地下、赤っ恥、LED
「・・・・・・赤信号。右手を上げても渡れない」
「なんですか? それ」
「小学生ぐらいの時だったかなあ、交通安全週間の標語、とかいうので提出した奴」
「いい評価もらえましたか?」
「いや、あんまりいい評価はもらえなかった」
何言ってるのか分からない、みたいな評価をされた。
「残念でしたね。わたしは面白いと思いますが」
「担任の先生もそう言ってくれたけどね。・・・・・・まあ、しょうがなし」
とはいえ、
「最優秀賞がどんな標語だったかさっぱり忘れている辺り、あのコンテストには意味があったのだろうか」
「子供時代あるあるですね。大丈夫。気づかないうちに刷り込まれているでしょう」
はなさんが指さした先、小さな看板に標語のようなものが書かれている。
そういえば、ああいうものは、街中どこにでもあるし、目につく。
「サブリミナルかな? それは怖いよ」
苦笑が浮かぶ。
「でも、そういう風に教えられますからね。いつの間にか覚えているものなんですよ」
「まあ、そうかなあ」
ううん、と首を傾げていると、はなさんも首を傾げて、
「でも、どうしてそんなことを思い出したんですか?」
「いや、ほら、信号ってさ。LEDライトのやつがほとんどじゃない?」
「ああ。LED」
明るくて、薄い。
「ぼくの地元だと、まだLED以外の信号機も多くてさあ。昨日、テレビでLEDについてやってたから、信号が目についちゃって」
「それで、信号を見ていたら、さっきの標語をふと思い出した、と」
「そうそう」
ぼくは、頷きつつもまた信号機に目をやった。
赤信号から、青信号に変わる。
横断歩道を渡りつつ、ぼくははなさんに向かって、
「LEDライトが多いじゃない。蛍光灯とか」
「あっちの方が長持ちするんでしたか?」
「さあ? 何がいいのかはよくわかんない。安いか、明るいか、長持ちするか、あとは、電気代?」
「どれにしても、いいものだから広まってきたんじゃないですか?」
「そうだろうね」
車が向かいから走ってくる。
「学校の理科の授業で使ったLEDライトなんて、そんな明るかった記憶ないから、ちょっと違和感」
「なるほど」
指先に乗るくらいの小さなものより、豆電球の方が明るいんじゃ、と思ったくらいだ。
「・・・・・・でも、どこにでもあるよねえ。地下のライトにLED」
「地面の下に埋め込んで誘導に使うやつとか?」
「ああ。ああいうのもそうか」
うんうん、と頷きつつも、思い出していく。
「なんかさ。昨日ちょっとお母さんと電話してね?」
「はい」
「昔に比べると、いろいろ便利になったねえ、て」
なんとも感慨深げに、お母さんは言っていた。
「そうなんですか?」
「ケータイでテレビ電話できるとか、お母さんが子供のころは考えられなかったって」
「あー」
お母さん曰く、テレビ電話なんてそれこそテレビの向こうの空想の産物だった、ということらしい。
それが、今は簡単にできてしまう。
「・・・・・・昨日は、お母さんとテレビ電話を?」
「うん。というか、テレビ電話で夕ご飯の作り方を教わってた」
「あら」
唐揚げが食べたいと言ったら、レシピの他に、作り方の実況付きだった。
実際スマホを台所に置いて、お母さんの作るのを見ながら、一緒に作ったのだ。
「リモート料理教室だったよ。撮影は父さんだったらしいけど」
ずっとスマホを持ってお母さんを追いかけるのは、父さんには結構辛かったみたいだが、
「美味しい唐揚げ、できました?」
微笑ましい、という表情のはなさんに笑みを返す。
「お母さんの味ほどじゃなかったけどね。作れた作れた」
「へえ」
ふふふ、とはなさんは笑っている。
「今度、ごちそうしてください」
「いいよ。もうちょっと練習して、うまくなったらね」
鶏肉の切り方とか、下味の付け方とか、いろいろバリエーションももらったし、他のレシピも教わった。
いろいろ作って、はなさんに食べてもらう、というのはありだ。
「はなさんのも教えてもらえると、ぼくはうれしいなあ」
「じゃあ、サンの方も教えてくださいよ?」
「もちろん」
唐揚げ以外だと、何がいいだろうか。
とはいえ、はなさんに食べてもらうなら、いろいろ練習が必要だ。
はなさんは料理が上手いから、下手なものは作れない。
「うん。がんばろう」
小さく決意。
「・・・・・・でも、昔に比べて、ですか」
「いろいろあるけどね。ゲーム機だったり、スマホだったり、4Kとか5Gとか、なんかよくわからない単語ばっかり」
肩をすくめて見せれば、はなさんは苦笑している。
「調べてみれば、言葉の意味とか分かるんですけどね。実際見てみると、気持ちぐらいの変化しか感じなかったりしますよね」
「言われてみると、そんな気がしちゃうからね。別にそんな高性能求めてないよ? とか」
「ありますねえ」
はなさんとともに苦笑を浮かべる。
「でも、電気屋さんに行って店員さんに聞くと、結構懇切丁寧に説明してくれる」
「それはそうでしょう。あちらも商売でしょうし」
「めっちゃ早口だけど」
「オタク特有の?」
「それかもね」
ふふふ、と笑う。
「それでいて聞き取りやすいのは何だろう、訓練かな?」
「説明の練習はしているでしょうね。そういうお仕事ですし」
「・・・・・・お母さんとか、よく翻弄されるって言ってたよ?」
「電気屋さんで失敗しないコツは、どういう場所で使うか、どういう目的で使うかをできる限り説明することだとか。・・・・・・どんなことでもそうかもしれませんが、誰かに何かしてもらうなら、どうしてほしいからできる限り詳しく説明した方が、損は少ないですよ?」
はなさんの言うことは深い。
「・・・・・・そうだね」
うんうん、と頷く。
「今度、電気屋さんに聞いてみよう。LEDと電球の違い」
「ネットで調べてもわかりそうなものですが」
「まあ、それもいいけどね。この間部屋の電気一個切れちゃったし、買いに行くついでにね」
「ああ。なるほど」
そういうことなら、とはなさんは頷いた。
「切れた電球を持って行くと、合うやつを探してくれますよ」
「親切だよね。店員さん」
聞けば親切に教えてくれる。
ふと、頭をよぎった言葉が、なんだか消えなくて口を突いた。
「・・・・・・そこでLEDライトについて聞いて、恥をかくことはないかな?」
「なんでです?」
「LEDなだけに赤っ恥」
「・・・・・・八点」
はなさん、渋い顔してるなあ・・・・・・。
評価いただけると励みになります。
よろしくお願いします。




