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商店、色物、苦行

 商店街を歩いている。

 ぼんやりとした時間だ。

 今日は、はなさんとは離れている。

 かなり珍しい日だな、と思った。

 ぼくに用事がなくて、はなさんと一緒にいない、というのは、大学に入ってから、何度あったろうか。

 少なくとも、指で数えられる程度でしかないのは確かだ。

「ふんふん」

 少し浮ついてる、とも思う。

 はなさんに見られれば、落ち着きがない、とでも言われるかもしれない。

 ただ、なんとなく落ち着かない感覚を得つつも、ぼくは商店街を歩いて、店先を冷やかしている。

 この商店街にはよく来ていることもあって、大体どの店に何が売っているかは知っている。

 肉屋のコロッケを頬張り、飲み下す。

「・・・・・・・・・・・・あー」

 どうしよう、と本格的に困った。

 はなさんが欲しい、と切実に思う。

 本格的に、一人で暇があると、何をしていいのか分からなくなる。

 家に戻って、テレビを見るなり、本を読むなり、あるいは、ゲームをするなりして暇を潰す、というのもないことはないけれど、まだ外は明るいのだ。

 この状態で家に戻っても落ち着かない気分は消えないだろう。

「むう・・・・・・」

 電話の一つもかけたい思いもあるけれど、自重しなければならない。

 ぼくに用事はないにしても、はなさんの方は用事があったから、ぼくは一人なのだ。

「どうしよかな・・・・・・」

 商店街を端から端まで、一度歩いてしまった。

 んー、と伸びをする。

 コロッケを食べたから、腹具合もいい。

 抜けた先にあるのは、特に何もない住宅街だ。

 ふう、と一つため息を吐く。

 背後へと振り返り、歩き出す。

 もう少し時間を潰したい。

 それに、家に帰るにしろ、この商店街を反対側に抜ける必要はあるのだ。

「・・・・・・なんか、言い訳がましいなあ」

 店先に並んでいるものを見ていく。

 行きに見たものと違うものが目に入るのもあって、これはこれで楽しくはある。

「む?」

 スマホに着信が入った。

 はなさんかな、と思って見てみれば、

「なんだ、ナオさんか・・・・・・」

 こんなことを言っていると、なんだたあ、ご挨拶だ、とか言われそうだが、

「ナオさんは、ぼくの中では色物枠なんだよなあ」

 はなさんとは違う意味で、飽きない相手ではある。

「どうしたのかな」

 メッセージを見れば、写真付き。

「・・・・・・ナオさん。なんでタコと戦ってるんだろう・・・・・・?」

 腕に載せたタコと戦っている写真。

「自撮りじゃない? ・・・・・・誰と一緒にいるんだか」

 こういう写真を面白がって撮って送ってくるあたり、ナオさんはやっぱり色物な気がする。

「さて、これにどうしろと?」

 反応に困る。

「はなさんだったら・・・・・・」

 グループのメッセージアプリに送られてきた写真だ。

 おそらくはなさんも見ているはずだが、返信はない。

 忙しいのかな、と思いながら、

「タコ」

 スタンプで墨を吐くタコを送っておく。

 意味はない。

「・・・・・・タコ焼きうま」

 次の写真だった。

「・・・・・・何? ストーリー仕立てなの?」

 ナオさんが大口開けてたこ焼きを食べている。

「・・・・・・ナオさん。おいしそうに食べるねえ」

 というか、本当、このナオさんを撮っているのは誰だ?

「・・・・・・はなさん、じゃないね」

 はなさんの用事は、家にまつわるものだったから、ナオさんと遊んでいる場合ではないはず。

 ナオさんに聞けばいいのかもしれないが、聞いたらなんとなく負けな気がする。

「順当に考えれば、センパイたちの誰か、なんだろうけど」

 ナオさんの交友関係を把握しているわけでもないし、別に誰でもおかしくはない。

「・・・・・・まあ、誰でもいいか」

 今の気分で追及することでもないし、適当にメッセージを送っておく。

「ナオさんは、今日暇なの?」

 贈ってすぐに今どこにいると思う、と返ってきた。

「・・・・・・・・・・・・」

 なんとなく予想がついてしまった。

「はいはい。今どこですか?」

「お前の、後ろだああ!!」

「はいはい」

「いや、ちょっとは驚け」

 振り返れば、ナオさんがいる。

 こちらが驚きもせずに振り返ったことで、何ともつまらなさそうに口を尖らせている。

「いや、だって、たこ焼きのパッケージがここの商店街で売ってるやつじゃん」

「む?」

 ナオさんが片手に持ったたこ焼きを掲げて見せる。

「お店の人に撮ってもらったの?」

「おう。この辺はうちのなわばりでな」

「野生動物かヤンキーか」

 けらけらとなおさんは笑っている。

「はあ」

 なんとなく、微妙に疲れが増した気がする。

「ナオさん。元気だねえ」

「サンはなんか元気ないな。やっぱ、はながいないからか?」

「うん。はなさんいないと、ちょっとつまらない」

「お前、はなのこと好きすぎだろ」

 改めて言われると照れる。

「はなさんといるといろいろ落ち着くんだ」

「はなは優しいしいい奴だからなー」

 うんうん、とナオさんは頷いた。

「でも、サンははなにべったりしすぎだ。はなもそれを甘やかしてるけど」

「そうかな。ぼくは結構好き勝手やってるけど」

「はながそれにうまく付き合ってくれてるからな。いい具合の距離を保ててるのは、はなのおかげだぞ?」

「うーん」

 言われると弱い。

 ぼくとしても、はなさんに比べれば、ぼくがずいぶんと幼稚な自覚はある。

「・・・・・・ま、うちはお前らの関係嫌いじゃないけどな? サンははなに甘え過ぎだぞ? はなは割と一人でも平気そうだし」

「・・・・・・む」

 それは、ちょっと傷つく。

「じゃあなあー」

 言うだけ言って、ナオさんは去って行った。

「・・・・・・なんだよ、もう」

 なんというか、腑に落ちない。

「・・・・・・はあ。暇」

 ナオさんもいなくなって、本格的にそう思った。

「ぼくが、はなさんに甘えてる、ねえ」

 それはまったくもってその通りではあるけれど、直す気にはならない。

 はあ、とまた深く息を吐いた。

 商店街の半ば。

 向こうまで、一人で歩いて帰らないといけない。

 それが、なんとなく苦行に思えた。

今日は少し迷走気味。



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