太陽、豚、客間
「・・・・・・あったかい日だねえ・・・・・・」
ごろごろとしながら、そっと外を見る。
春先のあたたかい気候。
それは、太陽の日差しがほどよい感じだからだ。
カーテンを開けておくだけで、少し前までの寒さなどあっさりと忘れてしまう暖かさだ。
これよりもう少し日差しが強ければ、暑く感じるだろう。
風が強かったら、寒いかもしれない。
けれど今日は、暖かい。
なんとも言えず、起きる気力もわかず、朝だというのにごろごろしている。
「・・・・・・うへへえ」
締まりがない、と思いながらも、ぼんやりとする。
なんか、どこにも行きたくない。
「・・・・・・・・・・・・まあ、そういうわけにもいかんのですけど」
はあ、とため息をつきつつ起きる。
朝だ。
学校に行かなければならない。
「めんどくさ」
はあ、とため息を吐いた。
+++
「面倒だと、思うのです」
「はいはい。気持ちはわからなくもないですよ」
はなさんは苦笑している。
「春眠暁を覚えずって、こんな感じの日かなあ・・・・・・」
「かもしれませんねえ」
大学の構内を歩きながら、ぼやくぼくと笑うはなさん。
「・・・・・・いい天気だから、学校とか来るよりも遊んでたいよねえ」
「遊ぶのも大学来るのも、さして変わりませんよ」
「そう?」
「ええ。どっちにしろ、外に出ないといけないわけですし」
「どっちでも、はなさんとは一緒だし?」
「いえ。わたしはさぼりませんよ?」
「ちぇ」
ノってくれてもいいのに、と口をとがらせるも、はなさんは笑ってぼくの頭を撫でた。
「大学が終わってから、心置きなく遊ぶ。それが大事です」
「・・・・・・はなさんは夏休みの宿題とか最初に一気に終わらせるタイプ?」
「ええ。面倒ですから」
「えらいなあ・・・・・・」
本気で感心する。
「サンは終わりにまとめるタイプですか?」
「ううん。二週間くらいで全部終わらせる」
「・・・・・・あら真面目」
心底意外、という顔をはなさんがした。
「失敬な。一日一個終わらせれば、大体そんなもんでしょ」
実際、夏休みの宿題なんてそんなに量があると思ったことはない。
「まあ、教科書に比べてあまりにも薄いですからね」
「あと、最初の内に終わらせておかないと、あとで泣きを見る」
「それはまた、なぜです?」
「・・・・・・ぼくの通ってた小学校には、夏休みの真ん中に登校日、なるものがありまして」
「はい」
「締め切りがそこに設定されている宿題が、いくつかあってね?」
「あらまあ・・・・・・」
特に、ドリル系の宿題はその日に解答が配られるので、終わらせた宿題を採点して夏休み明けに出すまでがワンセットだった。
「そこで間に合わないと、補修を食らう」
「厳しいですね」
「みんなが、夏休みに解放されたプールで遊んでいる中、くっそ暑い教室でひたすら課題と向き合わされてごらんよ!? 悲しいよ?! 目が汗をかくよ?! 比喩表現じゃなく!!」
提出と言っても、採点まではやるわけで、席が隣の人同士で宿題を見せて、やってあるかどうかを確認する程度だ。
ごまかそうと思えばごまかせるのだけど、
「その時、ぼくの隣の席に座っていたのは、親と先生の言うことをひたすら真面目に聞く、極めて堅物なやつだった・・・・・・」
「ああ、それはなんというか、見逃されないでしょうね・・・・・・」
はなさんもしみじみと同情的な視線を送ってくる。
「以来、ぼくは締め切りだけは守ろうと誓った」
「・・・・・・実際、効果あったんだから、一概には責められないんでしょうね」
「親からは大絶賛だったらしいよ? それでも、毎年同じやつが補修食らってたけど」
「やらない人は本当にやりませんよね。夏休みの宿題」
「隣のやつの白紙の宿題を、やってあります、と答えて、アイスおごってもらったことある」
「ワイロじゃないですか」
はなさんは苦笑している。
「・・・・・・まあ、とにかくさ、面倒なことはやりたくない。けれどやらなければいけないなら、さっさと済ませるべきだと」
「結論は分かりますけど、そういう話でしたっけ?」
あれ、と首を傾げる。
「何の話してたっけ?」
「大学が終わってから、心置きなく遊ぶ、という話です」
「ああ。それだ。・・・・・・どうしよう? 今日ははなさんの家に遊びに行ってもいいですか?」
「いいですよ。いい天気ですし、ベランダでお茶しましょう」
「わあい」
+++
はなさんの家の客間を通り過ぎると、日のよく当たるベランダがある。
庭に面したベランダで、ぼくとはなさんは並んで座る。
「・・・・・・いい天気。もう少しで日が暮れるけど」
「でも、日も長くなりました。・・・・・・ちょっと前までは、この時間だともう薄暗かったりしましたが」
「まだ昼間だ、ってくらい明るいし暖かいものね。今日は」
「ええ。いい天気です」
お茶を飲み、煎餅をかじる。
「外で何か食べるのが気持ちいい季節っていうのは、いい」
「そうですね。・・・・・・秋より、今の時期の方が、なんでもおいしく食べられる気もします」
「そうだねえ・・・・・・」
傍らのコンビニの袋をあさって、
「桜餅」
「なんというか、季節ものって感じがします」
葉っぱを外して、口に含む。
お茶をすする。
「・・・・・・のんびりしすぎている」
「そうですけど」
コンビニの袋をあさる。
「・・・・・・みたらし団子」
「わあ、おいしそう」
一パック百円前後。とてもコスパのいいお菓子だと思う。
「あ、お茶切れた」
「淹れなおしてきますよ」
はなさんが立ち上がり、お茶を淹れに行ったのを見送り、さらに袋をあさる。
饅頭、桜あんのパンなどが出てきて、
「・・・・・・あかん」
「いきなりどうしたんです?」
戻ってきたはなさんからお茶を受け取り、饅頭を差し出す。
「いや、なんというか、のんびりと食べまくってる」
「それほどの量とは思いませんが・・・・・・」
確かに、片手で持てる程度の袋に入った菓子など、それほどの量ではないけれど、
「・・・・・・なんか、のんびりしているだけなのにおなかが減る。・・・・・・春の陽気って不思議」
「そうですか?」
テンションが上がっているのかもしれない。
「なんだか、いるだけで楽しくなるから」
ぼんやりと空を見上げる。
「・・・・・・・・・・・・さすがに、ちょっと暗くなってきたかな」
「そろそろ日も暮れますし、冷えてきます。家の中へ入りましょうか」
「そうだね」
食べ散らかしたものを片付けて、
「・・・・・・あ。まだ残ってた」
「なんですか?」
「豚まん。季節的に、そろそろなくなるかなあ」
好きなんだけど、とぼやきながら、口に運ぶ。
「あ、ちょっと冷えてら」
「レンジで温めましょうか?」
「そうだね、お願いしていい?」
「はい」
一つだけ残った豚まんは、温めた後、二人で割っていただきました。




