試験勉強、わしづかみ、神経衰弱
サンとはなは、サークルの部室にいた。
二人の間のテーブルの上には、トランプの箱がある。
「・・・・・・なんかやる?」
「何します?」
「神経衰弱」
「トランプのゲームですね」
「神経の衰弱」
「病気ですか?」
サンは箱からトランプを出して、しゃっしゃっしゃ、と手際よく切っていく。
「なんで神経衰弱にはあんな名前つけられたんだろうね? ただの絵合わせみたいなものだから、そんな衰弱するような内容ないと思うんだけど」
「めくったトランプの配置を覚えて、相手がめくらないことを祈りつつ、うまく揃えられるようにする。そういう駆け引き部分で、神経をすり減らすから、神経衰弱なのでは?」
「楽しい遊びで神経すり減らしてどうすんだろう? 息抜きなのに?」
「まあ、分からなくはないですが、そういう人もいるのでは?」
「ふうん?」
首を傾げ、テーブルの上に、山を置いた。
「サンは、そういう緊張とかないんですか?」
「遊びの時にはない! 楽しむなら緊張しようが何しようが、神経が衰弱とかしないから」
「まあ、精神的な疲労って、楽しいことで緩和される感じはありますが」
「緩和・・・・・・。癒し?」
「癒しですね。心を癒す、楽しいこと」
「ぼくからすると、楽しいことっていうのは、癒しっていうよりかは、エナドリぐっと一気飲み、みたいな?」
「言い得て妙ですね」
感心したようなはなの口調に、サンはどや顔をして、
「ふふふ・・・・・・。ゲームは楽しんでなんぼ」
「サンはいつも楽しそうですねえ」
にこにことはなは笑い、サンは苦笑する。
「はなさんから見るとそうかもねえ。はなさんといるのは楽しいし」
「そうですか」
頷くはなに、サンは問いかける。
「トランプ、というと、他に何できるかな?」
「ババ抜き」
「二人で?」
「スピード」
「しゅばばばって、やつだね。速い人はほんと速いやつ。ぼくは苦手」
「ポーカー」
「むしろあっちの方が神経衰弱しそうな感じがあるけど」
「サンは、何か思いつきますか?」
「ドボン」
「・・・・・・なんでしたっけ? 嘘を指摘されたら全部渡される、とかあれでしたっけ? でも、二人だとできないですね」
「大貧民」
「大富豪では?」
「ローカルルールだ」
「八切りとか階段とか、ありましたね」
「はなさんは、友達とトランプで遊んだことってある?」
「修学旅行とかでしょうか? 普段はトランプなんて使わずに雑談しているのに、旅行先ではトランプをしますよね」
「ああ。分かる。なんか、家でトランプで遊ぶ、とかあんまりしないよね」
ふうむ、とサンは考え込むと、
「よし、オードソックスに・・・・・・」
「オーソドックス」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・オーソドックスにババ抜きにします」
指摘にうなだれつつ、山を二つに割って分け合う。
「分け方適当じゃないですか?」
「どうせ大半捨て札になるから」
「まあ、二人ですもんね」
「二人でやるなら変則ルールもありかも?」
「というと?」
「三分割して、山を残すの」
「ふむ」
「で、互いに引き合って、捨てられなかったら山から一枚取る」
「ほう?」
「あとは普通のババ抜き。先に手札がなくなった方が勝ち」
「へえ。ちょっと面白そうではありますね」
「まあ、変則ルールとかややこしくなるし、今度ね」
しばらくは、互いに手札を捨て合う。
「・・・・・・なんかさ。はなさんとトランプするのも、ちょっと新鮮」
「確かに、いつも何をするでもなく雑談ばかりしていますものね」
「話す内容は尽きないけどね」
「面白いものです」
互いに引き合っては、手札が少しずつ減っていく。
一方で、ジョーカーはサンの手元から移動しない。
「・・・・・・・・・・・・なんかさ。二人でババ抜きやると、誰がババ持ってるかって、駆け引きがなくなるね」
「分かりきってますからね」
「そうなると、いかに相手にババを押し付けるかという」
「あはは」
笑いつつも、はなは的確にジョーカーを避けてトランプを引いていく。
「・・・・・・・・・・・・」
サンは負けた後、ジョーカーをすっとテーブルの上に投げ捨て、
「・・・・・・はなさん。ぼくってわかりやすいかなあ」
「え? 何の話ですか?」
「いや、なんかジョーカー全避けされたから」
「サンのことならわかりますよ?」
「えー」
サンは椅子の背もたれに体重を預けて、
「・・・・・・なんか、はなさんとこの手のゲームすると、毎回負けている気が」
「あはは。サンは引きが悪いですからね」
「・・・・・・むうう」
「でも、サンとやるのが一番手応えを感じますよ。わたしは」
「手応えって?」
サンが体勢を戻して聞くと、はなはんー、と考えて、
「サンは、引きが悪い分、勝ち方をよく考えてますからね。油断すると負けます。だから、手応え?」
「ふーん。・・・・・・褒められてる?」
「ほめてますよ」
偉い偉い、とはなはサンの頭を撫で、サンはむう、と唸った。
「・・・・・・ぼくも、はなさんとゲームするのは好き。はなさん。勝ってくれるから」
「なんです? 負けてうれしいと?」
「いや、そうじゃなくて。・・・・・・んー。はなさんの言う通り、ぼく、引きが悪いから考えないと勝てないんだけど、普通、遊びでそこまで考える人って少ないから、なんだかんだで勝っちゃうんだよね」
「ああ・・・・・・」
「毎回勝ってると、なんか相手が嫌な顔するから、適当なところで負けなきゃな、とか」
はあ、とサンはため息を吐いた。
「なんか、楽しいことをやってるはずなのに、そういう相手のことを考えてるとね、なんだろ? 心臓のあたりをわしづかみにされてるような感覚になる。きゅー、と痛いの」
「効果音だけだとかわいいですね」
くすくすとはなは笑っている。
「わたしは、負けず嫌いなので手は抜きませんよ? でも、サンとゲームするのは好きです。・・・・・・サンは、わたしに結構負けてますけど、わたしとゲームするのは嫌じゃないですか?」
「全然、嫌じゃない!」
「そうですか」
はなは嬉しそうに笑い、サンは照れくさそうに頭をかいた。
「・・・・・・」
サンは、テーブルの上に散らばったトランプの中から二枚を取って、支え合うようにテーブルの上へと立てた。
「・・・・・・トランプタワーですか?」
「やったことある?」
「二段目くらいまでは。集中力が続かなくて、それ以上は無理でしたが」
そっと、二つ目を立て、その上にトランプを乗せる。
「一段」
「おー」
音をたてないように、はなは小さく拍手をする。
「ほんと、集中力いるよねえ。これ」
サンはまた二枚トランプを取る。
「・・・・・・試験勉強中によくやってたなあ」
「いえ、そこは勉強しましょうね?」
会話ばっかりで地の分が難しいです。
・・・・・・
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