山賊、城下町、フクロウ
夕飯に惣菜を買うことにした。
今日の夕飯は、ごはんと山賊焼きだ。
スーパーの総菜売場にセール品として安く売られていた。
名前はよく聞くが、レシピは知らない。
味付けした鶏肉の焼き物、ということくらいしか知らない。
ただ、美味しい。
ぼくは好きな味だ。
なんで山賊焼きと呼ばれるのかも知らない。
察するに、山賊が焼いていたからか。
「・・・・・・どうでもいいけど」
ごはんと肉。これだけだと野菜が足りない。
だから、パック売りのサラダを一緒に買う。
汁物は、買い置きのインスタント味噌汁が残っている。
足りなければ、カップラーメンを足せばよし。
そうやって、スーパーの売り場をめぐっていて、ふと足を止める。
ケーキが売っている。
「む・・・・・・」
手に持ったカゴを見れば、今日の夕食が入っている。
ここにデザートを追加するのは、
「ありだな」
さっくりとショートケーキが二切れ入ったパックを一つカゴに入れる。
レジに持って行って、会計を済ませて、帰路につく。
外はすでに暗くなっている。
ふと思い立った。
「はなさんに、山賊焼きってなんで山賊焼きって言うか知ってる? と」
メッセージを送っておいた。
物知りなはなさんなら、何か知っているだろうか。
アパートにたどり着いて、鍵を開け、自分の部屋へと入る。
惣菜をテーブルの上に置き、箸を持ってきて、食事の用意を整える。
電気ケトルでお湯を沸かし、ペットボトルのお茶を持ってきて、
「あ」
はなさんから着信があった。
「ええ、と?」
『山賊焼きは、鶏肉を揚げて調理するから、【取り上げる】と【鶏揚げる】の語呂合わせという説と、一番最初に作ったのが【山賊】というお店だったので、山賊焼きという、という説があるそうですよ』
「へー・・・・・・」
よく知ってるなあ、と簡単していたら、もう一つメッセージが来た。
『ネットで調べました』
「あ、うん。そうなんだ」
はなさんも律儀だなあ、と苦笑しながら、惣菜のパックを開けて、食事を始めた。
テレビをつける。
特に何、というわけでもない時間。
ぼんやりとごはんを食べていると、テレビの中では旅番組になっていた。
「城下町、ねえ・・・・・・」
城があり、その城に勤める者のための家が並び、人が集まれば町になる。
そうしてできた城下町について、紹介している番組だ。
リポーターが、お土産を紹介したり、地元の特産を出す料理屋の料理に舌鼓を打ったりしている。
食事を終えて、ゴミを捨て、食器を洗って戻ると、はなさんからメッセージが届いていた。
「明日の予定か」
明日は平日。
普通に大学だが、朝一の講義はない。だから、いつもより少し遅めに家を出ることになる。
はなさんが聞いているのは、講義が全部終わった後のことだろうか。
「・・・・・・バイトもなし。何もなければ、帰るだけだなあ」
特に用事なし、とメッセージで返信する。
「・・・・・・用事ないし、・・・・・・何か食べに行くかな」
はなさんだったら、何か食べたいものあるだろうか、と考えて、
「?」
返信が来た。
「・・・・・・山賊焼きが食べたいとな」
ぼく、今夕食で食べたんですけど。
「・・・・・・あー。ぼくが話題出しちゃったからか」
はなさんの今日の夕食は、軽めだったらしい。
そのためか、山賊焼きと聞いて、山賊焼きについて調べたら、なんとなく食べたくなったとか。
「・・・・・・あるよねえ」
飯テロ、という単語が浮かんだ。
「はなさん、ごめんよ」
とは言いつつも、
「この辺に、山賊焼きが食べられる店なんてあったっけ?」
メッセージで送ると、
「え? はなさんが作るの? それは食べたい」
期待が高まってきた。
はなさんは、レシピも調べた、ということで、明日の講義が終わったら、スーパーに行って材料を買って作るから、一緒に夕食を食べないか、とお誘いをくれた。
「ぜひとも。行きますとも」
即答でメッセージを送っておく。
「・・・・・・今日食べたやつとは違うのかな」
まあ、それほど味に違いは出ないとは思う。
ただ、温めなおした惣菜と、出来立ては、きっとおいしさが違うはず。
はなさんの手作りなら、ハズレもないだろうし。
「しかし、はなさん。ないなら作ればいいじゃない、な人だったか」
はなさんは、几帳面で真面目な割に、面倒くさがり、というか効率厨なところがあるから、普通に惣菜買ってきて終わりにすると思っていた。
「あー、でも、スーパーの総菜って、定番なもの以外は結構入れ替わるからなあ」
うんうん、と頷いていると、はなさんからメッセージの着信。
『山賊焼きって、ニンニクを使うから、結構匂いがしますが、大丈夫ですか?』
「・・・・・・・・・・・・」
ふむ、と唸った。
食べている時は、それほど気にならなかったけれど、明日はなさんと会うときに指摘されるのは嫌だ。
「・・・・・・ニンニクの匂い消し」
こういう時のネット調べ。
「リンゴ、チョコ、牛乳」
チョコはある。リンゴはジュースがある。牛乳もある。
全部食べておこう。
「まあ、ぼくはニンニク嫌いじゃないよ、と」
においも気にしない、とメッセージを送る。
『気にしましょう。エチケットです』
「ごもっとも」
はなさんの苦笑が浮かんだ。
匂い消しに有効な食材を列記してメッセージを送ると、それも買わないとですね、と返信が来た。
何はともあれ、明日の夕方は、はなさんとスーパーで夕食の買い物をして、はなさんの手作りの夕食を食べることになりそうだ。
「・・・・・・ふふ」
それは楽しみだな、と思い、部屋の窓を開ける。
におい、と言われて気になったからだ。
夜の空気は、少し肌寒いけれど、すっきりした感じがする。
空気の入れ替えをしている間、ふと空を見たら、星が見えた。
「・・・・・・んー」
気分がいい時は、星もきれいに見える。
明日のはなさんの夕食が、なかなかに楽しみになっているのを感じて、少し頭がのぼせている気がした。
夜の空気に当たって、ひんやりと頭が冷えていく気がする。
メッセージの着信。
はなさんから、『明日は楽しみですね。お休みなさい』と来ていた。
「・・・・・・おやすみ、はなさん」
外は静かだが、遠く、ほーほほー、とフクロウの鳴き声が聞こえた。




