カメ、旅人、積み木
おもちゃ屋の軒先だった。
なんとなく、懐かしい思いに駆られた。
積み木があった。
木の色のままのもの。赤や青、黄色に着色されたもの。
丸、三角、四角、円柱に円錐。アーチ状のものもある。
「昔、よく遊んだっけ」
「積み木ですか?」
ふとつぶやくと、はなさんが聞き返してきた。
商店街を二人でぶらりと歩いているときだった。
たまたま、おもちゃ屋の前で、積み木の箱が目についた。
「意外ですね。サンだと、てっきりテレビゲームばかりかと思ってましたが・・・・・・」
「ん~。じいちゃんが手作りしてくれた積み木があってさ。積み木っていうか、木っ端っていうか、だけど」
何かの木を切って、乾かし、丁寧にやすりをかけて角を落とし、ニスを塗ってあった。
今思い返すと、普通に店売りのクオリティだったようにも思う。
「・・・・・・まあ、手作りだったから、結構形も大きさもばらばらだったんだけど、それが逆に積んでみると面白くて」
「へえ?」
ばらばらだから、バランスよく積んでいかないと高く積むことはできない。
祖父は、なぜかひょいひょいと高く積んでいたが、
「難しかったけど、積むのは面白くてねえ」
どちらかといえば、パズルのようなものだったと思う。
外に出られない日は、よく遊んでいた。
「・・・・・・どこか遊びに行くときも、袋に入れて持ってた気がする」
そのせいでどこかで失くしてしまうこともあったが、なんやかやと、新しい積み木は祖父のところから届いていたので、数に困ることはなかった。
「単純な形だけじゃなくて、適当に切ったみたいな、色んな形があったから。眺めてるだけでも楽しかったよ」
途中から、色も付き始めて、
「・・・・・・僕が入るくらいの段ボールからあふれる位になっちゃって、さすがにお母さんが止めたんだけど」
「ふふ、積み木で遊ぶサン。ふふふ」
何を想像しているのか、はなさんが笑っている。
ぼくとしては、昔のぼくを笑われるのは、気恥ずかしい。
「・・・・・・あんまり、笑わないでほしいかな」
頬をかく。
おもちゃ屋へと目を戻す。
最近のゲーム機やゲームソフトと並んで、幼児向けの知育玩具の一種として、積み木は並べられているようだ。
「・・・・・・積み木ってさ、なんだかんだでいろいろ遊べるじゃない?」
「そうですか?」
「そうだよ。積み木って、いうなればただのブロックだから。どこにでも持っていけるし。なんにでも組み合わせられる」
「なるほど」
「砂場に埋めるもよし。どこかに隠して宝探しをするもよし。廊下に並べてジオラマにするもよし」
「積み木でジオラマ・・・・・・」
「まあ、ごっこ遊びだけどさ」
思い出すと、
「子供のころって、なんであんな遊びが楽しかったんだろう・・・・・・?」
「どんなことをやったんです?」
「うーん・・・・・・。旅人ごっこ?」
「旅人?」
ええとね、と思い出す。
「積み木をね、廊下に並べてジオラマにするって言ったじゃない?」
「ええ」
「お母さんがさ。適当に積み木を積んで、いくつかの塊を廊下に作るの」
「ほうほう?」
そう、お母さんとよく遊んだごっこ遊びだ。
「ぼくは、旅人で、廊下を歩くんだ」
「そうすると?」
「お母さんが置いた、塊があるよ。・・・・・・ぼくはそこまで言って、積み木を積みなおしたり、あるいはその塊を眺めたりする」
「・・・・・・? 何が面白いんです?」
「ん~。眺めたあと、お母さんに、これは何って、報告するんだよ」
一つ一つ、眺めては、お母さんのところに戻って、報告。
旅人らしく、旅の思い出をお母さんに伝えるのだ。
「そうすると、お母さんが来て、一緒に積み木を見て、ぼくの報告とどう違う、とか、感想言い合うの」
「・・・・・・・・・・・・微笑ましい」
「ぼくもそう思う」
お母さんがずっと家にいたとはいえ、結構お母さんに構ってもらっていたな、と。
「・・・・・・ぼくの家は、両親共働きでね。小さいころはともかく、大きくなってからは、結構一人で家にいることも多くて」
「・・・・・・」
「そういう時に、一人で旅人ごっこやってた。・・・・・・お母さんが返ってきたら、何を見た、どこに行った、って報告するの」
そのために、子供向けの地図や図鑑をよく開いてもいた。
勉強熱心、と褒められることも多かったから、得意にもなった。
「小学校に入って、友達と遊ぶようになってからは、あんまりしなくなったけど」
遊んで家に帰るころには、お母さんも帰っているようになったから、一人で過ごすことも少なくなった。
「でも、積み木は、結構長く使ってたよ。・・・・・・なんか、じいちゃんが作った積み木って重くてさ」
「重い?」
「うん。普通の積み木よりずっしりしてた。大きいのもあったけど。子供の手にはちょっと重いんだけど、小学生とか中学生になるとね、その重さがちょうどよくて」
「ちょうどよいとは・・・・・・」
「なんとなく、手慰みに持つのに。・・・・・・友達と電話しながら、ちょっと積んだり、崩したり?」
なんとはなしに、ふと手が伸びて遊んでいた。
「・・・・・・はなさんは、ない? 電話しているときとかさ、ちょっと手近にあるものを積み上げてみたりとか・・・・・・」
「あります。それはわかります」
「でしょう? それが、結構な数あるもんだから、ぼくはしょっちゅうで」
「ふふ。じゃあ、今は手が寂しいんじゃないですか?」
「・・・・・・そうだね。さすがに、こっちには持ってきてないからなあ」
店先の積み木を見る。
「・・・・・・買っちゃいます?」
「・・・・・・ううん。結構高いし、それに、子供向けだと軽くて手に余ると思う」
「そうですか」
はなさんは、ちょっと残念そうだ。
「もしかして、はなさんが欲しかった?」
「いえ。サンと遊んでみたかったかな、と」
ちょっと物欲しそうな目で見られた。
少し、考え込んでしまった。
「・・・・・・・・・・・・今度、ぼくの実家から少し送ってもらうよ」
「まだ残ってるんですか?」
「残ってる。実家のぼくの部屋に置きっぱなし」
「そうですか。じゃあ、きたら呼んでください」
「わかった」
おもちゃ屋の軒先を離れる。
いまさら積み木か、という気もするけれど、
「はなさんだったら、どのくらい積めるかな」
「ふふふ。どうでしょうね」
ちょっと、楽しみでもある。
+++
後日、お母さんから積み木が届いた。
箱に入れてあったと思ったら、
「なぜ、カメに入ってるの・・・・・・?」
漬物かな。




