正四面体、昼寝、快感
普通に十分な時間の睡眠を取っても、昼になるとやたらと眠い時がある。
「はなさんはどう思う?」
「まあ、気持ちはわかります」
ふふふ、とはなさんは笑っている。
ぼくは机に突っ伏して、顔だけ横に向けてはなさんを見ていた。
「眠いねぇ」
外は暑いが、講義室の中は空調が効いていて、いい感じの温度になっている。
程よく疲れがあり、先ほど昼食を食べたばかりなので、満腹感もよい。
こうなると、眠気が来るのは必定に思えた。
講義が始まるまで、まだ三十分ほど時間はある。
先んじて講義室に来たものの、何もすることがなければじんわりと時間を潰すだけだ。
周りを見れば、弁当や菓子パン、おにぎりなんかを食べる者。マンガやラノベらしきものを読む者。スマホをいじっている者。携帯ゲーム機をいじっている者など、さまざまだ。
中には、ぼくと同じように机に突っ伏し、眠っていると思しきものもいる。
「・・・・・・・・・・・・はなさんは、眠い時はどうしてる?」
「寝ます」
はなさんの回答は簡潔だった。
「授業中とかは?」
「寝ます」
「・・・・・・・・・・・・意外なお答え・・・・・・」
はなさんは、そういうとき意地でも我慢するかと思っていた。
「いえ。眠気は我慢してもしきれないですから」
はなさんは苦笑している。
「瞼の上から、目をそっと抑えて、六十秒数えるんです」
「ほう・・・・・・」
やってみた。
「数の数え方は、ゆっくりと、できるだけ数字だけを考えて」
ふんふん、と頷き、一、二、と心の中で数える。
「うまくいけば、六十数え終わるころには幾分かすっきりしますね」
「へー」
目を閉じて数を数えていると、なんだか妙な集中がくる。
数は数えられているのだが、それ以外の感覚が希薄になる瞬間。
それが過ぎて、六十を数え終わり、目を開ける。
「あ、ほんとだ。気持ちすっきりした感じ」
六十数える間目を閉じていたから、かもしれないけれど、数字を数えていた間の妙な静かさも、すっきりの原因に思える。
その感覚を思い出してみると、ちょっとした快感でもあった。
「・・・・・・なんか、不思議な感じがした」
「わたしは、集中できた時の感覚だと思ってますね」
ふーん、と頷く。
「集中するのは、気落ちいいのです」
「ほうほう」
もう一度やってみようかな、と思う。
「・・・・・・まあ、寝落ちする感覚の方が近いかもしれませんけど」
「あー・・・・・・」
なんとなく分かる気がした。
「電車で座って揺られている時に、かく、と頭を落ちる感覚というか」
「わかります。なんだか、ああいう電車の中での眠気って、不思議な快感がありますよね」
「なんかね。別にいい姿勢で眠っているわけでもないのに、妙にすっきりしたりね」
「ぎゃくに疲れを感じることもありますが、それはそれでよい、という感じですよね」
あの、乗り物に揺られている時の眠りは何だろうか。
短い時間で、ずいぶんと心地よい眠りを味わえる気がする。
「・・・・・・む、また眠気よ」
「ふふ。わたしは、サンと話していると眠気は飛びますけどね」
「ぼくは、はなさんと話していると安心しちゃうからなぁ」
「・・・・・・まあ」
安心感は、段違いだと思う
むー、とぼくは唸る。
「だめだ。はなさんとしゃべっていると寝てしまう」
「普通は逆だと思うんですが」
はなさんは苦笑しているが、ぼくは考えて、
「いっそ、眠ってしまえばいいのかも、だけどねえ」
「外で寝るのは、ちょっと勇気が要りませんか?」
「ね」
考える。
「でも、外で寝るのは気持ちよさそう。・・・・・・ただなあ」
「?」
机を見た。
腕を枕に机に突っ伏すも、
「・・・・・・なんか、落ち着きが悪い。・・・・・・すわりが悪い、っていうのかな?」
「あー。自分の腕だと、ですか?」
「カバンと上着を枕にするのもありだけど、固いものが入ってたりするとあれだし」
枕、と考えて、スマホを操作する。
「? どうしました?」
「携帯用枕、とかないかな、と」
「何を探しているんですか」
呆れた、とはなさんが苦笑している。
「いや、でもさ。カバンに入りつつ、ちょっとした時に使えるクッションとか、いいと思わない?」
「外に持ち出すと、汚れそうですねえ」
「む」
たしかに、と思った。
「埃っぽい枕とか、いやだね」
「ですよねえ」
こまったな、と思って、
「・・・・・・ビニール袋を膨らませてハンカチをかぶせる」
「いや、そこまで枕にこだわらなくても・・・・・・」
「・・・・・・なんか、いい感じのないかなー」
スマホをいじっても、それほど琴線に触れるものはなくて、
「いい枕の条件とは・・・・・・」
「ほどよい高さとほどよい固さ、といったところでしょうか?」
「そのほどよいの基準がわからないんだよなあ」
「いろいろ試すしかないですからね」
「立方体のさ、寝ながらテレビが見れる枕、とかあったけど、こういうところに持ち込むには不向きだろうし」
「そもそも枕を持ち歩く発想を捨てましょうよ。それこそ、ペットボトルにタオルを巻いただけの方が、即席でもいい感じになるんじゃないですか?」
「・・・・・・・・・・・・なるほど」
「え?」
すててて、と講義室を出ると、近くの自販機の前に立つ。
「・・・・・・・・・・・・炭酸だな」
普通の飲み物のペットボトルは固いけれど、炭酸飲料のペットボトルは柔らかい。
それを買うと、講義室に戻り、
「よ、と」
「なんでタオルをカバンの中に・・・・・・」
「汗ふき用」
ペットボトルに巻き付ける。
そして、それを横向きに置いて頭を載せると、
「・・・・・・ほお。ほどよく冷たくて非常によいです」
「・・・・・・よかったですね」
はなさんの声がほどよく呆れて聞こえるけれど、今はいい。
「・・・・・・眠いから寝ます」
「はいはい。始まる前に起こしてあげますよ」
「ありがとうね。はなさん」
そしてぼくは、はなさんに起こされるまで、心地いい昼寝をしたのだった。
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