豆、新しい、日記帳
サンは豆をぽりぽりとしている。
大学生になってから、サンは酒のつまみとしてよく売られている豆の類をおやつ代わりによく食べるようになった。
手軽で、食べた感があるから、あるいは、塩味がちょうどいいのか。
「・・・・・・サンって、結構豆が好きですか?」
「ん~。なんか、この味は好き」
はなは、ぽりぽりと豆を食べるサンを見ながら、ふうん、と頷いた。
二人は、今日はサンの部屋にいる。
学生向けアパート。
ワンルームの部屋は、ベッドが大きく床面積を占めているため、座るとすると床か、ベッドだ。
サンとはなは、クッションを敷いて床に座り、ベッドを背もたれ代わりにしている。
小さなテレビの画面では、ボードゲーム形式の対戦ゲームが映っている。
今日は、二人は大学が終わってから、サンの部屋で二人で対戦を行っていた。
「・・・・・・なんていうか、サンのプレイは手堅いですね」
「なんか、ぼくは基本的にこういうの引きが悪いからね。結果的に手堅い方が勝ちやすいんだ」
あまり大きな賭けはせず、損をしないように立ち回る。
サンのプレイはそういう感じだ。
一方で、はなは大きく投資もするし、損も大きいが儲けも大きい。
なんとも不思議なことに、サンとはなの間では、それほど戦績に差がない。
「・・・・・・サン。豆食べすぎですよ」
「ん。そうだね」
サンは手を止めて、ペットボトルから茶を飲む。
「なんていうか、やめられない、止まらない、というか」
サンは、むう、と唸った。
「わからなくはないですけどね。食べた感はあるけれど、あまりおなかは膨らみませんし」
「そうだよね。つい食べちゃう」
ふふふ、とサンは笑いながら、豆の塩気のついた指をウェットティッシュでぬぐった。
「ちょっと違うの出すべきかな」
「そうですね。塩気の多いものを食べましたし、次は甘いものでしょうか」
「甘いもの・・・・・・」
サンはふむ、と頷いて、席を立つ。
「確か、冷蔵庫に・・・・・・」
あまり広くない部屋を移動し、冷蔵庫を開いて、
「あ、やっぱあった」
喜色混じりの声を上げて、サンは戻ってくる。
「プリン」
「いいですね」
はなはくすりと笑う。
「・・・・・・はなさん。お皿はいるかい?」
ひっくり返して皿に出すことを想像しているのか、サンはちょっと楽し気だが、はなは首を振る。
「いえ。わたしはそのままで」
「そ? わかった」
はなが断れば、サンはあっさりと引き下がって、プリンをそのまま持ってきた。
スプーンを持ってきて、はなに渡すと、サンは自分もふたをめくって食べ始める。
「あー。・・・・・・何だろう? しみる、ってこういう感じ?」
一口を含み、むぐむぐと口の中で動かして、サンはしみじみとつぶやいた。
「気持ちはわからなくもないですけど、その感想は何か違う気がします」
はなも苦笑しながら、ゲームをする手を止めてプリンにスプーンを差す。
「プリンって、結構おやつとしては定番ですよね」
「割合安くて、どこでも売ってて、冷蔵庫に入れておけて、美味しいからね」
「その通りですね」
はなも一口を食べて、口元を緩める。
「安くてもハズレがない、という感じがいいですよね」
「そうだね。なんだか売っているプリンでまずいプリンは、ちょっと想像できないな」
ふうむ、と考えて、
「・・・・・・もう一つ食べる?」
サンは食べきったはなに聞くが、
「一つでいいですよ。食べすぎは健康に悪いですから」
はなは断る。
「そうだね。続きやろうか」
ゲームへと戻った二人は、それからしばらくは無言だったが、
「・・・・・・そういえば、サン」
「ん?」
「このゲームって、結構古いですよね?」
「そうだね。・・・・・・五年くらい前かな」
「新しいのは買わないんですか?」
「新しいのを求めていると、キリないから。シリーズものでもない限りは、あんまり新しいのには手は出さないんだ」
「そうですか」
「・・・・・・新しいのがやりたい?」
サンは窺うようにはなを見るが、はなは首を横に振る。
「いえ。もともとあまりゲームはしませんから、そこは気にしていないんですが、このゲームって最近テレビで最新作のCMを見た気がして・・・・・・」
「ああ。確かに出たね」
うん、とサンは頷く。
「でも、たまにやりたくなる程度のゲームで、わざわざ新しいのを買うのもなあ、って」
「なるほど」
はなは頷く。
「それに、ゲームは基本的に一人でやっちゃうから。はなさんとしゃべってる方が楽しいし」
「ふふ。そうですか」
サンは何気ない口調だが、はなは嬉しそうに笑っている。
「うん。・・・・・・」
不意に、サンが立ち上がった。
「サン?」
「ちょっとトイレ」
短く言い置いて、サンはトイレへと向かう。
その間、はなはコントローラーを一度置いて、
「ふう・・・・・・」
短く、息を吐いた。
「・・・・・・ん~」
伸びを一つ。座りっぱなしのせいか、少し凝ったらしい。
「・・・・・・えっと」
ふと見えた豆を一つ、手に取る。
「あむ」
ぽりぽり、とはなが豆を噛んでいると、サンが戻ってきた。
「・・・・・・ん~。ゲームやめる?」
「決着ついてないですけど?」
「ん。でも、まあ、いいかな、って。はなさんは、決着つけたい?」
「ん~。・・・・・・でも、これあと一時間くらいかかりますよね?」
「かかるねえ。ちょっと設定長すぎたかな」
サンは頬をかいて苦笑している。
「・・・・・・止めちゃいましょう」
「そだね」
あっさりと言って、未練なく電源を落としてしまう。
「・・・・・・ん~」
サンも伸びを一つ。
「なんか、はなさんとゲームするのも楽しいかなって思ったけど、せっかくはなさんがいるのにしゃべりもせずにゲームに集中しちゃうのは、なんていうか、もったいないね」
肩をすくめ、サンが言うと、
「そうですね。楽しくないわけじゃないですけど、・・・・・・もったいないですね」
くすくすとはなも笑っている。
「ではサン。ちょっとおしゃべりしましょう」
「うん」
二人で座って、肩を並べて雑談をする。
他愛もないことを話しているのに、二人はゲームをしている時より楽し気だった。
「・・・・・・あ。外暗い」
「あら。・・・・・・じゃあ、そろそろお開きでしょうか」
そうしていれば、外は暗くなり、はなは外へと向かい、サンはそれを見送る。
「・・・・・・じゃ、また明日」
「ええ。また明日」
はなが部屋を出ていき、サンはしばらく、閉まったドアを見る。
「・・・・・・」
そのあと、そっとドアを開け、外を見ると、少し遠くにはなの後ろ姿が見えた。
サンはドアを閉め、鍵をかける。
「・・・・・・ん~」
部屋に戻り、棚から一冊のノートを取り出した。
「・・・・・・はなさんとゲームするより、しゃべるのが楽しい一日だった」
ノートに綴り、戻す。
サンが大学に来たのを機に新しいものに変えたそれは、毎日はなのことが書いてある、サンの日記帳だった。




