念仏、諸悪の根源、充電器
スマホを見る。
バッテリーが切れそうになっている。
テーブルの上に置いてある、無接続タイプの充電器の上へと置いた。
「・・・・・・・・・・・・んー」
スマホの画面を眺めていて疲れた目を揉んだ。
ぼんやりと外を見た。
ざあざあと、なかなかな勢いで雨が降っている。
今日が休日でよかった、と思うべきだろう。
いくら何でも、こういう天気の時に外に出ては、風邪を引いてもおかしくない。
こういう天気に外に出るのも、時には嫌いではないのだけれど、それで風邪を引いてしまえば、はなさんに呆れられた上ですごく怒られるだろう。
それは嫌なので、今日は大人しくのんびりしていようと決めた。
特に予定もない日である。
とはいえ。
「暇です。はなさん」
呟いてみたところで、スマホのバッテリーが切れかかっている現状、電話はできない。
ということで、
「・・・・・・むう」
充電器の上に置いたまま、はなさんへとメッセージを送ってみた。
「・・・・・・はなさん。暇です、と」
雨の勢いは強く、風も相当強いみたいだ。雷が鳴っていないのが不思議な気もする。
「お?」
はなさんからの返信。
「朝ごはんは食べましたか? とな? ふむ、今日の朝ごはんは、買い置きしてあった菓子パンとコーンスープです。と」
ちょっとひもじい気がしてきた。
もうすぐ昼だ。
「・・・・・・あれ?」
よく考えると、食料が少ないかもしれない。
収納に使っているコンテナを開けてみると、カップラーメンがいくつか出てきた。
「・・・・・・む」
今日は、これの気分じゃない、とコンテナへインスタントラーメンを戻す。
「あー・・・・・・」
どうしようかな、と考えた。
スマホを見ると、はなさんから返信が来ていた。
「・・・・・・お昼は?」
むむ、と唸った。
「何を食べようか考え中なのだよ。はなさん」
なんとなく、お肉と野菜が食べたい。
「うん」
冷蔵庫の中身にも特に何も残っていないことだし、
「・・・・・・ちょっと、コンビニに行くか」
そう決めれば、部屋着を脱いで、ラフではあっても、ちゃんと外に出られる服に着替える。
「・・・・・・」
あまりラフさでは部屋着と変わらないのだけど、外行きと部屋着では、やはりそれなりに気分が違う。
ただ、玄関を開けると、
「雨ー」
今日の暇という、諸悪の根源が空か降り注いでいる。
勢いは強く、傘を差してもそれなりに濡れそうだ。
風向きの関係か、玄関から吹き込んでくることはないけれど、
「んー・・・・・・。まあ、行くか」
決めたら、後はタイミング。
なんとなく、気持ち、ちょっとだけ、雨がマシになったかな、と思ったところで、傘をさして外へ出る。
まあ、気持ちマシ、と思ったところで、実際にはさほど関係ないわけで。
「んー。帰ってきたらシャワーを浴びよう」
アパートの敷地から出る位の距離を歩いただけで、足元が結構濡れてしまっている。
「サンダルとかの方が、濡れても気にならなくてよかったかもなあ・・・・・・」
スニーカーで出てきたけれど、ちょっと後悔する。
雨と風の勢いが強いおかげで、ぼくの支える傘も両手でしっかり構えないと、結構重い。
「・・・・・・はなさんに言ったら、どっちにしても怒られそうな気がしてきたよ」
想像すると、なんとなく口元が緩んだ気がする。
「どっちでもいいか」
スマホは充電中なので置いてきたし、さっさと買い物を済ませて帰るとしよう。
近くのコンビニに行って、焼肉弁当、サラダ、菓子パンをいくつか。飲み物として、ジュースとお茶をカゴに入れ、いくつかのスナック菓子も取って、
「うーん」
レジに持って行けば、二千円ほどになった。
お金を払って、お弁当だけ温めてもらう。
待っている間、外を見れば、雨の勢いはそれほど変わったようには思えない。
雨のせいか、他の客の姿はない。
温めてもらった弁当と買った品々のビニール袋を持って、コンビニの外へ出て、傘を差す。
「さて!」
ちょっと勢いをつけて、歩く。
行きは向かい風だった。帰りは追い風だ。
後ろに傘を傾けるけれど、腰から下がどんどん濡れていっているのが分かる。
「うえー・・・・・・」
アパートにたどり着いて、部屋に入る。
傘を閉じて、荷物を置いて、
「あー。・・・・・・パンツまでびちゃびちゃ・・・・・・」
こりゃひどい、と玄関に鍵をかけて、服を脱いでしまう。
脱いだ服を持ったまま洗面所へと向かって、洗濯機に入れてしまう。
「・・・・・・シャワー浴びちゃお」
買ってきたものは玄関前に置いたままだけれど、洗面所まで来た以上は、シャワーを浴びてしまった方がいい。
+++
ざっとシャワーを浴びた後、タオルで体をふきつつ部屋へ戻る。
クローゼットから下着を取り出して身に着け、ベッドに脱ぎ散らかしていた部屋着を着る。
それから玄関へ戻って、置きっぱなしにしていた荷物を持つ。
ビニールが結構濡れているから、タオルで軽くふき取って、部屋へと持ち込む
「・・・・・・あ、はなさん」
スマホには、メッセージが届いている。
「・・・・・・お昼は、焼肉弁当なり、と」
はなさんは、焼きそばにしたそうだ。
「おいしそうだねえ」
はなさんの手作りだろうし、コンビニ弁当よりおいしいだろうな、と考えながら、割りばしを割って弁当に突っ込む。
しばらく、黙って弁当を食べた。
「・・・・・・・・・・・・ふうむ」
食べ終わってしまえば、また暇な時間だ。
思えば、暇、というより無気力、かもしれない。
ゲームもネットもある。
暇つぶしの道具ならいくらでも。
ただ、どれにも手を出す気にならない。
「・・・・・・はなさんと、遊びたいなあ・・・・・・」
ぼやいた。
なんだか、外の雨の音が、ひどく退屈な念仏に聞こえた。




