鉱脈、約束、物置
今日は約束がある。
いつもなら、大学で会って、それから連れだって行動することの多いはなさん。
そのはなさんに、金曜日にお願いされた。
いわく、
「明日、家に来てくれませんか?」
特に予定もないので快諾し、今ぼくははなさんの家へと向かっている、というわけだ。
口約束。
別にはなさんに呼ばれるのなら、用事さえなければどこにでも行くのだけれど。
しかし、意外と珍しいことでもある。
基本的に、はなさんは休日にぼくを呼び出すことは少ない。
平日は大学で会う。
結構同じ講義を取っているから、スケジュールはほとんど被る。
遅刻しないで講義を受けに行けば、大体はなさんはいて、大体、同じぐらいの場所に席を取っている。
ついでに、隣にぼくの分まで席を取ってくれている。
本当にありがたい。
はなさんが遅刻することはないし、ぼくより遅く講義に来ていることもない。
不思議だ。
そうして、一日の最初の講義をはなさんと一緒に受けて、それからは連れ立って行動、というのが、ぼくの平日の基本行動だ。
そうして、週のうち五日を一緒に過ごしている。
大学が終わってからの遊びは、はなさんの方から誘ってくれることが多い。
ぼくがバイトで付き合えないこともあるけれど、はなさんはぼくのバイトのシフトは全部知っているので、無理に遊びに誘われることもない。
「・・・・・・ん?」
ふと、一瞬何か寒気がしたけど、きっと気のせいだ。
はなさんに、シフト表渡したことはなかったと思うけど。
いや、まあいいや。
とにかく、ぼくは週の大半ははなさんと過ごしているし、はなさんもぼくと過ごしている。
そうなってくると、休日は逆にあまり会わない。
電話やメッセージのやり取りはよくする。
これは、平日も休日も変わらない。
ただ、休日に会おうとすると、街中で偶然出会うのでもなければ、大概はぼくがはなさんを呼び出している。
このあたり、ちょっと不思議だ。
「・・・・・・はなさん、バイトとかしてないんだよね」
はなさんは、インドア派だ。
用がなければ家から出ない、と以前はっきり言っていた。
そして、はなさんは、休日に予定を取ることはあまりしない。
聞いたところによると、本が読みたいけれど、平日は他にすることが多くて読めないから、休日にまとめて読む。
そのためにも、休日にはあまり多く予定は入れたくない、と言っていた。
そう言われてしまうと、平日の大学が終わった後、ぼくと遊ぶのはどうなんだ、と思わなくもないが、
「本より、お友達を過ごす方が楽しいじゃないですか」
言われてしまえば、そうか、と頷くしかない。
ぼくも、はなさんと過ごすのは楽しいし。
「あとは、適度な距離感です。平日は毎日会えるから、休日はあえて会わない、とするのも、なかなかオツなものでしょう」
そこらへんの感覚は、ちょっとぼくには分からないが、はなさん的には毎日会うより、会わない日も間にはさんだ方が、精神的に安定するらしい。
閑話休題。
とまあ、そういうわけで、実を言うと、休日にはなさんから呼び出されるというのは、実に珍しい経験なのだ。
はなさんの家が見えてきた。
家の門の前、はなさんが立っている。
「はなさーん!」
「サン。こんにちは」
「こんにちは」
近寄れば、はなさんはいつものように微笑みをくれる。
「で、今日はどうしたの?」
「ええ。大した用事ではないのですが、ちょっとサンにお付き合いいただきたいことがあります」
「・・・・・・なんか、改まった言い方だね?」
「ふふ。まあ、ちょっとした宝探し、でしょうか」
+++
はなさんいわく。
というか、サークルの先輩が見つけてきた、ちょっとした小遣い稼ぎ、らしい。
わかりやすく言うと、物置整理。
ただし、物置、というには古い、土倉だ。
この辺りで、結構古くからある家の、土倉の虫干しのお手伝い、ということらしい。
ちょっと不思議な気分だ。
ぼくの祖父母の家だと、こういうのは家の者の手でやってしまうので、外に人を頼むことはしない。
あの先輩は、一体どうやってこんな小遣い稼ぎを見つけてきたのか。
軍手をはめ、はなさんと一緒に土倉の中身を庭のブルーシートの上へと広げていく。
埃っぽい。
はなさんが、汚れてもよくて、動きやすい服装、といった時点で、なんかこういうのだとは思ったけど。
「いつものボランティアか何かかと思ってた」
「今回は、アルバイトです」
なんだかよくわからない置物。
柱時計、ツボ、鏡に、掛け軸の入った木箱。
土倉の中からは、次々にモノが出てくる。
「・・・・・・これ、今日中に終わるの?」
「今日は半分だけだそうです。日を改めて、もう半分もやるとか」
「ええ?」
日を改めて、と考えると、また呼ばれるのだろうか。
「でも、宝探し、かあ・・・・・・」
確かに、いろいろものが出てくるのは面白いけれど、
「・・・・・・うーん?」
古いものばかり、埃を被ったものばかり、ちょっと汚れたものばかり。
正直、骨董品と言われれば価値があるのかも、と思わなくもないけれど、ぼくとしては、価値はまったくわからない。
「・・・・・・宝?」
「目利きができるわけでもないですからね。・・・・・・まあ、わたしたちのものになるわけでもなし、あまり気にしないようにしましょう」
「そうだね」
一抱えもある花瓶。剣山。何かを置く台。
「・・・・・・甲冑?」
和風の甲冑。刀っぽいもの。槍っぽいもの。
「・・・・・・この家は、武士だったのかな?」
「いろいろありますねえ・・・・・・」
しばらくして、庭のブルーシートの上は一杯になったが、土倉の中にはまだものが残っている。
「すごいため込んでる」
「これとか、何に使うんでしょう・・・・・・」
「ああ。それは大工さんの道具だね。墨を入れて、糸を引っ張って、ぴん、とはじくと真っすぐに線が引ける」
「よく知ってますね」
「おじいちゃんの家の屋根裏に置いてあったのを見たことある」
「へえ・・・・・・?」
ほかにもいろいろ。
祖父母の家で見たことがあるものもあれば、まったく知らないものもある。
「木彫りの熊」
鮭をくわえた立派なものだが、誰かのお土産だろうか。
「・・・・・・これ、鋤ってやつですね」
「スコップの方が便利そう」
「千刃こきとか、これ、歴史の教科書で見たことある気が」
「あるねえ・・・・・・。脱穀に使うやつ」
歴史の授業みたいで、はなさんといろいろ言い合うのが楽しい。
こういう日も、たまにはいい。
「・・・・・・鉱脈から掘り出したダイヤモンドの原石だそうですが・・・・・・」
「・・・・・・どこの、鉱脈だろうね・・・・・・?」
盗掘でないことを祈る。




