星影、間違える、踏み台
サンが、踏み台に乗って背を伸ばしている。
高く手を伸ばし、だが、目標に届かないのか、さらに爪先立ちになってまで手を伸ばす。
プルプル震えている。
「んがあああ!」
なんか悔しいのか、唸りだした。
はたから見ていると面白いのだろうが、本人はいたって真剣そうな様子だ。
伸ばしている手には、星型の飾りがある。
何をしているのか、といえば、公民館の飾りつけだ。
サンとはなは、本日はボランティアである。
大学の講義の空き時間。
午後に結構な空き時間が生まれたために、はなが頼まれていた仕事を、二人でこなしている、という状況だ。
何をするのか、といえば、地域の子供を集めて、星の話をするのだという。
そんなことをして、人が集まるのか、と問えば、この地域の子供たちは、割合こういうイベントごとの出席率は高いそうだ。
家に引きこもってゲームばかりしている子供ばかり、というわけでもないんだねえ、とサンは頷く。
「・・・・・・はなさーん。届かないよー」
結局、高いところに飾りを張り付けるのはあきらめたのか、サンははなを呼んだ。
はなの方が背は高いが、並んでみたところで、それほど差はない。
「サン? 無理して高いところに貼り付けなくてもいいんですよ?」
はなは苦笑してサンに告げるが、サンはいやいや、と首を振る。
「星だよ? 高いところに貼るべきでしょ!」
ふんす、と妙に力説する。
サンからしてみると、何かこだわりがあるらしい。
踏み台としていた椅子から降りて、周囲を探し始める。
どうやら、もっと高い踏み台が欲しいらしい。
「・・・・・・どうせなら、天井に貼りたいとところだよ」
二人がいるのは、公民館内で、話が行われる部屋だ。
地区の公民館、ということで、それほど大きな建物ではないのだが、それでも、一番大きな部屋はそれだけ天井も高い。
椅子に乗って手を伸ばしても、天井まで手はとても届かない。
そんなところに、サンは星を貼り付けようとしているらしい。
「しょうがないですねえ」
壁の低いところに星を貼り付けていたはなは、倉庫へと向かう。
「サン。手伝ってください。確か、倉庫に脚立があるはずです。天井の蛍光灯を替える時に使うやつ」
「おお! それなら届きそうだ!」
喜び勇んで、という調子で、サンがはなに駆け寄っていく。
「・・・・・・サン、なんだかいつもよりテンション高くないですか?」
「そう? まあ、なんかこういう準備ごとって楽しいから!」
にこやかに笑い、サンはくるり、と一回転する。
無駄にテンションが高い。
「・・・・・・」
その様を見て、はなは頬に手を当てて嘆息した。
「そのテンションだと、高いところで作業させるのが不安になるんですけど・・・・・・」
「だいじょうぶ! ぼく、高いところは好きだから!」
煙と何とか、とはなは小さく口の中でつぶやいた。
「サン? まるでおばかみたいですよ?」
「煙と何とか? いいよ。こういうのは、馬鹿になった方が楽しいし」
「ふむ・・・・・・」
はなはうなる。
サンのテンションの高さは、なんとも陽気である。
もともとははなの仕事で、サンは聞きつけて手伝いに来ただけだが、
「・・・・・・まあ、いいですけど」
しょうがないですね、とはなは苦笑し、倉庫の扉を開ける。
「きゃたつー、きゃたつー。どこにあるのー?」
サンが変に調子を付けて歌っている。
「サン。かわいいですけど馬鹿みたいです」
「・・・・・・テンション上がると、なんか変な歌が出てくるとき、ないですか?」
さすがにちょっと恥ずかしかったか、サンは歌をやめた。
「わからなくはないですけど、落ち着いてください」
倉庫の奥から脚立を取り出し、二人で持ち上げる。
「・・・・・・結構、重いね?」
「安定させるためですかね? 落とさないでくださいよ? 床に傷がつきますから」
「はーい」
サンは、テンション高い、というより、子供っぽくなっている。
「さて」
部屋の真ん中に脚立を立て、
「サン。これを持って、上に登ってください」
「・・・・・・? ひも?」
長い紐だ。
途中途中に、糸がつるされ、星がぶら下がっている。
「高いところにつるせば、光を反射しますから、いい感じになるはずです」
「おお!」
いそいそとさんは脚立を登り、天井へと紐を貼り付ける。
ぶらぶらとぶら下がった星。
壁際へと紐を張れば、
「なるほど、これはいいね」
サンは頷いた。
「・・・・・・意外と、いい感じでしょうか」
はなも、安堵したように頷く。
「・・・・・・はなさんデザインか」
「飾りつけのデザインは一任する、とか言われましたからねえ・・・・・・」
苦笑し、はなは次のひもを取り出す。
「とりあえず、後三本あります。つるしてしまいましょう」
「はいはい」
脚立をずらし、つるしていく。
金や銀の紙で作られた星は、見た目には安っぽいものだが、つるされ、風の流れにひるがえっている様は、
「いいね」
「そうですね」
二人は、頷き合う。
+++
二人で準備をしていれば、夕方になり、薄暗くなり始める。
「・・・・・・ちょっと、電気付けますよ」
「うん」
さしものサンのテンションも落ち着いており、サンはぼんやりと座っていた。
飾りつけも終わり、写真を撮って主催者に送れば、問題なしと返答も返ってきている。
もう、することと言えば、切った紙くずなどを片付けることか。
明りが付き、薄暗かった外が、暗くなったように感じる。
「・・・・・・サン?」
はながサンに近寄り、声をかけた。
「どうかしましたか?」
「ん」
サンは座ったまま、上を見上げる。
昼間はなかった、天井からの光。
つるされた星型の飾りから、星影が床へと落ちる。
「・・・・・・うまくできてるかも」
「そうですか? 褒められると照れます」
くすくすとはなは笑い、サンの横へと腰を下ろす。
しばらく二人で、ぼんやりとして、
「・・・・・・片づけ、しましょう」
「そうだね」
立ち上がると、片づけを始めた。
「・・・・・・土曜日だっけ?」
「ええ。誘われていますし、サンも来ますか?」
「行く。・・・・・・終わったら、片づけか」
「そこまで含めての、お手伝いですから」
終わってしまえば、簡単なお仕事で、ちょっと大変だった。
「・・・・・・何か、食べて帰りましょうか」
「いいね。ラーメンにしよう」
「またなぜ?」
「気分」
「そうですか」
サンは、帰り際、つるされた星を見る。
「・・・・・・本物の星と間違えるくらいの出来」
「さすがにそこまでではないですよ。お世辞にもなってないです」
「そか。・・・・・・でも、いい出来だと思うよ。はなさんの星」
「ありがとう。サン」
主催者は、二人のサークルの先輩である。




