皮、占い、紐
「サンは、ちょっと珍しいですよね」
はなさんにそう言われて、首を傾げる。
「何が?」
「腕時計ですよ。スマホを持ち歩いているのに、腕時計は絶対にしているじゃないですか」
言われて、左手の腕時計を見る。
茶色い合成皮革のベルト、自動巻きの機械式時計。
デザインは大人しめと思う。
「それは、はなさんだってそうじゃん?」
そうしてはなさんの手首を示せば、確かに腕時計がある。
金属バンドでアナログ式の腕時計だ。
シンプルなデザインの時計で、あまり大きくもない。
「わたしは、大学に来るときくらいしかつけませんよ。講義中にスマホで時間を確認する、というのもどうかと思うから付けているだけですし。サンの場合、休日だろうと何だろうと、いつもつけているじゃないですか」
「ん。そうだね・・・・・・」
その通りではある。
「だから、珍しいなって。普段腕時計なんてまったく付けない人もいるのに」
「ううん。ぼくとしては、腕時計を付けないっていう方が落ち着かないんだけどね」
高校生になってから、ずっと付けている。
そのせいか、付け忘れると左手首に違和感を感じるくらいだ。
「もう習慣なんですね」
「そうだね。高校に入学した時に父さんが買ってくれたんだけど、それからずっと付けてる」
「入学祝いってことですか?」
「そそ。中学生の時は父さんのお下がりだったんだけど、高校からは自分用のを買ってもらった。・・・・・・理由は、はなさんと一緒で授業中やテストでスマホは使えないだろってことだったんだけど」
時計屋さんに連れていかれて、どれがいい、と聞かれたので、欲しかったのがこれだ。
「・・・・・・機械式とかよくわかってなかったんだけどね。これがカッコ良かった」
へへへえ、と左腕の時計を示す。
「一回ベルトが切れちゃって、付けなおしてるけど、本体はずっと同じのを使ってる。丈夫だし、いいよね」
「へえ。愛着があるんですね」
「そうだね。なんか、付けてる方が落ち着く感じ」
「ふふ。なるほど」
はなさんが微笑んでいる。
「サンは、ものを大事にするんですね」
確かに、言われてみるとそうだ。
ぼくが使っているものは、たいてい壊れるまで使う。
「使い捨てって、もったいないじゃない」
「そうですね。物持ちがいいのはよいことです」
はなさんは、自分の腕時計を見て、
「・・・・・・わたしも、新しいのを買ってみましょうか。これも時間さえわかればいい程度の安物ですし」
「そう? でも、時計なんて結局時間さえわかればいいんだし、気に入ったのが見つからなければそのままでもいいと思う」
それに、
「それ、シンプルだしはなさんに似合ってるよ? 安物っていうけど、悪いものじゃないと思う」
「そうですか?」
はなさんが左手を持ち上げて、腕時計をこちらに見せてくる。
いい感じに見える。
「ぼくは好き」
「え」
「そういうシンプルなのも」
「そ、そうですか」
はなさんがなんかそっぽを向いている。
「・・・・・・腕時計と言えば、ちょっと興味あるやつがあってさ」
「?」
ふと思い出した。
ちょっと前にネットで腕時計を探していたら、ふらっと見つけたのだが、
「針の部分がね、紐みたいになっている時計があって・・・・・・」
「紐? そういうデザインということですか?」
「うん。なんか、そのサイトに載っていた色んな腕時計のね。デザインが面白かった」
一見すると時間の読み方がわかりづらい時計もあって、見ていると面白かった。
「面白、と思ってさ。ちょっとほしくなった。・・・・・・十万とかするから、ちょっと手が出ないけど」
「へえ」
時計なんて、いろいろあるのだろう。
「あれだね。いっそ、はなさんもぼくとお揃いの時計とか、どう?」
「サンとお揃い」
「そうそ。ブランドを揃えてさ」
ちょっとそれはそれでわくわくする。
腕時計のブランドはたくさんあるし、きれいなデザインのものを選んで、はなさんのものとお揃いにすると、
「分かる人には分かる仲良し感」
「どうせ仲良し感を示すなら、誰にでもわかるようにしたいところです」
「んー。でも、ぼくらが手が出るレベルの腕時計なって、量産品だから、誰にでも分かるレベルだと同じ時計になっちゃって面白味がないかな」
「そうですねえ。わたしとサンだと、同じデザインだと意外と似合わない、とかもあるかも・・・・・・」
「腕の太さとか、手の大きさとか、服の好みとか、いろいろあるしね」
はなさんとお揃いというのはいいと思うのだが、
「・・・・・・腕時計って、いいデザインのやつって結構高いのが多いし、お揃いにするのは難しいかな」
「そうですね。・・・・・・腕に巻くなら、ミサンガとか」
「紐?」
「紐って言わない」
「でも、あれっていつか切れるの前提じゃん」
何か願いを込めて、叶うときに切れる、とかだったと思うけれど、
「そうですね」
「なんかヤダ」
「なんか、ですか?」
「切れた方がいいとか、壊れた方がいい、とかそういう感じのものって、ぼくあまり好きじゃないな。ものは大事に使いたい」
「ははあ。サンらしいというかなんというか」
くすくすと笑うはなさんに、ぼくは肩をすくめた。
「それに、あれはずっとつけっぱなしだから、なんだか汚くなってくるし」
「それはありますね」
薄汚れたものをずっと付けているのも嫌だ。
「大事にきれいに使いたい」
「サンはなんというか、キレイ好きでよいですね」
偉い偉い、と頭を撫でられた。
「いいことですよ。そのままのサンでいてください」
照れくさいけれど、撫でられるのは気持ちよかった。
翌日、朝の占いでラッキーアイテムに腕時計と出た。
いつも通りに腕にはめて、外に出る。
今日はいつもよりもラッキーになるだろうか。




