメロンといえば、マクワウリ。つまりは、楕円形のウリを指したんです」

「楕円形。・・・・・・ウリかあ・・・・・・」

 祖父母が農家をしているサンならば、ウリの形については詳しいだろう。

「ただ、後々、丸いマスクメロンの方が有名になったため、サンライズの方がメロンパンと呼ばれるようになりました」

「物知りだなあ、はなさん」

「こういうトリビアを得意げに語る知人がいたんですよ」

「ふーん」

 はぐはぐと食べきって、空のビニール包装は手に持ったコンビニのビニール袋へと入れるサン。

 続いて、袋からパックのコーヒーを取り出して飲みだした。

 食べて多少は落ち着いたのか、声の大きさは戻っている。

「はなさんも食べる?」

 サンを見ていると、サンははなにビニール袋を突き出す。

 中には、いくらか甘い菓子パンが入っているが、

「いえ。遠慮しておきます」

「そう?」

 また一つ取り出して、食べ始める。

 今度はあんぱんだった。

「・・・・・・まったく、ナオさんめ」

「あら」

 目が据わってきた。

 また怒りがぶり返してきたらしい。

「今度会ったらぎゃふんと言わせてやる」

 古い、セリフが古い、と思いつつも、はなは何も言わず、微笑みを浮かべてサンを見る。

 訂正、微笑ましい、と思いながら、サンを見る。

「というか、傍で聞いていて、二人が一体何をあそこまでヒートアップしていたのか、いまいちわかっていないんですが」

 怒っているサンが面白いので、もう少し見たいと思ったはなは、燃料を足すことにした。

「だって、やつは言ったんだよ!?」

「はい」

「きのこ? たけのこでしょ、だとおおおおおおお!!」

 本当、なんでこの程度の問題でこの二人はあそこまでヒートアップしたんでしょう、と、はなは内心首を傾げる。

「戦争だ!」

「昔からありますけど、どっちもおいしい、じゃダメなんですか?」

「どっちもおいしい。それは事実だ!」

 サンははなの言葉に頷くも、

「だが、どちらがよりおいしいか、といえば」

「いえば?」

「きのこでしょ!?」

 さも当然のことのように、サンは叫んだ。

「なるほど。サンはきのこの方が好きなんですね?」

「好き!!」

 ふうん、と頷く。

「そして、ナオはたけのこ派である、と」

「やつは敵だ」

「お菓子一つで盛り上がって、まあ」

「はなさんは?」

「わたしにはこだわりがありませんから。まあ、あえて言うならきのこですが」

 サンが好きな方ですし、という言葉は飲み込んでおく。

 サンは実に嬉しそうに頷く。

「やっぱりね。はなさんはそうだと思ってた!!」

「ちなみに、たけのこって言ったら、どうしたんですか?」

「きのこを植える」

「・・・・・・・・・・・・植える?」

 何を言い出すのでしょう、と、はなは戦慄にも似た思いを抱く。

 何を言っているのか分からないのに、目がマジだ。

 少し迷った末に、聞いた。

「どこに?」

「・・・・・・・・・・・・前世、かな」

「なぜその答えに・・・・・・」

 勢いだけでしゃべってませんか、と呆れる。

「まあ、ぼくも別にたけのこを否定したいわけじゃないんだ。おいしいからね」

「そうですか」

「ただ、きのこの方が上なだけなんだ」

「・・・・・・そうですか」

 これは、解決できないんでしょうねえ、と諦めの笑いを浮かべ、はなはサンを見る。

「とりあえず、きのこの方を買いに行きましょうか」

「そうだね。たけのこも買おう」

「? なぜです?」

「片方しか食べてなかったら、どっちがおいしいかという答えに説得力がないじゃないか」

「・・・・・・・・・・・・なるほど?」

 サンが何か力説しているが、はなからしてみると、どうしてそうなるのかはいまいちよくわからない。

「両方を食べた写真をナオさんに送り付けたうえで、きのこの方がおいしかったよ、と言ってやる!」

「ああ、なるほど」

 ナオに対抗したいのか、とはなは頷く。

「負けられない戦い。背水の陣で戦うのだ!」

「・・・・・・微妙に、意味が違う気がします」

 気炎を上げるサンに、はなは処置なし、とため息を吐くのだった。

評価いただけると励みになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ