香辛料、隠れる、嘘
緊張感漂う空間だった。
手の中には五枚のトランプ。
ぼくの手札は、スペードのエース、ハートのエース、クラブの三、ハートのクイーン、ハートのニ。
役は、何もない。
最初に配られたカードだから、まだ交換は効く。
対してはなさんは、と言うと、二枚を捨てて、さっさと二枚引いていた。
「・・・・・・むう」
さすがははなさん、という思い切りの良さだった。
ちょっと悩んで、スペードのエースとクラブの三を捨てることにする。
どうせなら、ちょっと大きい役を狙いたい。
狙えてフラッシュでしょ、というツッコミはなしで。
まずは一枚引いてみる。
「・・・・・・お?」
ハートのキングだ。
もう一枚。
「・・・・・・おお?!」
ダイヤの四だ。
ただ、大げさに嬉しそうに言えただろうか。
これでいい役ができた、と思ってくれるといいなあ、とはなさんを見ると、
「・・・・・・」
すーん、という感じでまったくの無表情だった。
いつもどこかにこやかなのに、今日にいたってはそれがない。
えー、と思う。
もうお分かりとは思うが、今日はポーカーをしている。
一応は単なるお遊びではあるのだが、はなさんは、こういう遊びはガチでムキになる。
今日も、負けたほうは罰ゲームとして、次の食事でおごることになっている。
この手の遊びは今までにも何度か、手を変え品を変えやっているけれど、勝率は大体五分五分だ。
はなさんに手加減されている疑惑もないではないが、運が絡むとぼくが勝つことが多い。
今日はかなり厳しいかもしれないけれど。
別に遊びなのだし、負けてみてもいいけれど、単純に負けるのはやっぱり悔しい。
ポーカーのルールとしては、手札の交換は2回まで。
コインを互いに十枚ずつ持っていて、レイズで一枚掛け金を増やせる。
レイズは二回まで。
掛け金が出そろったところで、手札を開いて役が強い方が勝ち。
勝った方が場に出ているコインの全取りと、自分が賭けている分のコインと同数、相手からもらえる。
降りたら、賭けたコインは相手のもの。
ルール上、一回の勝負で賭けられる上限は三枚までだ。
ちなみに、コインは互いの財布に入っていた硬貨を適当に使っているため、種類はばらばらである。
「・・・・・・今ふと思ったんだけど」
「なんです?」
勝負と関係ないことを言おうとしていると思ったか、ちょっとはなさんの表情が動いた。
「この場だけ見られたら、硬貨だけとはいえ、お金かけてギャンブルしてるみたいだね・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
硬貨は財布にしまわれ、代わりにクラッカーが出てきました。
「・・・・・・よし」
「うん。よし」
誤解でもされたら危ない。ギャンブルだめ、絶対。
「・・・・・・さて」
気を取り直し、ダイヤの四を捨てて、一枚引く。
「・・・・・・」
ダイヤの三。
「あれ? これちゃんとシャッフルできてる?」
「さっきぐるぐるー、とやったでしょう?」
ぐるぐるー、というのは、テーブルの上にトランプをぶちまけ、ぐるぐるとかき混ぜて整えるやり方だ。
見た目子供っぽいけれど、ちゃんとシャッフルされると思う。
「ま、いいか」
とりあえず、手札は、ハートのクイーン、ハートのキング、ハートのエース、ハートの二、ダイヤの三だ。
おしい。
ストレートはできてるけど、ダイヤがハートだったら。
「・・・・・・はなさんは、取り換えないの?」
「ええ。では、まず一枚ずつ」
互いにクラッカーを自分の皿から、真ん中に置かれた皿に一枚ずつ乗せる。
「・・・・・・ではまず、レイズです」
はなさんが、一枚追加した。
「ぼくもレイズ」
ぼくも乗せる。
「では、もう一枚」
はなさん。すかさず、もう一枚。
「うん。ぼくも」
最初の一回だし、と三枚賭けてみた。
「・・・・・・では」
「せーの・・・・・・」
二人で同時に開く。
「ぼくはストレート」
「フルハウス」
「・・・・・・いや、ぼくはすとれーとふらっしゅなので・・・・・・」
ダイヤの三のところをちょっと隠して言ってみる。
「嘘はいけませんねえ・・・・・・。ペナルティでもう一枚取っちゃいますよ?」
「あう」
一気にクラッカーが六枚持って行かれた。
「・・・・・・くっそう。・・・・・・イカサマ?」
「してませんよ。・・・・・・まだ」
「まだ?!」
できんの!? と驚愕しているところで、はなさんが素早くシャッフルを終える。
「え? なんか仕込んだ?」
「してませんて。こんな遊びでそんなことしませんよ」
「・・・・・・できることは否定しないんだ・・・・・・」
時々、はなさんの持つ謎のスキルが気にかかる。
「というかサン。あなた、あまりポーカー向きませんね」
「え? 顔に出てる?」
「いえ。演技が下手です。一回目の交換で嬉しそうな声を上げておいて、もう一回交換しちゃったら、あんまり良い手ができなかったことが丸わかりですよ?」
「おおう・・・・・・」
細かい。さすがはなさん。
苦笑交じりに告げられた言葉に、ちょっとショックを受ける。
「・・・・・・ええい、もう一回」
「はいはい」
引いてみる。
初手からジャックのスリーカード。
「・・・・・・む」
役にはまらない二枚を捨てて、引く。
「・・・・・・むう」
何もならなかったので、もう一度。
「・・・・・・くう」
ジャックが一枚来た。
フォーカードだ。
意外と揃うな、と思う。
昔やったときは、ツーペアがせいぜいだったのに。こういう日もあるのか、と思いながら、ちらりとはなさんを見る。
にこにこ笑っている。
こわ・・・・・・。
え、何あの顔。
なんかすごい役でもできましたか?
「・・・・・・ところでサン?」
「え。何?」
互いに一枚ずつクラッカーを出し合ったところで、はなさんが唐突に話しかけてきた。
「ポーカーの役の強さって、ご存じですか?」
「し、知ってるよ? 一番強いのがロイヤルストレートフラッシュ」
「おお。さすがに知ってますか。では、ロイヤルストレートフラッシュはどういう役でしょう?」
「スペードの十、十一、十二、十三、一」
え、この質問なに?
「なるほど、なるほど。・・・・・・では、次に強いのは?」
はなさんは、コール、と言って、ぼくに手のひらを向けた。
「ストレートフラッシュ?」
「はい。正解」
ぼくは、残り四枚、一枚出して残り三枚。
だけど、フォーカードだし。さっきより断然強いし。
「次がフォーカード、ですね・・・・・・」
にこお、と笑顔の圧が増した気がする。
何? ぼくの手札ばれてるの?! と内心混乱しまくりだが、さすがにそれはないでしょ、と落ち着く。
それに、ばれたとして、何を恐れることがあろうか。
フォーカードはさっきのフルハウスより強いのだ。
「レイズ!」
強気にいこう、と一枚出す。
「勇気がありますね? サン」
なんかひんやりするんですけど。はなさんから寒気を感じるんですけど!
「わたしは、コールですよ。これ以上は賭けません」
「・・・・・・うう。 れ、レイズ」
もう一枚。出す。
後がない。
いや、勝てる。フォーカードなら。
いや、でも・・・・・・。
「さあ。開いていいですか? 勝負していいですか?」
どうしたんだろう、はなさんの表情が一転して曇った。
あ、弱いのかな、と思ったけれど、はなさんの視線はこっちを見ている。
あの目は、こちらを心配している目だ。
このままやったら勝っちゃいますけど、いいですか? とあの目が言っている。
確かに、ここではなさんが勝つと、一気にぼくの負けになる。
でも、降りれば、一枚は残るわけで。
「・・・・・・いや。勝負!」
フォーカードをテーブルにたたきつけた。
「・・・・・・サン。それは蛮勇というのです」
はなさんの手札は、クラブの三、四、五、七、そして、
「ジョーカー入れてたの?!」
「はい」
ぼくのおごりが確定した。
香辛料がたっぷりきいたカレーが、とても美味しかったです。




