海、宴会、雨具
宴会だった。
サークルの飲み会だったが、宴会とはこういうことを言うのだろう。
全員が揃ったから、という名目で行われた、新人歓迎の宴会である。
全員、というのは、春休みで地元に帰っていた先輩たちが来たことと、新入生歓迎の時期が終わって、一通りの新人が出そろった、ということだろう。
酒はない。
まあ、当然だ。
何せ、新入生はほとんどが未成年だから。
ぼくとはなさんは隣り合って座り、サークルの部長という人の口上を聞く。
新入生はそれほど多くない。
ぼくとはなさんを含めて、四人。
先輩たちを合わせても、サークル全体で二十人に満たない。
そういえば、とふと思い出す。
「ねえ、はなさん」
「はい? なんですか?」
「このサークルって、なんのサークルだっけ?」
「さあ?」
「え?」
はなさんも首を傾げているので、思わず振り返った。
「サークルの説明は聞きましたけど、正直何をやるサークルなのかはさっぱりです。・・・・・・一応、何かを作るサークル、というのは分かったんですが・・・・・・」
「何を?」
「それが、過去の作品を聞いた限り、ロボット作ったり、服を作ったり、料理作ったり、プラネタリウムを作ったり、文集を作ったり、ととりとめもなくて・・・・・・」
「ごった煮すぎない?」
「まあ、とにかく、所属している人が、作りたいものを作る、と、そんなサークルらしいです。・・・・・・サークルにしているのは、人手を集めやすくするため、だとか」
「・・・・・・つまり、あれかな? 先輩たちの創作活動に巻き込まれる可能性があると」
「そういうことですね」
あはは、とはなさんは気楽に笑っている。
ぼくは、正直不安だ。
えんもたけなわというか、一時間前に始まった宴会は、新入生や先輩方の自己紹介の時間も終わり、歓談の時間帯に入っている。
あちらこちらで好き勝手に話し合う先輩や、そこに混じっていく新入生の姿が見える。
ぼくとはなさんは、といえば、少し離れて料理をつまんでいた。
さっきまで、先輩に絡まれていろいろと質問されたり、拝まれたりしていたもので、ちょっと疲れたのだ。
「・・・・・・そういえば、ぼくはなんで拝まれていたのだろう?」
「世の中には知らない方がいいこともあります。人の心の中とか」
「・・・・・・なんか、ごまかしてる?」
そういえば、先輩に拝まれたのは、はなさんとその先輩が二人でこそこそと話してからだ。
「何言ってたの?」
「いえ。聞かれたのは、サンとの出会いとか、サークルに来るまでの経緯、とかだったんですが、あの人、途中から一人で盛り上がりだして・・・・・・」
はなさんは、自分の体を抱いてふるり、と震える。
「ちょっと、寒気がしましたよ。・・・・・・なんか、ネット小説書いてるとか言ってましたが」
たっとし、てえてえ、ありがとー! とか叫んでたっけ、と首を傾げるが、
「意味は知りませんが、たぶん知らない方がいい言葉ですよ。それ」
はなさんも顔をしかめている。
「・・・・・・はあ。いろんな人がいるねえ・・・・・・」
「まったくです」
退屈はしなさそうだが、大変そうでもある。
「・・・・・・でもはなさん。だったら、どうしてこのサークルにしたの?」
正直な話、ぼくははなさんが選ばなければ、このサークルに入ろうとはしなかったと思う。
「いえ、説明の時に対応してくださった先輩が、すごく親切にいろいろ教えてくれたので」
「それだけ?」
「ええ。まあ。・・・・・・ちょっと騙されたかも、と思っていますが」
「ふうん」
ぼくとしては、はなさんと一緒、というだけでも十分に価値がある。
とはいえ、はなさんとしては、
「別のサークル行きたいなら、行ってもいいと思うよ? ぼくも付き合うし」
「いえ。先輩方に悪い人はいませんから。・・・・・・ちょっと行き過ぎている人はいるかもですが」
それに、とはなさんは続ける。
「サンをわたしの好き嫌いに付き合わせるのは、少し気が引けます」
「気にしなくていいよ? はなさんのためだし」
「ありがとうございます。・・・・・・でも、サンのやりたいことを優先してくださいね」
「だったら、はなさんと一緒にいたいかな」
遠くから、てーてー! と叫びが挙がった。
+++
「雨だ」
「雨ですねえ」
宴会が終わり、店の外に出てみれば、雨が降っている。
「傘か雨具か、持ってますか?」
「傘はある。今日は、天気予報で雨って言ってたから」
「・・・・・・えらいですね。わたしは近いから、って持ってきませんでしたよ」
「そう?」
首を傾げる。
「じゃあ、一緒に行こう」
「・・・・・・いいんですか?」
傘を差して、はなさんの方に傾ける。
「いいよ。帰る方向一緒でしょ?」
「そうですね。では、途中まで」
ぼくが持った傘の中、二人で並んで雨の中を歩く。
相合傘なんて、実は初めてかもしれない。
正直、すぐ隣に人の気配があることに、少々の気恥ずかしさと、くすぐったさを感じている。
それと同時に、驚きもだ。
隣にちらりと視線を移す。
はなさんだ。
雨に濡れないようにかこちらに身を寄せるはなさんの横顔は、きれいだな、と思う。
こんな近くに人がいる。
友人になって、それほど経ったわけでもないのに、自分のこんな傍に近寄られて、嫌な感じがしない人は、初めてだ。
だから、気になる。
「・・・・・・はなさん」
「はい?」
「ぼくね、はなさんが友達になってくれてうれしいよ」
「いきなりですね。わたしも、サンがお友達になってくれてうれしいですよ」
「びっくりだよね」
「何がでしょう?」
「ぼくら、会ってからそんなに経ってないのに、ぼくからしたら、はなさんはもう大親友だよ」
「・・・・・・」
はなさんが黙ってしまった。
気に障ることを言っただろうか、と思うが、
「びっくりしました」
「えっと、嫌だった?」
「いえ! そうではなく・・・・・・」
あー、とはなさんは一つ唸ると、
「わたしも、サンは大事な親友だと思っています」
「本当? へへ。うれしいね」
春先の雨の降る夜。
少し冷える空気だったけれど。
ぼくはぽかぽかと温かかった。
家に帰り、傘をたたむ。
変哲もない傘だったけれど、と思いながら、ポケットからスマホを出す。
ケースに着けていた海のモチーフのストラップを、傘の柄に着ける。
ちょっとだけ特別で、思い入れのできた、この傘に。




