猫、男、荷車
荷車を曳く。
最近では、ちょっと珍しい経験かな、とぼくは思う。
こんにちは、サンです。
今日は、祖父母の家に来ています。
ちょっと理由があって、祖父母の家に一週間ほどの旅行だ。
理由、というのは、単純に祖父母が倒れたからだ。
倒れた、というのは間違いか。
夏風邪をひいたらしい。
叔父が。
祖父母ではなく、叔父が風邪をひいた。
叔母などは、夏風邪はばかがひくのよお、と笑っていたが、それで困ったのは祖父母の方だ。
祖父母の家は田舎だ。
まるで当たり前のように、結構な広さの畑を持っている。
普段は、叔父夫婦が祖父母を手伝っているのだが、叔父は夏風邪。
時期的に、ちょっと畑に手を入れたいときで、男手が足りない。
それで、父に白羽の矢が立ち、ついでに、と言わんばかりに、お盆休みが近いこともあって、ぼくも呼ばれた、というか、拉致られた。
まあ、祖父母のことは好きだし、祖母の作る料理を久しぶりに食べたい、と思うから、ちょうどいいとは思う。
ただ、
「電波が、遠い」
スマホの電波が弱い。
通じはするが、なんだかバッテリーの減りが早い気がする。
気のせいかもしれないが。
電話はできるが、ネットは遠い。
「はなさんと、話したいね」
ふう、と荷車を曳きながらつぶやく。
ちなみに、なんで荷車を曳いているかと言えば、取った夏野菜を運ぶためだ。
荷車に載せて、畑の間を進む。
畑から家までなら、公道も通っているしトラックがあるが、トラックまで運ぶには、荷車に載せて運ばないといけない。
それほど大きくはない荷車だが、やっぱり重い。
なす、トマト、キュウリ、ピーマン、とうもろこし。
いろいろ作ってるな、と思う。
カレーにしたい。
カレー、カレー、いいですね。夏野菜カレー。
天ぷらもいいね。
「・・・・・・おばあちゃん。今日のお夕飯は何ですか、と」
呟きつつ、えっちらおっちらと荷車を曳く。
広い畑だな、と思う。
祖父母、というか、ぼくの家は、割と歴史のある家らしい。
豪農? あるいは、庄屋、とでもいうのだろうか。
よくは知らないけれど、地元だとちょっとした顔、だったらしい。
今の時代に、どこまでそれが通じるかは知らないが、祖父も若いころは公務員の上の方にいたとも聞く。
上の方ってどこだろう、と思わなくもないけれど。
そのおかげか、畑は広く、田んぼも多い。
男手がないと苦労する、というのもわかる話だ。
普段は、従兄弟たちが呼び出されているらしいが、上の従兄は奥さんが出産準備中でちょっと手を離せない。
下の従弟は海外旅行に逃げたらしい。
「いいんだけどさ」
トラックに荷車の野菜の載せ替えて、また来た道を戻る。
「さっきから、往復ばっかだな、ぼく」
両親と祖母が収穫し、ぼくがそれをひたすらトラックに運ぶ。
叔母はトラックがいっぱいになったら、家なり農協なりに運ぶ。
祖父は何をしているのかと言えば、トラクターで別の畑を耕している。
今日はそういう日で、昨日は祖父と父が別のところで仕事をしていたと思ったら、帰ってきて腰を押さえて動かなくなった。
相当に重たいものを運んだらしい。
「あ。休憩? わかった」
母から連絡が入った。
ちょっと立ち止まり、荷車の端に置いておいたペットボトルからお茶を飲む。
麦茶を空いたペットボトルに入れて、凍らせたものだ。
時間がたつごとに凍った麦茶は溶けていき、中身は冷たい。
「あー。おいし」
ふう、と息を吐いたところで、スマホを見ると、メッセ―ジが入っている。
「はなさん」
『元気ですか?』
「ぼくは元気です。夏野菜がおいしそうです」
ちょっと考えて、畑の写真を撮って送る。
「・・・・・・量が多くて大変だ、と」
『本当に広い畑』
まあ、写真に撮ったのは、今日取る分ではないので、実のところはったりだが。
あと、半分くらいは他人の畑だ。
「ふふ。はなさん、ぼくの家はあっちだよ、と」
やっぱり遠い。
はなさんのにこにこした顔を思い浮かべた。
はなさんをここに連れてきたら、はなさんはどうしたろうか。
なんだかんだと、軍手を付けて仕事を手伝ってくれる気がする。
想像して、結構農家スタイル似合いそうだな、と思った。
はなさん、キレイだし、何着ても似合うか。
「・・・・・・ぼくの写真?」
作業着、首にかけたタオル、麦わら帽子に軍手、ゴム長靴。
泥も結構ついているし、汚れているけれど、と思いつつも、自撮り写真を送る。
「・・・・・・ええ?」
『かわいいですね!』
ぐ! と親指を立てたスタンプ付きだ。
「・・・・・・かわいい、かなあ?」
自分ではわからないけれど、はなさんが満足しているならいいか、と思う。
「あ」
イタチだ。
写真を撮って送る。
あとで見つけたことは祖父母に報告だ。
畑の周辺に罠仕掛けてあるけど、いるということは何か野菜喰われているだろうし。
「・・・・・・害獣だよねえ」
『農家も大変ですね』
「農家にとって、山の獣はすべて敵、みたい」
物騒な話だ。
しばらく遅れて、はなさんも写真を送ってきた。
「おや、かわいい」
猫でした。
「どうしたの? この子」
『ちょっと預かっています。親戚が旅行に行ったので』
「かわいいね」
『まったくです』
はなさん、きっとにこにこしてるな、と思った。
はなさんは、あれで結構動物好きだし。
「・・・・・・ぼくも会いたいけど、帰るころにはいないかな」
『まあ、明日には返しますから』
「そっか」
しょぼん、と送ると、しばらくして、
『戻ってきたら、猫カフェでも行きましょうか?』
「いいね」
わーい、と送っておく。
「楽しみ」
猫カフェか。
荷車を見る。
四つの車輪がある手で押すタイプだが、一輪車もある。
「ネコ車」
はなさんに言ったら、猫を持ってきたりしないかな、と思ったら、ちょっと笑ってしまった。




