神社、煎餅、歩む
「・・・・・・神社?」
「ええ。この辺りの神社です」
はなさんと歩いていて、不意に目に入った場所だった。
道路の先、す、と視線が通った先に、鳥居があった。
今までも見えてはいたけれど、今回はなんとなく気になった。
「初詣の時と縁日の時くらいしか行きませんけど、この辺りの人なら、大体あの神社に行きますね」
へー、となんとなく鳥居を見て、
「・・・・・・ちょっと、行ってみていい?」
「ええ。かまいませんよ?」
はなさんの許しも出たので、ぼくは神社の見える方へと足を向ける。
ちょっと上がったテンションのまま歩くぼくの少し後ろを、苦笑気味な気配をにじませつつ、はなさんがついてきた。
「特に、面白いものがあるわけではないと思いますが」
「神社自体が面白い」
「そうでしょうか?」
はなさんは首を傾げているが、地域の違うところの神社というのは、地元の神社とは違う雰囲気がある。
近づいてみれば、地元のそれとは結構違うと感じた。
「ぼくの地元のは山の中にあるから、ずーと石段がまず続いててね」
「なるほど。ここのは平地にありますから、石段は少ないですね」
「それに、境内もこっちのほうがずっと広いかなあ」
石の道と砂利の境内。
遠くに見える神社の建物。
「・・・・・・お参りしてくる」
「わたしも行きますよ」
神社の中をはなさんと歩む。
「初詣の時は一緒に来ていい?」
「気が早い。・・・・・・こちらとしては望むところ、と言いたいですが、年末年始にサンは実家に帰らなくてもいいんですか?」
言われてみればその通りだ。
でも、はなさんと初詣とかしてみたい。
「あー。・・・・・・お正月は無理でも、一月中なら」
「じゃあ、そうしましょう」
くすくすとはなさんが笑っている。
お賽銭を投げ入れ、紐を引いてがらがらん、と鈴を鳴らす。
二礼二拍手一礼。
賽銭箱の向こう側にも、そう書かれた札がある。
「・・・・・・」
しばらく、静かに、目をつむったまま、じっとする。
葉が擦れる音がした。
少し遠くで車の排気音。
鳥の声。
隣で、衣擦れの音。
目を開ける。
隣を向けば、はなさんと目が合う。
「・・・・・・何か、お祈りしました?」
「ううん? 特にお祈りするようなことはないけれど・・・・・・」
昔からそうだ。
神様に何かを祈ったことはない。
お母さんは、お祈りする時に、いつもありがとうございました、と言っていた。
だからぼくも、それは真似している。
「・・・・・・はなさんと来られてよかった。ありがとうございます、とか?」
「何がですか?」
「ん~。別に。ただ、神様の前に来ると、なんとなくお礼を言いたくなるの」
「お礼?」
「大したことじゃないんだよ」
ぼくは笑う。
はなさんが一緒にいてくれる今が幸せ。
出会うことができたのが幸せ。
それは、誰かが努力したって得られない。
入学式の日にはなさんと会えたのは、ただの幸運な偶然で、
「・・・・・・まあ、誰のおかげと言えば、神様のおかげとしか言えないわけで」
「?」
「なんでもないよう」
小さくつぶやいた言葉にはなさんが首を傾げるのを、笑ってごまかす。
「でも、やっぱり神社だね」
境内の周りには背の高い木々があり、社務所には巫女服を着た女性がいる。
「・・・・・・ふむ?」
近づいてみれば、
「ほう。学業成就に健康祈願」
「交通安全、無病息災、商売繁盛、良縁成就・・・・・・。毎度思いますが、ここってなんの神様なんでしょう?」
「地元民のはなさんも知らないの?」
「いやあ・・・・・・。地元の神社の歴史なんて、そうそう知りませんよ? 小学生ぐらいの時に何かの授業で聞いたような気もしますが、まったく覚えてないです」
「あ、その授業ぼくのところでもあった。神社の建物の中に入って、おじいさんの話を聞いた。びっくりしたよ。一番上の境内の一番奥に建物が建ってると思ったら、中は奥の方に続いててさ」
外から見るより、奥の方へ二十メートルほど奥行きがあって、そこにご神体を安置していた。
「・・・・・・あの建物、中は結構広いんだよね」
「そうですね」
二人でしばらく眺めて、
「・・・・・・あ、おみくじある」
「引きます?」
「どうせだから」
百円を払い、引く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・吉」
「大吉です」
「いいね。はなさん」
「・・・・・・ふふ。なんだかうれしいですね」
はなさんがにこにこしている。
「願望叶うでしょう。失物。諦めよ。待ち人。来るでしょう・・・・・・。失物、諦めよってのがすごい気になる」
「わたしの方は大体いいこと書いてありますね。さすが大吉」
「うーん。これどうしよう?」
「そこに、結ぶ場所がありますよ」
「ん」
結んでおく。
「これ、いいの悪いので結ぶかどうか変わるんだっけ?」
「そんなのは気分次第です。持ってた方がいいと思ったら、持っていればいいんです」
「適当だなあ・・・・・・」
まあ、でも、気の持ちよう、というのは事実だろう。
「そういえば、昔友達が大凶引いたから引き直して大吉で上書きした、とか言ってたけど」
「それも、気の持ちようですよ。よいと思えば、それでよし」
「そういうもんか」
はなさんが断言すると、それでいいか、という気分になる。
「・・・・・・さて、帰ろっか」
「そうですね」
境内を歩いて、外へと向かう。
「・・・・・・なんていうか、静かで落ち着く。・・・・・・時々散歩するにはいいかも」
「そうですね。わたしも、平日の明るい時間に来るというのは、ちょっと新鮮です。・・・・・・初詣の時はそれなりに人がいるので、もっと騒がしいイメージでした」
「神社って、基本的に静かじゃない?」
「そうですね。普段は、静かな場所ですよね」
鳥居をくぐって、振り向く。
静かな場所がそこにある。
「ああ、サン、ちょうどいいです。少しお茶にしましょう」
はなさんに声をかけられて、そちらへと向かう。
「・・・・・・お茶?」
こっちこっち、とはなさんが手招きする先に、喫茶店のようなものは見えないが、
「ここですよ」
店の前まで来てようやく分かるような看板。
「・・・・・・ほへ」
「和菓子のお店ですが中でお茶もできるんです。少し休んでいきましょう」
「・・・・・・いいねえ」
団子とお茶はすごくおいしかった。
お煎餅まで品書きにある。
こういうお店でお煎餅というのもちょっと新鮮だったけれど、食べてみればおいしい。
「・・・・・・ぱりん、とな」
二つに割った煎餅を、
「はなさん、片方食べる?」
「いただきましょう」
こうして差し向いでお茶をする。
緑茶、お団子、煎餅に、大福。
外でお茶をするのに、甘いものに混ざるお煎餅は、結構違和感があるとは思うけれど、
「この煎餅好き。買って帰ろう」
「わたしもそうしましょう」
おいしいものは美味しいでよい。




