筋肉、チキン、限界
そー、と手を伸ばし、そー、とゆっくりと下ろす。
「む、むむ・・・・・・」
息を殺す。
静かに、そーっと・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・」
そ、と手を放す。
「・・・・・・おー」
トランプを三角になるように立てる。
その隣に、同じように、支え合わせて立てる。
そして、その上に一枚乗せる。
今、一枚乗せ終わったところだ。
「・・・・・・くふー」
めっちゃ緊張した。
これで五回目。
それでようやく乗ったのだ。
そこで、そっと隣を見る。
互いの振動が行き来しないように、別のテーブルを使って、はなさんも同じようにトランプタワーを作っていた。
自分より、三角が二つ多く、上は三倍広い。
「はなさんすごいなー・・・・・・」
普通に感心してしまった。
サークルの部室で、トランプを見つけ、最初はババ抜きなんかをしていたのだが、ふと思いついてトランプタワーを作り始めた。
最初はぼくが一人でやっていたものの、はなさんも途中からやり始めて、今に至る。
「はふうう・・・・・・」
はなさんがそっと息を吐きながら、こちらを見た。
「集中力が、きついですね。これ」
「ね。結構集中力必要できついよ」
なにより、そー、とトランプを動かす動きだ。
ゆっくりとゆっくりと、かつ、精密に動かそうとして、筋肉がかなり強張ってしまう。
置いては、緩め、置いては、解し、とやっていかないと、腕がしびれてしまいそうだ。
「・・・・・・・・・・・・なんか、じっとやってると、なんでこんなことやっているんだろう、ていう気になる」
「まだ早いです。せめて二段は積みましょうよ」
はなさんが苦笑して、二枚のトランプを、そっと二段目に乗せようとしている。
「・・・・・・そうだね」
ぼくも、二段目に挑戦することにした。
横に伸ばすのも考えたけれど、ちょっと上に載せてみたい。
「・・・・・・・・・・・・」
互いに集中しているから、やたら静かだ。
そんな中で、トランプをそっと上に載せて、
「・・・・・・ふぅ」
そっと離れると二段目が載っていた。
「やったー」
「・・・・・・・・・・・・」
はなさんが、なんかまだぷるぷるやってる。
静かに見ていると、そっと、置いて、
「ふうぅ・・・・・・」
はなさんも二段目を載せたらしい。
「・・・・・・・・・・・・これを、十段とか積むのとか、無理だねえ」
「何時間かかるでしょうね」
はなさんと顔を見合わせて笑う。
「・・・・・・あー。もういいや。なんか集中力限界」
「ふふふ。そうですね」
えい、とトランプタワーを崩してしまう。
はなさんも、崩してしまっていた。
「・・・・・・片づけて、帰ろっか」
「ええ」
そうして二人で、部室を後にしたのだった。
+++
「甘いものが食べたい」
「集中してたら疲れましたからね」
頭がぼんやりとしている気もする。
「なんか目もぼやけているかのような気が」
「じっと、同じ場所を見つめてましたからねー」
「肩も凝ったし」
「ずっと同じ姿勢でしたから」
「・・・・・・暇つぶしの手段としてはいいのかもしれないけど、やたら疲れた」
「同感です」
はなさんが苦笑しているから、ぼくも同じような表情を返す。
「甘いもの。・・・・・・でも、ちょっと小腹も空いたかな?」
「商店街の方に行ってみますか? あの辺りなら、いろいろと食べ歩きできますし」
んー、と考える。
「パン屋さんへ行こう」
「なるほど。そうしましょうか」
軽いおやつ、と考えたけれど、晩御飯にしてしまってもいいかもしれない。
はなさんと連れ立って歩き、商店街を目指す。
「甘い菓子パンか。おなかにたまる総菜パンか」
ちょっと悩むけれど、
「わたしも、パンを夕飯にしてしまいましょうか」
うーん、とはなさんも悩んでいる。
「あそこのパン屋さん。それなりに種類あるしね」
「そんなに人来るのか、と思う時もありますけど」
「なんだかんだ大学近いから、結構人きてるんじゃないかな?」
ぼくのバイト先の喫茶店とはちがって、それほど大学から距離のある場所でもない。
商店街を歩いている大学生の姿はよく見かける。
居酒屋が近くにあることもあって、夜でも結構大学生の姿は見る。
「・・・・・・結局、なんだかんだと、この辺さ」
「?」
ふと思い立ってぼやくように言うぼくに、はなさんは首を傾げる。
「どんなに深夜でも、誰かしら歩いてるんだよね・・・・・・」
「あー・・・・・・」
はなさんも何か納得するように頷いている。
夜、ちょっと小腹が空いたときなど、日も変わった深夜だというのに、コンビニに向かう道すがら、歩いている人の姿があり、明りのついた窓があり、騒がしい声がある。
みんな、大学生がまだ起きている証拠であろうし、
「どうして夜寝ないのか」
「そんな時間に出歩いておいて何を言っているんですか」
はなさんに苦笑つきで言われて、それもそうだなー、と思う。
「でも、夜に出歩くのは、結構わくわくする」
「夜道は危ないですよ?」
「まーねー」
ふふふ、と笑う。
「この辺さ。なんだかんだ街灯が多いから、夜でも結構明るいんだよ」
「大学近くの街で、それこそ夜にも出歩く人が多いからでしょうけど」
「田舎の方だと、田んぼと田んぼの間にある農道とか、街灯なんてないから真っ暗でさー」
遠くに灯りはあっても、足元はまるで見えない暗さがあった。
「・・・・・・でも、暗いところに行くとちょっと落ち着く感じがして好きだった」
「何か浸っていたんですか? 中二病ですか?」
「痛いことを言う」
くすくすと笑う。
「そうだね。夜の暗さにわくわくするのは、中二病っぽいかも」
そう思うと恥ずかしい思い出だなー、と思う。
「・・・・・・ま、今の時期はまだまだ明るいけどね」
「日が長くなりましたね」
はなさんとこうして歩いて話す時間も、なんだかんだと増えている気もする。
冬になり、日が短くなったら、今度はどこで話すだろうか。
そこまで考えて、まあいいか、と思考を打ち切る。
「さて。何食べよ?」
「わたしは・・・・・・、あんぱんが食べたいですね」
「ほう。あんぱん。いいですね。ぼくはサンドイッチ」
「サンドイッチ」
「確か、この間行ったときに、新作でチキンカツサンドが売ってたから、今日はそれにする」
「あら、新作ですか。ではわたしもいただきましょう」
パン屋さんに入りながら、二人で選んで、会計を済ませて席に座る。
「いただきます」
「いただきます」
夕食も兼ねてのパンを食べながら、結局暗くなるまで、ぼくたちはおしゃべりしていた。
評価いただけると励みになります。
よろしくお願いします。




