表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
56/768

鋼の心、布団、毎日

 鋼の心が必要だ。

 頭がぼんやりとしている。

 カーテン越しに、外が明るいことがわかる。

 スマホにセットした目覚ましのアラームは、さっき鳴り終えた。

 三十分もすれば、もう一度鳴るだろう。

 それが鳴ったら、さすがにタイムアップだ。

 だから、それまでの短い時間をごろごろする。

 全身の力を抜いて、目を閉じる力に集中する。

「ん~・・・・・・」

 ふう、と息が漏れた。

 まだまだ温もりが欲しい。

 春も半ばというのに、昨日の夜はずいぶんと冷え込んだ

 今朝も同じだ。まだ、寒さを感じる。

 首まで埋もれて、ぐう、と唸る。

「・・・・・・」

 そうやって、うとうととまどろんでいたところで、

「あー」

 アラームが鳴った。

 起きなきゃ、とぼくは布団を跳ね飛ばした。

 勢いよくやるのが大事だ。

 じゃないと、いつまでもしがみついてしまう。

「んがー・・・・・・」

 大口を開けてあくびをしながら、大きく伸びる。

 両手を前に突き出して、腰を後ろに伸ばす。

 猫の伸びのような姿勢で、ぐぐぐ、と、眠気が抜けていくのを待つ。

「・・・・・・まだ、眠いなあ」

 独り言ちながら、布団から立ち上がり、タオルを取って、ぼくは風呂場へと向かった。


 温かい水が肌を流れていく。

 頭から、温水のシャワーを浴びる。

 ただ、それだけだ。

 寝汗を流して、顔を洗う。

 せいぜい五分程度の短い時間だが、朝はこれで十分だ。

 タオルで水気を取り、ドライヤーで髪を乾かす。


 シャワーを浴び終えて、朝ごはんのシリアルを食べつつ、テレビをつける。

 朝のニュース。

 いつも、同じ顔触れのキャスターが並ぶ。

 このニュース番組が別の番組に切り替わったら、大学に行く合図だ。

「・・・・・・・・・・・・ん」

 ふう、とため息を吐く。

 食べ終わった食器を洗い、ペットボトルから水を飲む。

「・・・・・・ふう」

 下着にTシャツだけを着ていた姿に、ズボンをはいて、パーカーを着る。

「さて・・・・・・」

 忘れ物はないかな、とカバンを確かめて、スマホと財布を放り込んで、カバンを肩にかけると、鍵を持って玄関へ向かう。

 スニーカーを履いて、扉の外へ。

 寒いかと思ったけれど、日差しが眩しい。

 今日は、むしろ暑くなるかもしれないな、と思いながら、玄関の鍵をかけた。


+++


「はなさん。おはよう」

「おはようございます。サン」

 はなさんに挨拶をして、隣に座る。

「はなさん。昨日のあれ、見た?」

「サンが送ってきた動画ですか?」

「そそ」

「見ました。・・・・・・猫でしたね」

「猫だったねえ」

 はなさんがくすくすと笑っているのは、動画の内容を思い出しているからか。

 確かに、面白かわいい動画だったからな、と思っていると、

「サンはあれを見て、にゃーにゃー言っていたわけですか」

「う・・・・・・」

 からかうような視線に、詰まる。

 確かに、動画のURLを送った後で、電話してにゃーにゃー言ってしまったが、

「かわいかったじゃん」

「ええ。かわいいですね。サンが」

「くう・・・・・・!」

 そうからかわれると何も言い返せない。

「・・・・・・はなさんは、猫ににゃーにゃー言わないの?」

「んー。・・・・・・話しかけはしてもにゃーにゃーは言いませんね」

「ほう・・・・・・!」

 今度ペットショップにでも連れてって試してやる。

 そう心に誓ったところで、講師が入ってきた。


+++


 はなさんと分かれて帰宅する。

 途中でコンビニに寄って、夜ご飯としておにぎりとサラダを買った。

 ビニール袋片手に、カバンから部屋の鍵を出して、鍵を開け、ドアノブをひねる。

 ドアを開ければ、誰もいない部屋だ。

 電気のスイッチを入れれば、暗い部屋が明るくなる。

「・・・・・・ただいま、と」

 誰もいなくても、口を突いて出る挨拶に苦笑する。

「誰もいないよー、と」

 言いながらスニーカーを抜いで、部屋に入る。

「・・・・・・ふう」

 カバンを放り出し、テーブルの上にコンビニのビニール袋を載せて、座り込んでため息を吐く。

「んー」

 ぐぐ、と伸びを一つ。

 ビニール袋を開けて、中身を取り出す。

「あ。・・・・・・ドレッシング買ってきてない」

 忘れてた、と考えて、冷蔵庫へ向かう。

「マヨ。マヨよ・・・・・・」

 マヨネーズは買ってある。

 サラダへとかけて、

「いただきます」

 おにぎりを頬張り、ペットボトルのお茶を飲んで、サラダに箸をつける。

「・・・・・・」

 しばらく、無言で食べる。

「なんというか、コンビニごはんって、なんか味気ない気がする」

 おいしくないわけではない。むしろおいしい。

 ただ、なんとなく味気ない。

「・・・・・・なんだろ」

 ふと思うのは、夕飯も、どこかではなさんと食べてくればよかったかなあ、ということだ。

「・・・・・・ふ」

 毎日はなさんとは会っている。

 外にいる間は、はなさんと一緒にいる時間の方が多い。

 だからか、家で一人になると、寂しく感じる。

「・・・・・・はなさんシック」

 言ってて何をばかなことを、と自嘲する。

「また明日、だもんね」

 テレビをつけて、だらだらと過ごす。

 ネットをぶらぶらとあさって、面白そうな動画を見る。

 そうやっているうちに、夜も更けてきた。

「・・・・・・んー」

 タオルを持って風呂場へ向かう。

 シャンプー、洗顔、ボディソープ。

 全身を綺麗に洗って、タオルで拭いて、ドライヤーで髪を乾かす。

 歯を磨いて、ゆすいで。

 部屋に戻り、朝跳ね飛ばしたままだった布団を正しく引き直す。

「・・・・・・・・・・・・よく考えると不思議」

 まだ、寝るには惜しい、という思いがある。

 なのに、朝起きる時は、ここから出るのに鋼の心が必要になる。

「ふふ」

 笑いが漏れた。

「・・・・・・あ」

 カバンからスマホを取り出し、充電器の上に置く。

「・・・・・・さて、と」

 明りを消して、布団の中へと潜り込む。

「おやすみなさい」


 そうして、明日がまた来る。

 ぼくの毎日は、こうやって過ぎていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ