玉手箱、ギャグセンス、ゴミ
「玉手箱を開けました。何が入っていたでしょう?」
「ギャグセンス」
「・・・・・・・・・・・・」
「で? 何の質問だったの?」
「いえ、ただの大喜利だったんですが」
はなさんが何か雑誌を読んでいて不意に振ってきた質問に即答していた。
「・・・・・・というか、なんでギャグセンスなんて言葉が出てくるんですか?」
「んー・・・・・・」
ぼくが読んでいる雑誌を見せる。
「ギャグマンガの描き方?」
「うん。なんか特集してる」
別にマンガが描きたいわけではないが、なんとなく読んでいた。
そのため、不意にギャグセンスなんていう言葉が出てきた。
「でもさ、ギャグセンスってなんだろうね? 笑いのツボを突く力?」
「そこですでに別のマンガを引き合いに出してませんか?」
はなさんがくすくすと笑っている。
「それで、いきなりなんで大喜利?」
「いえ、ページ跨ぎのあおり文に、『玉手箱の中身は何か?』と書いてあったもので、なんとなく読みました」
「ふうん。だったら、はなさんだったら、中身は何だと思う?」
「そうですねえ・・・・・・」
はなさんは、しばらく、んー、と唸って、
「・・・・・・そもそもこの場合、玉手箱の中身っていいものか悪いものか、どちらが入っているんでしょう?」
「言われてみれば。玉手箱って開けちゃダメな感じがあるから、悪いもののような気もするけど」
「悪いものを入れた箱をお土産に渡す竜宮城の人々。・・・・・・浦島太郎は嫌われていたんでしょうか?」
なんか違う方向に考察が入っていってるけと面白いからこのまま話を進めよう。
「でもさ、歓迎されて、一通り歓迎された後に、引き留められつつも帰るって、招待されたお客様としては、理想的なムーブではなかろうか」
「なるほど。確かに。いくら歓迎しても長居されたらうっとうしくなるものですし、引き留められるうちに帰る、というのはいいお客様ですね」
うんうん、とはなさんが頷く。
「そもそも、亀を助けたお礼なんだから、悪いものを入れた箱なんてお土産にはしないよ」
「その通りです。・・・・・・となると、玉手箱の中身はもらってうれしいもの・・・・・・」
また悩みだしたので、ぼそっと呟いてみた。
「・・・・・・ギャグセンス」
「ぷふっ!」
あ、ウケた。
「なんかじわっと来ましたよ」
「分かる。ぼくも考えたらあの答えはきっと出なかったと思う」
「もはやあの回答が一種のギャグですよね」
「ウケたんならよかったよ」
テンションと状況からツボに入った感じだろうか。
「ていうか。こういうもので、入っていて不自然ではなくて、かつ、喜ばしくてウケが取れるものって、何だろう?」
「いえ、ウケは狙ってないですよ? でも、この場合、もらってうれしいお土産ってなんでしょうね?」
「相手が選ぶものだから、こちらが欲しいものがもらえるわけではないという」
「難しいですねえ。・・・・・・お土産ならなくなるものがいいと言いますが」
改めて考えると難しいのか、むむむ、と唸りだした。
確かに、じっくり考えると思いつくどれもがなしに思えてくる。
「食べ物とかが無難?」
「腐りませんか?」
「浦島太郎は枯れたけどね」
「うまくはないです」
「きびしい」
くすくすと笑い合う。
「亀を助けたお礼なんだし、ちょっとした小金が入っている」
「金一封ですか?」
「一万と、八百円?」
「なぜそんな端数が・・・・・・」
「消費税」
「・・・・・・いえ、ともかくお金はなしでしょう」
ちょっと笑いをこらえた感じがしたけれど、はなさんは首を振って却下した。
「でも、海の底の竜宮城だし、真珠とかのお宝入ってそうな気が」
「竜宮城で真珠ってお宝になるんでしょうか? あれって、貝の中に入った不純物をコーティングしたものですよね? だとすると、人間で言えば排泄物か何かに当たるのでは?」
「うわ。そこまで考えるの?」
むむ、と唸る。
「だとすると、竜宮城の人たちにとって、真珠はゴミになるかもしれない。・・・・・・もしくは、抜けた歯みたいな扱いかも・・・・・・?」
「それを贈り物にするとなると、すごい神経、ということになりますねえ」
はなさんは、苦笑している。
「だから、こういう場合は、海の中では手に入り辛いものと、というのはどうでしょう?」
「沈没船のお宝」
「それ、竜宮城の人にとって価値があるものなのでしょうか?」
「となると、玉手箱の中身は金銀財宝系のお宝はなさそうだね?」
「・・・・・・海藻やサンゴを使っての工芸品?」
「ありかなあ。・・・・・・亀の甲羅」
「せっかく助けたのに剥ぎ取られてます?」
「そもそも、老化する煙をどうやって箱に詰めたのか」
「それがなぜ贈り物になるんでしょう?」
「いや、乙姫は開けるな、って言ったんだから、むしろその箱そのものが価値のあるお宝だった、というのはどうだろう?」
「そのあたりが無難・・・・・・。いえ、待ってください。本題がずれてますよ」
「む?」
えっと、と思い出す。
「ああ、そうだった。玉手箱の中身の話だった」
「そうですよ」
「・・・・・・ギャグセンス」
「さすがに三回目はなしですね」
「むう」
今度はウケなかった。
「というか、よくよく考えるとギャグセンスって何ですか?」
「受け取ると、話す言葉全てがギャグになる」
「何かの特殊能力か、もしくは呪いの類ですね。それ」
「乙姫一押しのギャグマンガが入っている」
「竜宮城で大人気なんでしょうか?」
「逆にまったくギャグのないシリアスな、だけどツッコミどころ満載のマンガが入っている」
「いえ、マンガから離れましょうよ」
「・・・・・・そうか、箱開けて若者から老人になるギャグか」
「元に戻れなかったらギャグじゃないでしょう」
「・・・・・・もう、かまぼこでいいんじゃないかな」
「めんどくさくなってきましたね?」
ふう、とため息を吐いて、はなさんが雑誌を閉じた。
「まあ、結局、形のないものが入っていたんでしょう」
「本当のお宝は、思い出でしたって?」
「それはもらった方からすると、あまりありがたくはなさそうですよねえ」
「というかさ。浦島太郎は漁師でしょ? 実は魚をたくさん釣っているので恨まれている説」
「・・・・・・・・・・・・昔話の考察になってますよ。不毛ですからやめましょう」
「なんだかんだと話が転がったので、ぼくは大変面白かったです」
「それは何より」
はなさんは肩をすくめて苦笑した。
「まあ、どちらにせよ。浦島太郎はもらった玉手箱をゴミとして処分したと思う」
「段ボールか何かじゃないんですから」




