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落果、転ぶ、手紙

 なんとも、と思いながら、段ボールの中を覗く。

「・・・・・・うーん」

 どうしようか。


+++


「一体、何が入っていたんですか?」

 はなさんに聞かれて、ぼくはそれをテーブルの上へと出した。

「・・・・・・ビン。・・・・・・ジャムでしょうか?」

「梅のジャム」

「梅の・・・・・・?」

 手作りの瓶詰ジャムだ。

 作ったのは、ばあちゃんだろう。

「・・・・・・いや、おかしなことじゃなくてね。庭に梅の木があって、毎年それなりの量の梅が取れるから、梅干しにしたり、梅酒にしたり、こうやって梅ジャムにしたりしてるわけ」

「ああ、なるほど・・・・・・」

 梅のジャム、というと、あまり店で並んでいるところは見ないから、はなさんとしても戸惑ったのだろう。

「これが、どうしたんですか?」

「ん。ちょっと、処理に困る。・・・・・・ぶっちゃけると、梅のジャムはちょっと苦手」

「あら?」

「梅の味のジャムだからね。・・・・・・悪くはないんだけど、パンにつけて食べるには、ちょっと口に合わなくて」

 まずいわけじゃないんだけどね、と苦笑を浮かべる。

「美味しいとは思うの。ただ、食べ方に悩む」

「へー。わたし、食べたことないですからちょっと興味あります」

「じゃあ、食べてみる?」

「というか、そのつもりで持ってきたんじゃないんですか?」

「へへへ・・・・・・」

 しょうがないですね、と言いながら、はなさんが立ち上がる。

 ちなみに、今日ははなさんの家にお邪魔している。

 今日は休みなので、はなさんと会うとするとはなさんの家に向かう方が早いからだ。

 ついでに、梅ジャムの処理も兼ねているのは、先の会話の通り。

「・・・・・・そんなに変な味なんですか?」

「酸っぱ甘い。ただ、梅の味が結構来るから。・・・・・・ばあちゃんのは甘味が強いから、結構癖があるかも?」

 ばあちゃんが作ったもの以外の梅ジャムは食べたことがないので、比べようもないが、

「ちょっと苦みがあるかも」

「ほうほう」

 言っている間に、はなさんはトーストを焼いて持ってきた。

「では、食べてみましょう」

「・・・・・・ぼくもか」

「当然ですよ。・・・・・・コーヒー、緑茶、紅茶、どれにします?」

「・・・・・・・・・・・・緑茶で」

「はい」

 あんまり味に詳しいわけではないし、と考えながら、ジャムを掬い、トーストへと塗りつける。

「・・・・・・でも、どうして梅ジャムなんて」

「ん~」

 段ボールには、一緒に手紙も入っていた。

 取り出して、読んでみる。

「風が強くて熟す前に身が落ちちゃう・・・・・・」

「落果ってやつですね」

 そうそう、と頷く。

「それを拾って?」

「ううん。さすがに落ちたやつは食べないよ。痛むし、虫も付くから」

「そうなんですか」

「別に、食べたくて作ってる梅ってわけでもないからね。身ができたから、じゃあ、食べようか。みたいな感じだから、わざわざ落ちたやつを拾ってまで食べないって」

「なるほど」

 気分的にも汚いし、あまりいいものではないだろうし。

「あと、落ちたってわけでもなくて」

「?」

「まあ、天気予報ですごく風が強くなりそうだから、熟し始めている奴を先に取って、落果で梅の身を無駄にする前に、ちょっと収穫したんだって」

「ああ」

 なるほど、とはなさんは頷く。

 別に食べたくて作っているものではないとはいえ、無駄になりそうだとするともったいないとは思うものだ。

「で、取ったはいいんだけど、梅干し、梅酒は、漬けたところ。梅ジャムは、わりとすぐなくなるからって送ってくれて」

「へえ?」

「お酒はダメって梅酒はなかったけど、梅干しもあったよ。・・・・・・かなり酸っぱい赤い奴」

「そっちは、持ってきてないんですか?」

「あるよ」

 出す。

「・・・・・・においだけでもう酸っぱい」

「分かる」

 中身の見えない、色の濃い瓶の中に入っているが、それでも漏れるにおいだけで結構だ。

「・・・・・・ちなみに、今年じゃなくて、去年漬けたやつみたい。まあ、今年のはまだできてないだろうけど」

「それは、とてもよい漬かり具合でしょうね」

 はなさんは、苦笑を浮かべ、ジャムを塗ったトーストを口へ運んだ。

「・・・・・・おいしいじゃないですか」

 口の中のものを飲み込んだはなさんは、何とも感心した顔でつぶやいた。

「美味しいよ? ぼくは苦手なだけ」

 ぼくも食べる。

 酸っぱいと甘い。おいしいんだけど、

「・・・・・・梅干しを思い出して、食べるほどにおなかが減る」

「なるほど」

 はなさんが苦笑している。

「では、梅干しに合うようにごはんも出しましょう」

「・・・・・・いいの?」

「炊いたご飯でなく、レトルトのパックのやつになりますけどね」

 梅干しを見て、

「わたしもおなか空いてきましたし」

「梅干しは、思い出すだけでおなかが空く」

「わかります」

 酸っぱい匂い。味。シソの赤味。

 ごはんに載せたときの味。

「ちなみに、固い奴じゃなくてやわやわな梅干しだけど、大丈夫?」

「大丈夫ですよ」

 昔の友達には、やわやわ梅干しは食べられない、という子もいた。

 かりかりとしたやつは喜んで食べていたのが不思議だけど。

「はい」

 チン、というレンジの音。

 そして、はなさんがレトルトパックのごはんを持ってくる。

「では、おひとつ失礼して」

 丸一個の梅干しをごはんの上へ。

「・・・・・・・・・・・・他におかずはないのに、無性におなかが空いてきます」

「一種の暴力ですな。これは」

 ごはんの湯気に乗って広がる梅干しの匂い。

「では、いただきましょう」

「ぼくももらっていい?」

「どうぞ。二人で分けましょう」

 ぼくは割りばしをもらって、梅干しを割り、一欠片とごはんを一口。

「・・・・・・・・・・・・うま」

「美味しい・・・・・・!」

 ばあちゃんの漬ける梅干しはやっぱりおいしい。

「・・・・・・ううむ」

 ずず、とお茶をすすって、唸る。

「どうしました?」

 はなさんは、またごはんを食べている。

「・・・・・・ごはんに、梅ジャム」

「・・・・・・・・・・・・意外といけるかもしれませんね」

「お母さんは、煮物に梅干しを入れて一緒に煮たりしてたっけ」

「それもありですが、わたしはあれです。パスタ」

「パスタ?」

「ええ。ゆでたパスタに梅干しを乗せて、割って混ぜてしまうんです」

「なるほど」

 想像するに、美味しそうだ。

「こっちの梅ジャムは甘味が強いですけど。・・・・・・そうですね。ちょっと伸ばしてお肉を焼いてかけてみるとか」

「・・・・・・肉かあ・・・・・・」

 食べ方はいろいろあるけれど、

「なるほど、はなさん。参考になったよ」

「ええ? どういたしまして」

「送られてきたの、ビンがあと二つあってさ。正直どうしようかと思ってたんだ」

「量が、すごいんですね」

「そうなんだよ。少ないんなら、ぼく全然食べれるんだけど。さすがにあの量は飽きちゃうから」

 肩をすくめてやれやれと息を吐く。

「よかったら、そのビンの分ははなさんにあげる」

「ええ。それは、いただけるなら、ありがたくいただきます。おいしいですし」

「よかった」

 ばあちゃんが送ってきてくれたものを無駄にせずに済む。

「・・・・・・よし、ぼくは、とりあえず帰ってパスタをゆでてみよう」

 梅ジャムを塗ったトーストは食べきり、お茶も飲み干して、席を立つ。

「はなさん。今日は帰ります」

「はい。・・・・・・転ばないように気を付けて帰るんですよ?」

 そわそわとした様子を見て、はなさんは苦笑している。

「さすがにそこまで子供じゃないよう!」


 帰り際、急いで階段を駆け上がって、危うく転ぶところだったのは、絶対に内緒にしようと思った。

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