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バイト、タップダンス、世間話

 ただいまバイト中。

 ぼくは、店の中を見回して、客を確認する。

 それほど広くはない店内ではあっても、今の時間はそれなりに客が入っている。

 三分の二くらいは常連で、半ば顔見知りになりつつある。

 トレイに載せたコーヒーとサンドイッチのセットをテーブルに置く。

「ご注文は以上でよろしいですか? ・・・・・・はい。ではごゆっくりどうぞ」

 新規のお客様は、カップルのようだ。

 同い年くらいだし、おそらくは、同じ大学の学生だろうと見当をつける。

 テーブルを離れれば、なにやら話に花を咲かせ始める。

 それを背にしながら、ぼくはカウンターの傍へ戻って、店内を見回す。

 なごやかな雰囲気と、漂うコーヒーの匂いが相まって、バイト中といえど落ち着いた気分になって心地いい。

 呼ばれれば近づいて行って、お代わりを注ぐ。

 時には、常連に呼び止められて、少しばかりの世間話に興じることもある。

 最近の調子を聞かれたり、はなさんのことを聞かれたり、友人のことを聞かれたり。

 不思議と話しやすい。

 聞けば、この店は毎年ぼくの通う大学の学生をバイトとして雇っており、そういう新顔のバイトと世間話をするのが楽しみで来ている常連もいるという。

 バイトを始めてそれほど長い期間が過ぎたわけではないのだが、常連客はこちらが余裕があると見るや何かと声をかけてくる。

 それでいて、他の客に呼ばれれば、すぐにそちらへと行くように促してくる。

 時に、別の客がこちらに声をかけるより先に、そういう気配を察知していることもあり、なんともやりづらい。

 そういう常連の客達というのは、大体一時間ほどすると帰っていく。

 そうして客の姿が少なくなっていくと、不思議と新規の客も帰っていく。

 そうやって、ぽっかりと客のいない、静かな時間ができる。

「・・・・・・・・・・・・」

 代金を受け取って、客を見送る。

 それとすれ違うように、はなさんがやってきた。

「・・・・・・いつも思うけど、一体どうやってタイミング図ってるの?」

「え? このくらいかな、ってあたりつけて来てるだけですけど?」

 不思議と、はなさんはこの辺りの時間を外すことがない。

 はなさんを空いている席に案内し、おしぼりと水を出す。

 他に客はいないから、ここにいても怒られはしないけれど、

「いつもの?」

「ええ。いつものをお願いします」

 カウンターの方へ向かえば、マスターがすでに準備を始めている。

 コーヒーの注がれたカップを受け取り、トレイに載せてはなさんの席へと運ぶ。

「どうぞ」

「ありがとう」

 くすくすとはなさんは笑って受け取る。

「・・・・・・」

 一口、コーヒーに口を付けたはなさんは、テーブルの傍に立っているぼくをみて、

「美味しいですね」

 そう言って、微笑む。

 それから、二人で世間話に興じるのだった。


+++


「・・・・・・とまあ、大体こんな感じ」

 ぼくは、そんな風に話していた。

 相手は、高校時代の友人だ。

「え? いや、はなさんは新しい友達」

 高校時代の同級生は、みんな別の大学に行った。

 全員違う県だから、簡単に会おう、とも言えない。

 たまに、こうやって電話をする。

「? はなさんと会いたいって? ぼくも紹介したいなあ」

 くすくすと笑いが漏れる。

 友人は、ぼくの話を聞いて、楽しそう、と感想をくれた。

「楽しいよ。そっちはどう?」

 聞けば、恋人がほしい、と答えが返ってきた。

「なあに言ってんの。ぼくらの中じゃ一番モテてたくせに」

 それでいて、恋人を作らなかった友人でもある。

「他のやつらに気を使ってた? ・・・・・・理想が高すぎて合う相手がいなかっただけでしょ?」

 中学も合わせれば六年付き合った相手だ。

 なんだかんだと気心は知れている。

 軽口のたたき合いも、あるいは、相手の環境の茶化しも、慣れたものだ。

「ぼく? ぼくははなさんいるし」

 ふふん、とどや顔してやる。

「いや、付き合っているわけじゃないけど。・・・・・・はいはい。でも大親友であることは間違いないもんね」

 くすくすと笑う。

「はなさんがさ・・・・・・」

 ふと、友人が口にした。

「え? またはなさんのこと言ってる? そりゃ。今ははなさんとばっかりで・・・・・・」

 言われてみれば、そうだなあ、と自覚した。

 なんというか、ぼくのことを話すと、いつの間にか全部はなさんになる。

 電話の向こうの友人は、やっぱりはなさんと会いたい、と言ってくる。

「一緒の大学行けばよかった? それはだめだよ。そっち、ぼくと違ってやりたいことあったでしょ?」

 ぼくは、行ける大学に行ければよかった。

 友達の中には、海外に行ったのもいる。

 もう地元で就職したのもいる。

 ふと思った。

「もしかすると、ぼくが一番不真面目に遊んでるかもねえ・・・・・・」

 楽しくはある。

 けれど、いまだにぼくは、将来の夢を見つけられていない。

 なんとなく過ごしてきて、今もなんとなくだ。

 このままだと、なんとなく、過ごしていくのかも。

 友達との話を終えて、電話を切る。

「・・・・・・ふーん」

 なんとなく、天井を見上げた。

 パソコンを起動して、ブラウザを立ち上げる。

「・・・・・・なんだろうね」

 昔の友人と話して、なんとなく刺激されたものがある。

 それを何て言うかはわからないけれど、

「なんとなくでも、いいんだけどさ」

 ふう、とため息を吐いた。

「・・・・・・あ、これ面白い? 今度はなさんに言ってみよっと」

 そこまで独り言ちて、あ、と気づいた。

「また、はなさんのこと」

 仕方ないなあ、と苦笑する。

 今のぼくは、はなさんと過ごすのが当たり前になっている。

 それほど長い時間付き合ったわけではなくても、はなさんとは仲良しなのだ。

「うーん…」

 はなさんと遊びに行きたい。

 動画サイトを開いて、適当に動画を開いては、閉じ、開いては、閉じと興味が向くままに巡回する。

 ふと、その一つに目が向いた。

「・・・・・・ふむ」

 動画の内容から、検索エンジンで調べたら、近くで体験できるところがあった。

 はなさんに電話をかける。

「・・・・・・もしもし? はなさん。ぼくぼく」

 へへへ、と笑う。

「あのさ。はなさん。あれやったことある? 足でかかか、ってやる。そう。タップダンス!」

 ちら、とブラウザを見る。

「なんか、近くで体験教室やっててさ。今度一緒に行ってみない?」

 きっと、はなさんはOKしてくれる。断られたとしても、自分一人で行って体験したことをはなさんに話せば、きっと楽しんで聞いてくれる。

 どっちにしても楽しみなことだ。

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