小川、鬼、鞄
鞄の中身を確かめる。
講義で使った教科書、筆箱、折り畳みの傘、財布、電子辞書。
忘れ物はなし。
席を立って、部屋の外へ出る。
「サン。お昼、どうしましょうか?」
はなさんが、自然と隣に並んでいた。
「ん~。・・・・・・カレー?」
今日の気分、というところだ。
なんとなく、辛い物が食べたい。
「学食にしましょうか」
「そうだね。昼過ぎから別の講義もあるし」
二人で並んで歩く。
昼休みを迎える大学の構内は明るい。
行きかう学生も多いし、ざわざわとにぎやかだ。
「はなさんはどうするの?」
「わたしも、今日はカレーにします」
「うん、そっか」
カレー、カレー、と口ずさむ。
「学食のカレーは、あれだ。カツカレーがよいよ」
「そうですか? わたしはチーズの乗ったやつがいいですが」
「合わせるともっとよい!」
「ほう・・・・・・!」
ちょっとボリュームあるかもしれないが、たまにはいい。
昼休みということで並ぶ学生たちの後ろに並ぶ。
「・・・・・・学食って、どうして外より安いのか。量は多いのに」
「いろいろあるでしょうけど、大学から支援あるんじゃないですか?」
「ここの学食。味がいいもんね」
「外の本格的なのとは、さすがに比べられませんけどね」
なんだかんだとよく使っている、と思う。
一人暮らしを始めた直後などは、自分の部屋でコンビニで買ったごはんなどを食べていたが、最近は朝昼夕と学食でとることもある。
「・・・・・・なんだかんだ、コンビニごはんよりコスパいいんだよね」
「分かる気はしますが。・・・・・・お金がないなら、うちに食べに来ますか?」
「いや。バイトしているし、お金はあるんだよ。ただ、コンビニよりも食べたなあって気になるから、なんかお得感がある」
「そういうものですか?」
はなさんは、きょとん、と首を傾げている。
「はなさんは、コンビニのごはんとか、あまり食べないよね」
「そうですね。健康に悪そうな気がしますし。実家もあるので、そちらで食べる方が楽ですから」
「ゴミも出ないしねえ」
しみじみとぼやく。
コンビニ飯にしてなんだかんだと厄介に感じたのは、ゴミがどんどん増えることだ。
「ああ、そっか。学食だとゴミ出ないんだ」
「なるほど。それはあります」
カツカレーチーズ乗せを持って、セルフのお茶を取り、席に座る。
向かいに座ったはなさんは、追加で取ったらっきょうをカレーの皿へ乗せていた。
「・・・・・・はなさんはらっきょう派」
「らっきょう派?」
「福神漬け派とか、いろいろいるじゃない」
「派閥はないと思いますよ。わたしの家なんか、らっきょうも福神漬けも全部使いますし」
「今日はらっきょう?」
「なんとなく」
「なるほど」
カレーを口に運ぶ。
「なんだかんだ、カレーは外れが少なくていいよ」
「ハズレのカレーってなんでしょう?」
「昔お母さんがやらかしてた。夏野菜カレーにしようとして、トマト入れ過ぎてやたら酸っぱくなったカレー」
「ハズレでしたか?」
「トマトジュースにカレー粉を溶かしたみたいな味になってた。・・・・・・ごはんにかけるには、ちょっと」
「ふふ。なるほど」
「あと、焦げて苦いのとか」
「焦がしてしまえば、どんな料理もおいしくなくなりますよ」
「そうだけどね」
ぼくは、ゆっくりとカレーを口に運ぶ。
はなさんは、一口一口、しっかりと噛んで食べる人だ。
逆にぼくは、どちらかというと早食いだ。
そのため、一緒に食べているとぼくのほうが、早く食べ終わってしまう。
そうして、はなさんが食べ終わるのを待つのは、ちょっと嫌だ。
だからか、はなさんと食事をとる時は、意識してゆっくりと食べる癖がついた。
はなさんの方は、ぼくが意識的にそうしていることに気づいているのか、最初のころは急いで食べようとしていたけれど、最近は自分のペースで食べるようになっている。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
食事中の会話に挟まる、無言の時間。
「・・・・・・そういえば」
「?」
ふと思い出した。
「カレー、と言えば、昔家の近所に鬼カレーという店があって」
「辛そうなイメージですね」
「いや、辛くない。どっちかというと子供向けだった気がする」
「そうなんですか?」
「うん。鬼の顔のお皿に入ってて、甘口だった」
「キャラカレー? まあ、子供向けっぽい気もしますが」
ちょっと思い出す。
「節分とかのイベントごとに、すごい売り上げてたと思う。・・・・・・いつの間にかなくなったけど」
「あらま」
幼いころは結構な頻度で食べた気もする。
「持ち帰り用の器もあってさ。・・・・・・さすがに今は捨てちゃったけど、結構頑丈だったから、しばらく家でカレー作るとそれに入れてもらってた記憶が・・・・・・」
「それはかわいらしい」
ふふふ、とはなさんが笑っている。
「お花見とかで外出する時のお弁当の定番の一つだったね。・・・・・・小学校の遠足でテイクアウト鬼カレー持ってきたやつはさすがに勇者だった・・・・・・」
冷えたカレーは美味しかっただろうか。
「カレー一つに変な思い出がありますね」
「いやあ。カレーって作るの楽だからね。なんだかんだ適当に鍋に入れて水入れて、カレー粉入れればそれっぽいのできるし」
「まあ、それはそうですが」
「ごはんと合わせれば、大体おいしく食べられるし」
「・・・・・・便利ですねえ、カレー」
「レトルトもおいしい」
「そんなのばっかり食べてないでしょうね? サン」
「大丈夫」
お母さんみたいなことを言う、とはなさんに感想を抱きつつも、ぼくはカレーを食べ終える。
「・・・・・・次の講義までは時間あるし、ちょっと食休みがいいねえ」
「そうですね」
鞄を持ち上げて、サイフを取る。
「・・・・・・なんか、飲み物を買ってこようか」
「いえ。人も多くなってきたから、出ましょう」
「そう?」
鞄にサイフを戻して、肩にかけ、学食を出る。
「食後なら、かるく散歩でもしましょう」
「そうだね」
いい天気だ。
+++
鬼カレーから連想した。
昔、鬼ごっこをして転び、鞄の中身を小川に全部ぶちまけたことがある。
「ケガしませんでした?」
「水に濡れた教科書とかの方が重傷だった」
サンはなんだかんだと食べるときは大盛が多い。




