車中、本棚、歩く
圧迫感を感じる。
両側に立つ、本の壁だ。
大学の図書館で課題をしたい。
そう思って、ここに来た。
今日は珍しく、ぼく一人だ。
はなさんは、ちょっと用事があるから、と先に帰った。
少し寂しくはあるけれど、こういう日もあっていい。
むしろ、なんだかんだと毎日会っていた今までが、少しおかしいのかもしれないけれど。
「・・・・・・さて」
小さく、口の中でつぶやく。
課題については、もうほとんど終わってる。
はなさんに手伝った部分も多いけれど、締め切りには余裕で間に合うはず。
あえて図書館に来たのは、課題を完了するためには、図書館内と同じ建物内設置されているブースのパソコンを使用して、大学内のネットワーク上に課題をアップする必要があるからだ。
一応、自宅からでも課題をアップする方法はあるらしいのだけれど、初期設定とかいろいろ面倒すぎて、ぼくは匙を投げている。
とはいえ、そのパソコンは、どうやら全部使用中であるらしい。
ここの使用法だと、入り口に札が置いてあって、使用中はその札をパソコンの上に置いておく。
置いてあるパソコンは、誰かが使用中だから使えない。
そして、入り口に札がなければ、すべてのパソコンが使用中だ。
それほど台数がないとはいえ、空くまでどの程度の時間がかかるかはわからない。
作成した課題は、USBメモリに入れて持ってきているから、あとはパソコンにつないでアップするだけ。
時間にしても、多分一時間もかからないのだけれど。
「どうしよ?」
本棚が何列も並ぶ方へと進む。
大学に入ってから、あまりここの図書館は利用していない。
ふと、どんな本があるかが気になった。
普段、別にあまり紙の本は読まないのだけど、はなさんはよく読んでいるらしいし、ちょっと興味は惹かれる。
本棚の間を歩く。
本棚の間はそれほど広くはなく、両側が背の高い紙の壁、というのは、なかなかに圧迫感がある。
ちょっと横を見ると、この辺りはどうやら文学の棚らしい。
学校の教科書で見たような書名が、時折見える。
上下巻で上しかないのは、誰かに借りられているのか。
古臭く、言い方は悪いがボロい本が隙間なく本棚に並べられている。
「・・・・・・なんだっけ? 分類、とか、あるんだっけ?」
こういう本の並べ方はよくわからない。
書店なら、見た目がきれいになるようにか、出版社やシリーズ、内容の種類などで分類して並べるだろう。
自分の家の本棚なら、それこそ自分の好みで並べるから、持ち主の趣味がよくわかる。
図書館の本棚は、あまり整理されているイメージがない。
なんというか、シリーズなどは同じ棚に入っているけれど、並べ方はばらばらとか。
そこまで考えて、
「あ、手に取った人が適当に入れるせいもあるのか・・・・・・」
ナンバリングが一、四、二、三、となっているシリーズがあったので、並べ替えてみる。
「気にならないのかな」
はなさんなんかは、怒りそう。
細かくはないけれど、並んでいないと気にするタイプだ。
「・・・・・・一巻だけない」
探してみると、ちょっとおもしろい。
「・・・・・・今度、はなさんも誘ってみよう」
ぼくの図書館の楽しみ方は、はなさんのそれとは絶対に違うだろうけれど、はなさんはどう思うだろうか。
「・・・・・・あ、空いたね」
ブースのパソコンが空いたから、入り口にある札を取って、空いている席について、ちゃっちゃと課題をアップする。
ついでに、大学のインフォメーションページから最近の情報や講義情報などを確認して、
「・・・・・・」
しばらく、かちかちとマウスを動かしていた。
大体のところを見終わったところで、席を立つ。
入り口に取った札を戻し、ちょっと気になったので図書館へ戻る。
「・・・・・・えっと」
いくつか、本を手に取る。
以前、はなさんの家で、はなさんの本棚に見た本だ。
普通の書店だと、ちょっと売ってないでしょうねえ、と言っていたのは、ちょっと古いから注文しないと買えないだろう、ということだった。
その本が並んでいた。
タイトルを覚えていたのはちょっと奇跡かもしれない。
そう思いながら、その本を借りて、図書館の外へ出る。
「・・・・・・いい天気」
まだ明るい午後。
少し暖かくて、風があまりない。
まっすぐ帰るのもいいけれど、ちょっと気分を変えてみたいと思った。
大学構内のカフェへと立ち寄り、コーヒーを注文して、席に座る。
図書館で借りた本を開く。
「・・・・・・ん~」
正直、ちょっと読みにくいと思った。
最近の小説の書き方ではなく、文章全体がなんというか古っぽい。
知らない単語、知らない漢字、知らない読み方が、時折現れる。
「・・・・・・」
ただ、一枚ページをめくる以外は、なんとも静かだ。
「・・・・・・」
コーヒーを一口。
一枚、ページをめくる。
「・・・・・・」
昔、というほどではないのかもしれないが、少なくともぼくが生まれるよりもずっと前に、外国で書かれた本の邦訳版。
読みやすいわけではなくて、特段笑いどころもない。
「・・・・・・」
一枚、ページをめくる。
ちょっとだけ、自分を客観視した。
以前、はなさんが本を読んでいる時、ぼくは隣で漫画を借りて読んでいたけれど、あの時のはなさんも、静かに一枚一枚ページをめくっていた。
今のぼくも、にたようなことをしているのだろうか。
「・・・・・・・・・・・・」
ぺらり、ぺらり、と文字を追って、ページをめくる。
文庫本サイズのその一冊を読み終えたのは、二時間ほどしてからだ。
日は、暮れかけている。
「・・・・・・」
読み終わったし、図書館はまだ開いている。
返しに行ってもいいのだけれど、
「・・・・・・ま、いっか」
鞄に入れ、席を立った。
大学を出て、家路につく。
「なんか、久しぶりに本を読んだ感じ」
ラノベやネット小説は、暇つぶしになるから読むこともある。
ただ、ああいう小説は、結局軽い、というのがなんとなく分かる。
挿絵もあるから、結局イメージしやすいからだ。
だけど、今日読んだ本は、内容をイメージするのに想像力が発揮されている感じがあった。
ちょっと、頭が疲れた。
「・・・・・・なんか、甘いもの食べたい」
コンビニで、ケーキでも買おうか。
「・・・・・・?」
スマホが鳴った。
「あ、はなさん」
メッセージ。
「『課題は終わりましたか?』。・・・・・・終わったよ、と」
返信して、ふと、思いついた。
「ちょっと駅前行くか」
目の前にバス停があり、バスが停まっている。
バスが向かう駅前には、ちょっとお高いケーキ屋があるのだ。
「・・・・・・はなさんも好きなケーキ屋さん、と」
バスの車中で、はなさんに頭が疲れたときにおすすめのケーキを聞いておこうと思った。




