犬、隠れる、新聞
公園を散歩することが多い。
正確に言うと、家から公園を通って河原へと抜けるルートが、ぼくの散歩の定番のコースになっている、ということだ。
なんで散歩なんかするのか、とよく友達から聞かれる。
けれど、ぼくからすると、なんで散歩の一つもしないのか、となる。
運動とかそういうことではなく、単純に外を歩くのが好き。
定番でお決まりのコースを歩くのは、特に何も考えなくても勝手にその道を歩いてしまうから。
要は癖だ。
車道付近の歩道を通らなくても、それなりの距離まで足を延ばすこともできる道を歩く。
こういう道は、近所で飼われている犬の散歩コースとも重なることが多い。
「・・・・・・う~んぅ」
暖かい日差しを浴びつつ、伸びを一つ。
いい天気の日には、外でお日様を浴びるべき。
ぼんやりと道を歩きながら、ふんふん、と鼻唄を歌ってみたりする。
気分のいい日だ。
「・・・・・・そうだ」
ふと、思いついた。
「はなさん」
今日暇かな?
+++
暇だというので通り道の公園に呼び出してみれば、しばらくしてはなさんがやってきた。
「お待たせしましたか?」
「ううん。大丈夫。急に呼び出したのぼくだしね」
むしろ、
「本当に、急に呼び出して大丈夫だった?」
「いえ。本当に大丈夫です。今日は特にすることないですから」
「そか。それはよかった」
「呼ばれたときは、ちょうど新聞を読んでいまして」
「新聞。・・・・・・ぼく滅多に読まないよ」
「わたしも、一面二面の見出しを流し読みするくらいですよ。普段は。・・・・・・ただ、今日は暇だったから、記事の内容まで読んでましたが」
「すごい」
「いえ。他にすることが思いつかなかったんですよ」
内容には全く興味なくて、本当に読んでただけでした、とはなさんは笑う。
「だから、呼ばれなかったら、一歩も家から出ずに終わってましたよ」
「不健康だなあ」
はなさんも、頬をかいて苦笑している。
「・・・・・・でも、何か用事があったんですか?」
はなさんが聞いてくるが、ぼくは首を振る。
「ううん?」
「?」
「特に何も。散歩に出て、いい天気で、はなさんと会いたいな、と思ったから電話した。だから、暇じゃなかったら、しょうがないってあきらめるしかなかったんだけど、来てくれてうれしい」
「サン・・・・・・」
言ってて、少し恥ずかしくなったので、てへへ、と笑う。
はなさんは、まあ、やっぱりちょっと恥ずかしそう。
「まあ、そういうことなら、呼んでもらえて光栄ですよ」
そう言ってくれると嬉しいし、ありがたい。
「行こう? 本当に目的なんてない散歩だけど・・・・・・」
「そうですね。たまにはこういうのもいいですよね」
連れだって歩き出す。
この公園だと、近くの商店街でいろいろ売っているし、河原にいけば、今日の陽気だと風も抜けてさぞ気持ちいいだろう。
「とりあえず、何か飲み物買おうか」
「そうですね」
向かう先は商店街の方にした。
「何飲もう」
「コーヒーのテイクアウト」
「いや、果物系のジュースか、タピ?」
「タピだけで区切る人初めて聞きましたよ? わたし」
「あ、でも売ってたっけ?」
「あるんじゃないですか? なんだかんだ、あそこの商店街は、新し物好きですから」
地元だからか、はなさんはよく知っている。
「流行りものとか、結構すぐ取り入れるんですよね。それに、コンビニもありますから、なくてもそっちで買えるかと」
「はなさんはよく知ってるなあ・・・・・・」
感心してしまう。
ぼくも、この辺りにはよく散歩に来るし、商店街もよく入るけれど、実際何を売っているのかよくわからない店も多い」
「一応、地元ですからね」
ふふふ、とはなさんは笑う。
「それに、高校生の時はあの商店街でバイトしてたこともありまして、結構知っているんです」
「へ~・・・・・・」
はなさんの高校時代とは、また興味のそそられる話だ。
ふと、歩きながら、日差しを見上げる。
「・・・・・・今日は、暖かいね」
「そうですね。季節としては、少し暑いくらいかもしれません」
「ぼくとしてはさ、夏の暑い盛りより、こういう気温ぐらいの方が、冷たいジュースはおいしく感じる」
「わからなくはないです。・・・・・・暑い盛りだと、冷たくてさっぱりしたものばかり飲んじゃいますし」
「冷たい水分最優先で、味は飽きなければいい程度の気分になっちゃうからね。・・・・・・ミルクティーの冷たいのとか、この時期が一番おいしく感じる」
「なるほど」
あくまでもぼくの意見でだけど、と付け加えたけど、はなさんはくすくすと笑っている。
「じゃあ、美味しい飲み物でも探しましょうか」
「うん」
+++
商店街で飲みものを買い、河原まで足を延ばす。
「・・・・・・河原の堤防の上って、開けているから風が気持ちいいですね」
不意に吹いた風に、はなさんが目をつむりながら言う。
「でも、遮るものがないから、日差しはきついかも・・・・・・」
「だいじょうぶですよ。このくらいなら」
夏ほどに強くはなくても、じっと浴びていると暑く感じる位の日差しだ。
飲み物に口を付ける」
「・・・・・・でも」
はなさんが口を開いたので、そちらへと振り向く。
「ん?」
「散歩するには、本当にいい陽気です」
「これからだんだん暑くなるだろうし、ちょうどいい季節かもね」
はなさんと二人で堤防を散歩する。
遠目に橋が見える。
大体、あの橋を越えるか、その手前位で引き返すのが、いつもの散歩だけれど。
「はなさんとしては、これからどうしたい?」
「どう、とは?」
「あっちに橋が見えるでしょ?」
「ええ」
「いつもは、大体あの橋あたりで引き返すんだけど・・・・・・」
「だけど?」
ちょっと考えて、その先を示す。
「あの橋を渡った先に、街があるでしょ?」
「はい」
「その街で、喫茶店でも探して、入ってさ」
うん、と頷いて、
「もう少し、はなさんとお話したいかなあって」
「・・・・・・サン」
はなさんはぼくを見て、頷いた。
「いいですね。このまま帰るのは寂しいですし」
「よかった」
もう少し、はなさんといられる。
向かった先の街。
今まで入ったことのある店ではなく、ちょっと二人で話をしながら街を巡って、今までに入ったことのない喫茶店に入った。
裏路地に隠れる、コーヒーがおいしいお店で、夕方になるまで、ぼくとはなさんはのんびりと過ごしたのだった。
サンは、用がなくても気分で散歩する。
はなは、用がなければ一切家から出ない。




