言語道断、五円玉、婚活
五円玉が財布の中にある。
「・・・・・・むう」
正確には、五円玉しかない。
「今日は、お金下ろしてこないとなあ・・・・・・」
お札のお金もないので、普通に財布にお金がない。
まあ、口座にはきちんとお金は入っているので、単純に手持ちがない、という程度の話だけど。
買い出しに出ようと思えば、まずはお金を下ろす必要がある。
「となると、ATMは、と」
大学の構内にもATMはあるから、そっちでいいかと家を出た。
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「はなさんはさ、財布にいつもどのくらい入れてる?」
「なんです? いきなり」
「いや、僕の場合、今日は五円玉一つしか入ってなくて、さっき下ろしてきたところでさ」
はなさんは、一瞬呆れたような顔をしたけれど、顎に手を当てて、
「まあ、五千円くらいは、いつも入ってますね」
「なるほど」
ちなみに、ぼくの財布は今五万円入ってる。
「電子マネーとかあるから、財布に中身がないって言っても、それほど焦ることはないんだけどね」
「そうですね。今はたいていどこでも使えますし」
スマホが便利すぎる。
ふと、スマホを取り出して、開いた。
電子マネーアプリを開いて、今いくらチャージされているかを確かめる。
「・・・・・・こっちは五千円入ってるか」
大学の学食や、大学内のコンビニでも使える電子マネーだから、急いでお金を下ろすことはなかったかもしれない。
「なんだか、現物のお金を持っていないっていうのは、微妙に不安になるけど」
「わかります。わたしの父なんかは、年齢かける千円くらいは持ち歩けとか、言いますけど」
「あはは。それは社会人になってからの心得じゃないかなあ」
「そう思いますよ。学生の間は、そんなに出費もありませんし」
「はなさんの場合、実家暮らしだからなおさらじゃない?」
「そうですね。食費も光熱費もほとんどかかってませんし」
はなさんは、実家でも自分で材料を買って料理して食べる、くらいはしていると言っていたけれど、それでも毎日じゃない分、ぼくよりはいろいろな生活費は安いだろう。
「サンは、一人暮らしだからいろいろ入用なのでは?」
「まあ、ね。どうしたって、家賃、光熱費、食費に通信費、で仕送り消えるかな」
なんだかんだ、遊びに使う余裕資金は、ほぼバイトで賄っている。
「なんだかんだ、そういうお金のやりくりも楽しいけどね」
「なるほど」
はなさんは笑いながら頷いている。
「・・・・・・ふむ。とはいえ、お金はいくらあっても困るものでもなし。・・・・・・たまには単発のバイトでもいれてみようか」
「何かのイベントの設営とかですか?」
「そそ。・・・・・・前にやったやつだと、婚活イベントの受付とかあったなあ」
「婚活・・・・・・。え? この辺りでですか?」
驚きは分かる。大学が近いこともあって、この辺りに住んでいるのはなんだかんだと学生が多いのだ。
「うん。一応、商店街のやつ。・・・・・・大学生の参加者がそれなりにいたことにちょっと驚きを隠せない」
合コンに参加するノリで出てきた学生が結構いた。
「・・・・・・この辺りだと学生の方が多いですから」
「参加費五千円を払って、その価値はあったのだろうか」
正直なところを言うと、金取らなくてもよかったのでは、とは思う。
「まあ、見てる分は面白かったけど」
「どんな人がいました?」
「すっごい目立つ服着てる人だけ覚えてる」
「目立つ?」
「どピンクと紫の服」
「・・・・・・・・・・・・え?」
「いや、似合ってはいるんだけど、その色彩センスはどうなの? って思わず問いかけたくなるような服でさ。髪型も割と奇抜だったから、ちょっと遠巻きにされてたんだけど・・・・・・」
「だけど?」
「しっかりカップル作って去って行ったから、ああいう戦略もありなんだなあ、って」
運営の商店街のおじさんおばさんたちもなんだかんだと驚いていた。
最初はちょっと遠巻きにされていたのに、いつの間にか仲良くなっていて、いつの間にかしっかり相手を作っていた。
「話が上手い人だったのかも、だけど、結局その人しか印象に残ってないし、なんだかんだ目立ってないとだめなのかもね」
イベント自体は半日やっていたけれど、半日フルでいた人は相手を見つけられていなかった。
「ああいうの見ると、意外とああいうのがモテるのか、って思うよ」
「なるほど。面白いですね」
「納得はした。結局、目に留まらないと好きになってはもらえないんだね」
「目に留まる、ですか」
「そ」
ぼくははなさんを見て、笑う。
「例えば、ぼくははなさんなら、遠くにいても見つけちゃう。仲良くしたい、って思う相手は見ちゃうから」
「確かに、サンのことはよく目に留まりますけど」
それはうれしい。
「高校の時とか思い出してもさ。やっぱりモテるやつって、なんだかんだと目立ってたと思うの」
ぼくが言うと、はなさんは、ふむ、と考えて、
「・・・・・・・・・・・・そうですね」
頷いた。
「知らない人は好きにならないよ。ちょっとでも知ってないと」
「わかりますよ。サン」
ふふふ、とはなさんが笑っている。
「でも、婚活とは」
「はなさんは、やってみたい?」
どうだろうか。
なんだかんだ、はなさんはこういうことは要領がよさそうにも感じる。
「どうでしょう? 思い出作りっていう観点でなら、一回くらいは参加してみたい気もしますが」
「ああ。それは分かる。受付はやったけど、中に入るとそれはそれで面白そう・・・・・・」
ふむ、と考えて、
「はなさん。今度一緒に行ってみようか」
「え? 一緒って、相方がいるのに婚活に出るんですか?」
「いや、思い出作りなんだから、相方がいようといまいといいじゃん。・・・・・・ていうか、相方って」
その言い方はどうだろうか。
「でも言われてみるとそうだね。カップルで婚活に出るとか意味が分からない」
「カップル・・・・・・」
「・・・・・・いや、あんまりそこで反応されると困るかなあ」
あはは、と笑いながら頬をかいた。
「そ、そうですね。あんまり反応しても」
「ていうか、よく考えると婚活ってお一人様用イベントだから、二人で参加とか言語道断とか言われそう」
「そうですね。相手がいるならそっちと結婚してろ、とか言われそうで」
「あはは・・・・・・」
それはつまり、ぼくとはなさんで参加すると、相手がいるとみなされるということかな?
自分で書いてて、オチが変、とは思いつつ。
正直なところ、自分の中でサンとはなにどうなってほしいかが定まってないなあ、と思いました。
仲良くやれてりゃいいんだけど・・・・・・。




