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猫、場所、重労働

「のびてる・・・・・・」

 ぐにょーん

「ところでさ」

 はなさんに顔を向ける。

「はい?」

「この子、どうしたの?」

「いえ。ちょっと預かってきたんです」

 ぼくが前足の脇を持ち上げれば、ぐにょーん、である。よく伸びている。

 猫だ。

 猫である。

 猫なのである。

 白と黒の毛の猫だ。

 割と大き目だから、成猫だと思う。

 ぼくがはなさんの家に遊びに来たら、リビングで丸くなって動かなかった。

 最初はクッションかと思った。

 違った。

 猫だった。

 肉球は固め。毛並みはよし。ほんわりと温かい。

「・・・・・・・・・・・・預かって」

「ええ。ご近所さんなんですが、旅行に行くから、と預かっているんです」

 三日間だけ、とはなさんは言う。

「他人の猫か。・・・・・・借りてきた猫状態?」

「ええ。飼い主さんはやんちゃな子、と言っていましたけれど、大人しいものですよ? リビングのすみっこで動かないんです」

 へー、と頷きつつ、猫を下ろす。

「猫はのびる」

「あんまり構わない方がいいかもしれませんね」

「そうかもね」

 さすさすと毛並みを味わうように撫でてみる。

 いい手触りだった。

「・・・・・・・・・・・・猫、ぼくは飼えないから」

「アパートは無理でしょうね」

「まあ、将来的に飼うことがあるか、と言われるととても微妙だけど」

 撫でつつ言う。

「でも、こういうのを見ると、なんだか飼いたくなるんだよね」

「気持ちはわからなくもないですけどね」

 はなさんも苦笑している。

「ぬいぐるみで我慢しておきなさい」

「お母さんみたいなことを言う」

「ふふふ」

 はなさんは笑いながら、キッチンの方へと言った。

「今日は、コーヒーにしておきましょうか」

「うん」

 猫から離れると、猫は窓際に近くも、日が直接当たらないところで丸くなった。

「・・・・・・・・・・・・ねこー」

「そんなに気になりますか?」

「んー。・・・・・・近くに生き物がいるっていうのは、気にならない?」

「あー。確かに、慣れない生き物がいる、というのは、ちょっと気になりますね」

 見ている先で、猫は丸いまま動かない。

 エアコンの効いた室内ではあるけれど、暑くないのかな、と気にはなる。

 気にしてもしょうがないのだろうけれど。

「ずっと、同じ場所にいるね」

「それこそ、借りてきた猫状態ですよ。本当におとなしくて、餌を出しても、誰も見てないところでしか食べないんですから」

「へー」

 ぼー、と眺めてみる。

「・・・・・・猫は、なんだかんだと警戒心が強いイメージがあります」

「動物で警戒心が弱いのは、まずいないと思うんですが。・・・・・・警戒心がないように見えても、人に慣れているだけ、ということじゃないですか?」

「猫カフェの猫みたいな?」

「ええ。初見のお客さんの膝にあっさり乗ってくるような彼らのことです」

「あー。・・・・・・また行きたいねー」

「今度行きますか?」

「そうだね」

 猫を見ながら、アイスコーヒーを飲みながら、はなさんとしゃべる。

「・・・・・・平和だー」

「大体毎日こんなものですけど」

「じゃあ、毎日平和だー」

「いいことでしょう」

 それは大いにその通りだと同意するところではあるのだけれど、

「この辺、野良猫はいないから、ちょっと新鮮にも感じる」

「野良猫ですか。そういえば、わたしもあまり見ないですね」

 ふむ、とはなさんは唸る。

「保健所がよく仕事をしているのでは?」

「・・・・・・あまり頷きたくないですが、そうなのでしょうか?」

「やっぱり、見つかった端から連れていかれる・・・・・・、やめよう。なんか猫を見ながらする話題じゃないや」

「そうですね」

 保健所と動物、と聞くと、どうしてもいやなイメージが出てくる。

 想像なんかしたくない。

「動物は、世話が大変だから」

「散歩に餌に。予防注射にしつけに、と」

「捨てたら犯罪。いじめたら犯罪。飼うんだったら大事にしろよ、と」

「当たり前のことですけどね」

 だから、ペットは飼えない、というのは決まり切った話で、

「たまに猫カフェに愛でに行く、くらいが、ちょうどいいんだろうなあ」

「遊びに行く、という感じですよね」

 はなさんも、以前行った時は結構はしゃいでいたし、やっぱりかわいい動物はテンションが上がる、とは思うけれど、

「自分で責任持つ、となると、尻込みしちゃう、と」

「いいんですよ。無責任に大丈夫っていうよりは」

 本人的にも、ペット的にも、とはなさんは頷いた。

「・・・・・・・・・・・・なんか変な話になってきた」

「そうですね。猫を見ているとどうにも。・・・・・・場所、変えましょうか。わたしの部屋へ」

「うん」

 コーヒーの入ったコップを持って、ぼくはリビングを出る。

 猫は最初に丸くなっていた場所から、まだ動いていなかった。


+++


「帰るー」

「はいはい。お見送りしますよ」

 リビングに入ったぼくは、

「わー。本当に全く動いてない」

 リビングを出ていった時と、猫の位置は変わっていない。

「・・・・・・・・・・・・案外、あの位置が一番居心地がいいのか?」

「そう、疑いたくもなりますよね」

 はなさんも猫を見て苦笑している。

「どうれ」

 そそそ、と近寄って、持ち上げる。

「伸びるー」

「遊ばないでください」

「はーい」

 持ち上げたまま、リビングの中央まで持ってきて、下ろしてみた。

「・・・・・・どうだ?」

 元の場所へ戻っていった。

「・・・・・・・・・・・・なんか面白い」

「遊ばないでください」

 はなさんにたしなめられて、ぼくは肩をすくめる。

「まあ、結構重いから、もういいけどね」

 猫って、結構自由に動き回ると思っていたけれど、自分の思う場所に動かそうとすると、重労働になる。

「つかず離れずの距離で眺めてるのが、ちょうどいいのかもね」

「そうですね」

 はなさんと顔を見合わせて笑うのだった。

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