コンテナ、塵、睡眠時間
「塵も積もれば山となるって感じ」
「? どうかしたんですか?」
ぐたー、とテーブルに突っ伏していると、はなさんがぼくを見て首を傾げながら問うてきた。
「んー・・・・・・」
それに対して、なんともあいまいな唸り声をあげて、
「なんかねえ。・・・・・・積み重なってる感じ」
「何がです?」
「ん。疲れ?」
「何か、疲れるようなことがあったんですか?」
ちょっと心配そうなはなさんの声に、なんでもない、と首を振る。
「ただ、一人暮らしを始めて、ちょっと疲れたかなって思うだけ」
「なるほど・・・・・・。ホームシックですか?」
「え? うーん。そういうのとは違うかなあ。・・・・・・単純に、一人で全部やるのに慣れてないから、疲れがたまったかなって感じ」
「あー・・・・・・」
納得した、という感じで、はなさんは声を上げる。
「・・・・・・んん」
腕を伸ばして、体を伸ばす。
ぐぐ、と伸びていくと、腕の先から何かが抜けていく気もする。
「まあ、慣れていけば、だんだん落ち着くとは思うんだけどね」
「新生活疲れですね」
「五月病の原因だね!」
「まだ治ってないんですか?」
どや顔で言い放ったぼくに、はなさんは苦笑している。
「・・・・・・五月過ぎたら六月病になるよ」
「・・・・・・どういう病気なんです?」
「じめじめしてカビが生えているような気配がするようになる」
「・・・・・・・・・・・・症状の想像がつきそうでつきにくい説明です・・・・・・」
なんとも難しい顔してはなさんが笑っている。
「今は特にあれだね。眠い」
「うん?」
「やっぱり、一人で好き勝手出来ると、なんというか睡眠時間が減るよね」
「そんな夜中に何をやっているんですか?」
はなさんの問いに、ぼくは指折り数えて、
「ゲームしたり、動画見たり、マンガ読んだり? なんていうか、際限がなくなっちゃって」
「自分で自分を止めないと、いつまでも続いちゃうやつですね」
「そうなんだよねえ。・・・・・・なんというか、本当にキリがない」
ネットを漁れば、いくらでも見るものが出てくる。
そのせいで、どこまでやってもキリがない。
「ふうむ。睡眠時間が足りないのは問題ですね」
「気を付けて寝ればいいんだけどね。気が付くと時間が過ぎちゃって」
はなさんは顎に手を当てて、ふむ、と考えて、
「タイマーとかで、時間を測ったらどうですか?」
「あー。寝る時間になったらアラームを鳴らすってこと? 目覚ましの逆だね」
いい案のような気もする。
「・・・・・・どうだろう?」
「要は、自分で習慣をつけてしまえばいいんですよ。毎日やっていれば、自然とそうしなくてもできるようになりますよ」
「・・・・・・はなさんもそうしてるの?」
「そうですね。わたしは、いつも同じ時間に起きて、同じ時間に寝るようにしていますから。・・・・・・こういうの、規則正しく生活した方が、結局のところ疲れは溜まりにくいですよ」
そういうものなのだろうか、と考える。
「習慣ていうのは、そういうものですよ? 休日だけ遅くまで寝ているとか、そういうことをやる方が疲れやすいです」
「そうなんだ・・・・・・」
「そうですね。毎日同じ時間に寝るようにしていると、たまの徹夜とか、翌日がすごく辛くなります」
「ふうん」
はなさんがなんとも実感のこもったことを言う。
「サンも、いい機会ですから、そういう風に生活習慣を改めてみてはどうでしょう」
「そうだねえ」
どうしようかな、と考え、
「ちょっとやってみたい」
と答える。
「はなさんの言うことはためになるなあ」
頬杖をついてはなさんを見ると、はなさんは微笑していた。
「参考になったならいいんですが」
「・・・・・・でも、アラームっていうのもなんかやだなあ」
腕を組んで考える。
というか、
「よく考えると、ゲームとか動画見たりとかしている時って、大概ヘッドホンして聞いてるから、アラームだと気づかないかも」
「・・・・・・あら、それは困りますね」
はなさんも、なんとも困ったような顔をしている。
「・・・・・・うん」
「というか、いい時間になったらそういうのをやめればいいのでは?」
「それができるなら、こんなことにはなっていないのだ」
「・・・・・・まあ、そうですね」
なんとも言いたげにこちらを見たはなさんは、仕方ない、というようにため息を吐いた。
「・・・・・・ああ、そうです!」
はなさんが閃いた、というように言った。
「何?」
「電話しましょう!」
「?」
「わたしは夜にサンに電話しますよ」
「電話・・・・・・」
「ええ。わたしは大体同じ時間に寝ますから。わたしが電話して、寝る時間までお話すれば、いい時間に寝るようになりますよ」
「あー。いい案?」
どうだろうか、とぼくは首を傾げて考える。
まず、はなさんと電話する。
これに関しては、多分電話には気づくようになるから、多分大丈夫。
いくら何でも、テーブルの上でがたがた震えていれば、気づけると思う。
というかはなさんと電話するのは逃したくない。
気になるところがあるとすれば、
「はたして、はなさんと楽しく会話しているのは、いいタイミングで切り上げられるだろうか・・・・・・?」
「何を言っているんですか? わたしが強制的に切り上げますとも」
「えー・・・・・・」
なんとも自信満々に言い切ったはなさんに、ぼくはきっととても微妙な顔をしたと思う。
「まあ、今夜あたりからやってみましょう」
「まあ、はなさんと話すっていうなら、とても楽しそうだし、うん。やってみようか」
とても楽しそうだ。
「分かった。楽しみにしてる」
夜になり、服の収納に使っているコンテナボックスに、アイロンをかけた服を閉まっていたところで、はなさんから電話がかかってきた。
強制的に切り上げるってどうするんだろう、と思っていたら、
「では、おやすみなさい」
話の途中だというのに、いきなりぶつんと電話が切れた。
「えー・・・・・・」
時間を見ると、夜の九時半。
「・・・・・・というか、はなさんってこの時間に寝てるの?」
早寝早起き過ぎませんか? はなさん。




