火、消える、制服
火のついた炭の赤い光が見える。
夜の時間。
はなさんの家の庭だ。
今日は、はなさんに夕飯に誘われて、なぜか庭に誘導された。
そこに置いてあるのは、バーベキューの準備で。
「すごいよね」
「何がですか?」
「いや、普通に庭でバーベキューできるのが」
「・・・・・・そう、でしょうか?」
はなさんは、ゆったりと首を傾げ、周囲を見やる。
庭にバーベキューの用意をしたのは、はなさんのご両親だ。
どうしたのかとはなさんに聞けば、父親の気まぐれだという。
「お父さん、たまにこういうことやり始めるんですよね」
その父親は、少し離れたところで肉を焼いていて、焼けた分を次々皿に盛っている。
はなさんは、その一皿を持ってきてくれた。
「・・・・・・まあ、本当に気まぐれですけれど、今日はサンを呼んでみようかと」
「うん。ぼくは美味しいお肉が食べられるので、とてもうれしいけれど」
なんか、結構いいお肉な気がする。
とても柔らかくて、噛むと肉汁が出てきて、味が濃くて、とてもおいしい。
「・・・・・・こういう、外でごはんって、あんまりしたことないなあ・・・・・・」
なんとも気分が全く違って楽しい。
「ぼくの実家にも結構広い庭はあるけれど、バーベキューはしたことないなあ」
思い出す。
「小学校のキャンプの時くらい、かな?」
楽しい思い出ではあるが、大きくなってからやる機会が来るとは思っていなかった。
「こういうの、楽しいね」
「サンが楽しんでくれているなら、よかったです」
ふふ、とはなさんは笑ってくれた。
「ていうか、焼き方上手じゃない?」
ちょっと驚いた。
肉は固くならず、でも生焼けは一切ない。
野菜は甘味が出る位まで焼かれているが、焦げはほとんどない。
何かのタレがかかっているのか、なんとも香ばしい。
「そうなんですよね・・・・・・」
ぼくの感想に、はなさんは乾いた笑いを返してきた。
「なんでか、こういうの上手なんですよね。わたしのお父さん」
「なんか、すごいてきぱき準備してたし、炭に火を点ける手際もいいし、焼くのもうまいし。・・・・・・かっこういいお父さんだね」
はなさんに言うと、はなさんがなんとも微妙な顔をした。
ふとバーベキューコンロの方に目を向けると、はなさんのお父さんがなんとも嬉しそうに笑っている。
ぼくの声が聞こえたのかもしれない。
おかわりいるかい、と聞かれたので、お願いします、と答えると、トングをカチャカチャと鳴らしながら、手際よく肉を焼いていく。
はなさんのお母さんの方に目をやれば、そんな様子を苦笑しながら見ていた。
目が合うと、にこ、と微笑まれる。
会釈を返しつつも、笑顔がはなさんに似てるな、と思って、はなさんに目を向ける。
「・・・・・・いいご両親じゃない」
「まあ、そうですけど・・・・・・」
はぁー、とはなさんが大きくため息を吐いた。
「あれ、二人とも相当見得張ってますから。普段はあそこまで決めてないです」
「あはは。そういうのは、どこだって一緒だよ。ぼくのとこだって、お客さんがいるときといないときで格好良さ違うもの」
くすくすと笑うと、はなさんは困ったように笑った。
「・・・・・・まあ、そういわれると、ちょっと照れますね」
新しいお肉をもらってくる。
野菜とお肉。
鉄板の上で焼かれたチャーハン。
焼きそばも焼かれ始めている。
「・・・・・・結構多いね。食べきれるかな?」
「残して大丈夫ですよ。お父さんもお母さんも大食いですし、残った分は明日の朝食になりますし」
「あ、そういうことじゃなくて、美味しいから全部食べたい」
「・・・・・・サンも食いしん坊ですね」
よしよし、とはなさんに頭を撫でられた。
「はなさんも食べようよ」
ふと思い立ち、お肉を一つお箸でつまんで、
「はい、あーん」
はなさんが一瞬固まった。
「あーん?」
もう一度促す。
「・・・・・・・・・・・・あー」
やがてゆっくりと開いた口の中へと、差し込んであげる。
「ん・・・・・・」
「美味しいね」
「・・・・・・ええ、とても・・・・・・」
はなさんが頬を押さえて返事してきた。
「ふふ」
たまにこういうことやると、はなさんの反応はとてもかわいい。
「もう、からかって」
はなさんは、自分の皿から一つお肉を取ると、
「・・・・・・はい、サン」
「あーん!」
自分から行って齧り付く。
「あ!」
「おいしいよ。はなさん!」
「・・・・・・くぅ!」
なんかはなさんが悔しそうに呻いた。
+++
「・・・・・・たくさん食べました」
「はい。お粗末様でした」
「大変なごちそうでしたよ。はなさん」
「それはよかったです」
はなさんの部屋で、はなさんとしゃべりあう。
はなさんのご両親はまだ庭にいる。
お酒入れてもう少し食べる、というのと、後片付けに火が消えるまではきちんと見なければいけない、ということで、ぼくたちは休んでいなさい、と言われた。
はなさんの誘いもあって、はなさんの部屋にやってきた。
「・・・・・・なんていうか、仲がいい夫婦って、いいね」
「?」
「いや、ぼくの両親は、仲悪いわけじゃないんだけど、ああいう感じじゃなくて、夫婦っていうより親友っていう感じが強いんだよね」
「へえ? そうなんですか?」
ううん、と考える。
「・・・・・・なんだろう? 趣味の合う仲間? 恋愛感情より、友情の方を強く感じる。・・・・・・ごめん、うまく説明できないや」
仲が悪いよりはいいだろうけれど、ときにこちらが心配になるほど、互いの関係がドライに見えることもある。
一日の中で同じ家にいて、一切会話のない日もあれば、二人で海外ドラマをマラソンして一日中テレビの前で語り合っていることもある。
「嫌いじゃないけどね。むしろ気楽でいいかもって思ってる」
「ふふ。面白い両親ですね。いつか会ってみたいです」
「ううん? いずれこっちに来た時には紹介するよ」
はなさんに紹介する、と考えると、ちょっと気恥ずかしい。
ぼんやりとしながら、淹れてもらったお茶を飲む。
ふと、目線が本棚に向いた。
「・・・・・・あるばむ」
「え?」
「お友達の家に来たからには、アルバムを探してみる」
すすす、と四つん這いで本棚ににじり寄る。
「あ・・・・・・」
ぼくが何を取ろうとしているのか気づいたか、はなさんが声を上げたが、ぼくは目当てのものを本棚から抜き出した。
「高校の卒業アルバムか・・・・・・。見てもいい?」
「・・・・・・ええ。いいですよ」
はなさんは、ちょっと迷った後に苦笑して手招きしてくれた。
はなさんの部屋のローテーブルの上に載せて、広げる。
「・・・・・・今度、サンのも見せて下さい」
「うん。いいよ。今は持ってきてないけど、今度帰省した時に取ってくる」
アルバムに残っている写真の姿。
はなさんの部屋。
ここははなさんの実家である。
そこから推理して、ぼくははなさんに一つ頼み事をした。
「・・・・・・変態ですか?」
「いやいや。普通見たいって!」
えー、とはなさんはうなるが、
「はなさんの立場ならどうさ? 友達の昔の姿」
「・・・・・・見たいですね」
「よし、じゃあ、はなさん。ぼくのは今度見せるって約束します」
「・・・・・・はあ。わかりました」
はなさんの制服姿は、結構新鮮でよかったです。
「ちょっと、一緒な高校とか通ってみたかったね?」
「それは、楽しかったでしょうね」
はなの高校は男女ともに、ブレザー。
サンの高校は学ランとセーラー服。




