三連休、スーパーマーケット、無効化
三連休も最後の一日。
ぼくとしてはのんびりと過ごすのもよし、と思っていたのだが、
「・・・・・・・・・・・・飢えるね。これは」
冷蔵庫の中が空だ。
おまけに、インスタント食品も、スナック菓子の類すらない。
「仕方なし。買いに行こうか」
ふへえ、とため息をついて、着替える。
気温は高く、今日は夏日、と天気予報も言っていた。
冬と春の服だったものが、春と夏の服に変わってきた。
着なくなる服はクローゼットの奥に入り、半袖やノースリーブなんかの涼し気な服が前に出てくる。
「季節感だねえ」
ちょっと重めの色が多かったものが、色合いも白や青なんかの軽い色が多くなった。
生地も薄いものが多くなったため、クローゼット全体の色が変わって見える。
ふと思いついて、写真を撮り、衣替え、とタイトルを振ってはなさんに送信した。
「・・・・・・さて、行くか」
+++
「おや?」
近くのスーパーマーケットに出向いたところで、カゴを持ったはなさんに遭遇した。
「偶然。はなさんも買い物?」
「ええ。今日は両親がいないので、夕飯はわたしが作る必要がありますので」
「なるほど」
「サンは?」
「冷蔵庫の中身がなくなってしまったので補充にね。・・・・・・インスタント系も枯渇するとか、ちょっと油断してたかなあ」
「おやおや。台風とかが来る季節でなくてよかったですね」
「まったくだよ」
何とはなしに連れ立って歩きながら、ぼくたちは互いに買い物を済ませていく。
「サンは、なんというか、生鮮食品の類は買わないんですか?」
はなさんが、ぼくの持っているカゴの中身を見て言う。
確かに、インスタント食品か、日持ちのするレトルトパックばかり買っている。
あとはお菓子。
「うん? まあ、ごはんのお供があればいいかな。・・・・・・正直、料理するのも面倒だし」
「面倒くさがっているとよくないですよ?」
はなさんの口調はたしなめるようでもあるけれど、
「とはいってもね。大学の学食で食べちゃうことも多いから、家の食材って本当に使わないんだよね。・・・・・・休日だって外で食べることも多いし」
それこそ、休日でも開いている大学の学食が悪いともいえる。
「なるほど。確かに外で食べているなら、家で料理する必要はないですか」
「じいちゃんばあちゃんが野菜なりなんなり送ってくるから、全くしないわけではないんだけど・・・・・・。自分で買ってまでするか、と言われるとねえ・・・・・・」
苦笑が浮かぶ。
「安く済みますよ?」
「それはそうなんだけど、生活費自体は足りてるからなあ・・・・・・」
無理してまでするほどではないし、
「料理する時間も、別のことに使いたい」
「例えば?」
「散歩したり、本読んだり、ゲームしたり」
「遊んでばっかりじゃないですか」
仕方ないですね、とはなさんが苦笑している。
「あとは、食品が便利すぎる。冷凍食品とかすごい楽」
「あー。それはとてもよくわかります」
「冷凍チャーハンとか、皿に盛ってチンするだけだよ? それで一食分できるんだから、楽だよねえ」
「一人だと、そういうものですか」
「夜食にも便利」
「太りますよ?」
「まあね」
ただ、小腹が空いたときには、カップラーメンよりもいい気がする。
「唐揚げとか、パスタとか。チンするだけ食品が勝ちすぎる」
「わかりますけど」
「不思議とインスタント食品より体に悪くなさそう」
「明らかに勘違いだと思いますよ。それ」
チン一つでも、ひと手間くわえた分健康に良さそうな気がする。
「レンジでチンは料理ではないです」
「そうだね」
はなさんの言うことには全面的に同意だ。
「あとね。冷凍うどん。あれも楽」
「うどんが? ゆでないとダメなのでは?」
確かに、そういう手間を感じるが、
「いや、それがさ。冷凍うどんを器に開けて」
「はい」
「沸かしたお湯をかけて、しばらくすると普通に食べられる」
「えー」
茹で済なのか、お湯で解凍してざるにあければ、それだけで食べられる。
「醤油と卵で十分おいしい」
「それはどうなんです?」
「気になるなら、出汁つゆ入れて、お湯を入れてもよし。適当にトッピング散らせば普通にうどんになるよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「でも、インスタントラーメンより絶対健康にいいよ。余計な油も浮かないし」
普通に手短に食べられるのでありがたい。
「なんていうか、そういう手間かけずに食べられるもの、ってなると、生鮮食品の類はいらなくなるんだよね」
「なるほど」
はなさんは、ふう、と一息ついて、
「・・・・・・あれですね。サンは、自分で作ると時短飯になるんですね」
「ああ。うん。それはある」
なんか、こだわる気にならないのだ。
「作ること自体は嫌いじゃないんだけどね」
あはは、と頬をかいて答える。
「でも、毎日ってなると、やっぱり適当になっちゃうというか」
「まあ、それはそうでしょうね・・・・・・」
ふむ、とはなさんが何か考えている。
「はなさん?」
「決めました」
「何が?」
はなさんの急な決定に、ぼくは目を瞬かせる。
「サン。いやだったら断ってくれていいんですが・・・・・・」
「うん。何?」
「今日の夕飯。ご一緒しませんか?」
「え? それはいいけど」
「そして、サンが作ってください」
「え? ぼくが作るの?」
「はい」
はなさんが頷いた。
「いえ。どうしても、というわけでもないんですが、サンが時短飯になってしまうのは、結局自分が食べる分だけ作るからかと思うので」
「ああ・・・・・・。確かに、それはあるかも」
「あとは興味本位です。サンがどんな料理を作るのか、単純に興味があります」
「あはは・・・・・・」
そう言われると確かに、はなさんの料理をごちそうになったことはあるけれど、ぼくの料理をふるまったことはなかった気がする。
「というわけで、どうでしょう? サンの都合が悪ければ、断っていただいて構いませんが」
「ううん。やる」
なんか、言われるとやる気が出てきた。
「あんまり自信あるわけじゃないけど、はなさんにぼくが作ったものを食べてほしいかな」
ちょっと照れくさい。
「それでは、買い物をやり直しましょう。何を作るか、考えないと」
「ああ、そうだね」
うん、と頷く。
「ああ、でも、本当に期待しないでね? ぼく、料理得意ってわけじゃないんだから」
「構いませんよ。サンが作ってくれるなら」
くすくすとはなさんが笑っている。
どうせなら、おいしいと言ってくれるものを作りたいけれど。
なんというか、緊張っていうデバフがかかっている気分だ。
「がんばってみる」
「大丈夫ですよ。何なら、少しお手伝いしましょうか?」
そうされたら、ありとあらゆるデバフが無効化される気もするけれど。
「だめ。ぼくが作ったのを、食べてほしい」
「では、楽しみにしています」




