イヤホン、ボールペン、修正テープ
「しまった・・・・・・」
ボールペンの滑りが良すぎた。
「・・・・・・はなさん。修正液か修正テープ、持ってない?」
「いえ、持ってませんね」
「そっか」
「・・・・・・何に使うんです?」
「ちょっと、書き損じたから修正」
書いていたものをひらひらと示す。
「・・・・・・? なんですか? これ」
はなさんは、ぼくが書いていたものを見て、首を傾げた。
「通販の申し込み。・・・・・・カタログについてた申込書でさ。これ一枚しかないから」
修正液なりなんなりあれば、と思ったけれど、
「しょうがない」
書き損じた部分に二重線を引いて、その上に正しい内容を記載する。
「・・・・・・何を買うんです?」
「カバン。ちょうどいい大きさのやつが見つからなくてさ。そしたら、ここに載ってたから」
今までは、リュックサックタイプのものしか持っていなかった。
教科書類を入れて大学に来るにはちょうどよかったのだが、普段持ち歩くには大きすぎた。
「別に適当なカバンでもよかったんだけどね。なんかデザインがしっくりこなくて」
「デザイン」
「そ。別にどうしても必要ってわけじゃないんだけど、なんとなくほしくて」
んー、と必要事項を記載していく。
「サイフとスマホ入るくらいのやつはあるんだけど、なんか出た先でほしいものがあったときに、手で持ち歩くの大変でさあ」
「ああ。なるほど」
「それに、カバンが一種類しかないっていうのも、寂しいし」
どうせなら、服と一緒で持ち替えしたい。
「カバンだけじゃなくて、靴もね。スニーカーだけじゃなくて、革靴とかも試してみたいかなあ」
高校の時ですら、革靴かスニーカーと書いてあったので、迷わずスニーカーを選んでいた。
正直、上下の服以外はあまり気を配ってこなかったけれど。
「サンもそういうの気にするんですねえ?」
「高校生の時は、財布とスマホだけで事足りたんだよ。だから、ジャケットのポケットにでも入れておけばよかったんだけど」
「大学生に入って変わりました?」
「ううん? どうだろう。財布とスマホだけあればいいのは変わってないんだけど・・・・・・」
むむ、と腕を組んで考えて、
「はなさんさ。いつもいい感じのカバン持っているじゃない?」
「わたしですか?」
今日もそうだ。
はなさんの傍らに置いてあるカバンは、ノートが余裕を持って入るサイズがあるのに、決して大きくは見えず、はなさんに馴染んでいる。
「はなさん見てると、カバンほしいなあって」
恰好いい、と思ったからだ。
「なんだかそう褒められると照れますね」
「あはは」
はなさんの服装は、上から下まで決まっている。
それを見ていると、なんとなく真似したくなる。
「・・・・・・はなさんは、どうだろう? 服ってどうやって選んでる?」
「それほど気にしません。デザインが気に入ったら、とりあえず買ってますね」
「自分に似合うとか気にしないの?」
「来ているうちに馴染みますから」
「・・・・・・・・・・・・それはどうだろう・・・・・・」
はなさんの場合、外見がいいから何着ても似合いそうな気はする。
ぼくの場合、似合っていないと感じる服はなんとなく気恥ずかしさが勝って着がたい。
「似合っていないのではなくて、気慣れていないだけですよ。大丈夫。サンなら、よほど奇抜なものでない限りは、どんなものでも着こなせます」
「言うなあ・・・・・・」
苦笑する。
「堂々としていれば、大体は似合って見えますよ」
そういうものかなあ、と首を傾げながらも、必要事項を書き終えた書類を添付の封筒へと納める。
「まあ、似合うかどうかはともかく、欲しいカバンが来たら、持って外出かな」
「新しい服を買えば、外に出たくなるものです。・・・・・・きたらわたしにも見せてください」
「うん。わかった」
+++
カバンが届いた。
財布とスマホを入れる。
ストラップを伸ばして、肩にかけてみる。
「・・・・・・むう」
ぼくの部屋には鏡がない。
洗面台の鏡では、全身は映せない。
「・・・・・・・・・・・・あー」
スマホを遠くに置いて撮ってみたけれど、自分で見る分には何か違う気もする。
「・・・・・・むう」
カタログで見たのは恰好よく見えたのに。
「でもなあ」
それなりの値段はしたものだから、使わないのはもったいなさすぎる。
そうこう悩んでいるうちに、スマホが鳴った。
「あー、はなさん・・・・・・」
届く予定日は知らせていたから、届いたかどうかを聞いてきた。
「・・・・・・」
一瞬、まだ、と返信を打ちそうになったけれど、
「届いたよ、と」
ついでだ。はなさんに会いに行こう。
「はなさんだったら、何ていうかなあ」
アパートを出て、はなさんとの待ち合わせ場所へ向かう。
「・・・・・・・・・・・・」
歩いている最中、なんとも座りの悪い思いをして、カバンの肩紐を何度となくかけなおす。
「・・・・・・」
気恥ずかしい思いもある。
今日来ている服と、色合いは合っていないのでは?
財布とスマホしか入っていないのに、カバンとしては大きすぎないか?
周囲を歩いている人には、ぼくみたいなカバンを持っている人は少ない気がする。
「うーん・・・・・・」
はなさん的に、このカバンはどう映るかなあ。
いろいろと考えながら、待ち合わせ場所へとたどり着く。
はなさんはいた。
いつも通りに、上から下まで決まってる。
ぼくに気づいたはなさんは、イヤホンを外して、こちらを見た。
「あら。サン。素敵なカバンですね」
なんだか、胸を張れる気がした。




