砂浜、謎、寝床
砂浜を歩いている。
波打ち際、ざあざあと打ち寄せる波と、さくさくと、いっそ不自然なほどに響く、ぼくの足音。
裸足だった。
さらさらとした砂の感触。
踏みしめるとわずかに沈み、前へ出るときにはまとわりつく。
足を蹴り出してみれば、さらりと、虚空へ砂粒が飛ぶ。
「・・・・・・」
静かな海だった。
ぼくは、一人、砂浜を歩いている。
はなさんだ。
ふと、そんなことを想い、顔を上げると、はなさんがいた。
微笑みを浮かべたはなさんは、いつもよりきれいに見えた。
はなさんは、こちらへと向かってくる。
はなさん、と声を出そうとして、
「・・・・・・」
何も言えなかった。
はなさんが目の前に立つ。
ーーーどうしました? サン。
はなさんが口を開いて、何かを言った。
何か、というか、何と言ったかは分かるけれど、声が聞こえた気がしなかった。
「・・・・・・はなさん」
今度は、声が出た。
はなさんは、小さく首を傾げ、にこりと笑う。
ふと、思う。
いつもと、はなさんとの目線が違う。
少しだけ、背の高さが違うせいだ。
はなさんより、ぼくの方が少しだけ、高い。
そこで、気づいた。
「あ、これ夢だ」
ん、と頷いて、はなさんを見る。
いつも通りのはなさんだ。
毎日会って、話しているはなさんが、ぼくを見て立っている。
なんというか、夢だ、と気づくと、ぼくの夢にはなさんがいることがとたんに気恥ずかしくなってきた。
ーーーサン?
はなさんの声は聞こえない。
ただ、何を言っているかは分かる。
全体的にモノトーンな夢の中で、はなさんだけ、わずかに色づいているのは、一体何を暗示しているのだろう。
「はなさん、ちょっと行こう?」
はなさんの手を取ってみた。
温かい手だ。
時々握る手と同じで、柔らかくて、あたたかい。
はなさんの手の安心する感触がしっかりとあって、すごい夢だな、と思った。
はなさん、と声に出さずに心に思う。
あ、と思った。
少し沖合に、はなさん、と言葉が浮かんだ。
二人で、ぼんやりとそれを眺める。
「・・・・・・えと」
ーーーサンは
「え?」
ーーーサンは
はなさんが、サンは、と言ったまま、動かない。
「・・・・・・はなさん。ぼくにしてほしいことない?」
そんなはなさんを見ていて、ぼくはそう言っていた。
これは夢だ。
ーーーサンは、わたしのお友達でしょうか?
「ぼくは、大親友だと、思ってる」
言い切った。
ーーーわたしも、同じですよ
夢だ。
ーーーわたしは、サンが、大好きです
夢だ。
だから、好き勝手言えるし、こう言ってほしい、というのも、自由自在。
でも、はなさんに、こう言ってほしいのか、ぼくは。
ちょっとだけ、嫌気がした。
はなさんは、ぼくにとって大事な大事な人だ。
だから、こう言わせたくない。
夢で、好き勝手言わせたいのではない。
はなさんに、言ってほしい。
それ以上に、いつだって、ぼくの方から、好きだって言いたい。
「・・・・・・」
はなさんが、いない。
気が付けば、はなさんは消えていた。
ただ、手は、あたたかい。
ざあざあ、と波の音がする。
「・・・・・・謎、だよねえ」
はなさんにとって、ぼくはなんだろう。
ぼくにとって、はなさんは、大事な大事な大親友。
きっと、一生、ぼくらの関係は続くんだろう、と根拠もなく、信じてる。
はなさん。
「・・・・・・ていうか、ぼく、なんでこんな夢見てるんだろう」
はなさんに会いたいにしても、ちょっと変じゃないか?
「むう・・・・・・」
ええと、
「はなさーん!」
呼んでみた。
ーーー呼ばれて飛び出て!
「え?」
海の向こう。
水平線を突き破って、はなさんが現れた。
「ええ?!」
ーーーサン。起きてください
+++
「・・・・・・サン? 起きてください」
ゆっさゆっさ、と体がゆすられている。
「・・・・・・ういむ?」
ぼんやりと目を開けると、周囲が明るい。
「うえいあー・・・・・・?」
なんだか、とっても良い心地。
「サン? 起きましたか?」
「・・・・・・はにゃしゃん・・・・・・?」
見上げた先、はなさんがこちらを見下ろしている。
「もう朝です。起きてください」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あさ」
「はい。朝です」
「・・・・・・はなさんが、呼ばれて飛び出て・・・・・・?」
「はい? 何を言っているんです?」
困惑した顔のはなさん。
もう、と一つため息を吐いて、
「サン? わかりますか? わたしですよー?」
「・・・・・・はなさんが、夢から出てきた」
「いえ。わたしは夢の住人ではないです」
あれ、と首を傾げ、
「・・・・・・朝?」
「朝です」
上半身を起こし、はなさんを見る。
「・・・・・・おはようございます?」
「はい。おはようございます」
「・・・・・・はなさん。なんでぼくの部屋にいるの?」
「覚えてないんですか? わたし、昨日ここに泊ったんですが・・・・・・」
んん? と首を傾げる。
「・・・・・・んー。ああ・・・・・・」
なんだか、頭がようやくはっきりしてきた。
「そっか。昨日、課題見てもらってて・・・・・・」
「ええ。遅くなったから、泊ったんです」
そうだった、と思う。
「ご迷惑をおかけしました」
「いえいえ。サンのかわいい寝顔が見れましたし・・・・・・」
「かわいいかなあ・・・・・・?」
照れくさくはあるけれど、
「・・・・・・ふむ?」
「どうしました?」
「ううん? なんでもないよ」
ちょっと、思い出した。
夢の中、はなさんがいなくなっても、手はあたたかかった。
「・・・・・・はなさん。ぼく、はなさんの手、握ってた?」
「ええ。わたしも寝てましたから、いつからかはわかりませんけど」
「そか」
ふふ、と笑いがこぼれる。
「サン?」
「ううん。夢でね、はなさんと手をつなぐ夢を見たから」
「あら。いい夢でしたか?」
「どっちでもないかなあ・・・・・・? ただ、朝はなさんに起こされるのは、結構幸せかも」
「まあ・・・・・・」
はなさんは、困ったように笑う。
「とりあえず、起きて、顔を洗いなさい。朝ごはんにしましょう」
「はーい」
「冷蔵庫の中のもの、勝手に使っちゃいましたけど」
「いいよ。はなさんなら、どうぞご自由に」
んぐぅ、と伸びをして、立ち上がる。
まだ温もりのある寝床から離れ、はなさんと一緒の一日が始まる。
サンは、寝起きはよいため、結構ぎりぎりまで寝る。
はなは、寝起きは悪いので朝早く起きるようにしている。




