ペーパーバック、体験談、ヒーロー
「やあ。すずさん」
大学構内の喫茶店に、すずさんがいたのを見つけ、ぼくとはなさんはそちらへと寄ることにした。
「あら。サンはな」
「何それ?」
「あなた達、いつも二人でセットじゃない」
ふふふ、とすずさんは笑っている。
「・・・・・・まあ、いいや」
「ふふふ」
「湯原さん、待ってるの?」
「ええ。そうよ。今日はパパのおごりで外食よ」
うふふ、とすずさんは笑っている。
すごい嬉しそうだ。
「二人も来る? おごりよ?」
「遠慮しとくよ。親子水入らずでどうぞ」
「そうですよ。遠くないとはいえ、離れて暮らしているんですし」
はなさんも同意している。
「別に気にしなくてもいいのよ? ほぼ毎週のことだし」
「そんな会ってんの?」
首を傾げると、すずさんは笑顔で頷いた。
「ええ。大体毎週。・・・・・・ごはん代浮くから助かるわー」
「そういうもん?」
苦笑しつつも、仲が良くて何よりだね、と思う。
「ていうか、毎週って大丈夫なの?」
「何が?」
「いや。そっちの友達とか、それこそ彼氏とか」
「友達は、平日によく遊んでるわ。彼氏なんていないし」
「いないの?」
「いないわ。パパよりかっこいい人いないから」
どやあ、と一変の曇りもない眼である。
「・・・・・・うわあ。マジモンのふぁざこんなんだね」
「ファザコン・・・・・・。すずさんは、なんというか、湯原さん大好きですね」
「自慢だもの」
ぼくとはなさんの言葉にも、すずさんには一切迷いなく頷く。
照れもためらいもない。
「ていうか、あたしはいいのよ。あたしは」
ふん、とすずさんは言った。
「何が?」
「彼氏。必要なのはパパでしょ?」
「・・・・・・湯原さんに彼氏・・・・・・?」
薔薇がいるかな、と思ったところで、
「違うからね? 恋人、そして結婚!」
「・・・・・・すずさん的には、湯原さんには新しい奥さんが欲しいの?」
「そうよ? まだまだ若いんだから、いいじゃない」
すずさんは頷く。
はなさんと顔を見合わせた。
「でも、大学にいる間だと、すずさんより年下になりかねない?」
「うん。あたしより年下でかわいいお母さんか。・・・・・・いいわね。そそる」
すずさんがにや、と笑っている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・業が深い」
「新しいお母さんができたとしても、身の危険がありそうですねー」
「さすがに、冗談だとしても怒るわよ?」
うふふ、とすずさんは微笑んでいるが、
「でも、発言と顔とイントネーションがそんな感じ? なんか普通にやばいよ?」
「あら。そうかしら?」
頬に手を当ててむにむにしているすずさんは、美人でもありかわいらしくもある。
「・・・・・・二人的にはどうなの? パパ。うまくやれてる?」
平静に戻って、すずさんはぼく達に聞いてきた。
「うまくやってるんじゃないかな?」
「そうですね。見てる限り、結構うまくやってるみたいですよ」
うまく、というか、
「むしろ、馴染んでる」
「あー。・・・・・・たしかに」
湯原さんは、一人でうろついているところを見ていると、年齢もあってそれなりに浮いているように見える。
ただ、たまに見かけると、
「なんだかんだ、結構人に囲まれてること多いよね」
「そうですよね。結構慕われてるみたいで」
「まあ、パパかっこいいから」
かっこいいというか、
「話しやすいんだよね。聞き上手」
「確かに。話してみると聞き上手な人だなーと思います」
相槌のタイミングや、雰囲気などが分かりやすく、
「なんだかんだ結構苦労しているからなのかな? 大学生から見ると、社会人なりの体験談? 経験談? が結構ためになるみたい」
「へー。・・・・・・そういうの聞くと、なんか不思議な気分ね」
「一回り歳が離れているけれど、ごく当たり前に馴染んでるあたり、なんだかんだであの人コミュ力高いよね」
普通に感心する。
「気遣い上手でもあるし」
「やっぱり、そのあたりは、あたしを育てた苦労で鍛えられたんでしょうね」
そう思うと、ちょっと微妙かしら、とすずさんは悩まし気に頬を手に当てて呟く。
「とはいっても、受けてる講義とかあんまりかぶってないし、普段どういうことをしているのかはあんまり知らない」
「そうですねえ。わたしもサンも、ナオの方もそれほど講義被ってませんから」
はなさんと頷く。
ぼくとはなさんとナオさんは学科が同じだが、湯原さんだけ違う。
「湯原さん。サークルの部室の方にもあんまり顔出さないし」
「あらまあ」
仕方ないわねえ、とすずさんは笑っている。
「まあ、平日はパパは学費を稼ぐお仕事してるし、仕方ないところもあるかしらね」
「大学終わった後の時間でできる仕事だけで稼げるの?」
「そういうものらしいわ。あたしの学費も出してもらってるし、感謝しかないけどね」
湯原さんすごいなー、と思っていたら、
「おや、涼子のサンさんとはなさんもかい?」
「お、湯原さん」
「こんにちは。湯原さん」
「やっほう。パパ」
「はい。こんにちは」
湯原さんは笑っている。
「何の話をしてたんだい?」
「湯原さんは、すずさんにとって、ヒーローだねえって」
「そんな話してたかしら?」
「大体そんな感じ」
「どうかしら?」
すずさんはちょっと照れくさそうにしている。
「ヒーローねえ。そうなれるように頑張ってはいるつもりだけど」
湯原さんは苦笑している。
「・・・・・・ああ。そうだ」
それから、湯原さんは何かを思い出したように、カバンから何かを出した。
「? それは?」
「ペーパーバック。・・・・・・まあ、同人誌みたいなものだねえ。私の仕事先からいただいたものでね。最後の方にこの近くのお店のクーポンがついているから、よければ使って欲しいかな」
そう言って薄い冊子を渡すと、湯原さんはすずさんを伴って去って行った。
残ったはなさんと見合う。
最後のクーポンは、ファミレスのクーポンで。
「・・・・・・いく?」
「せっかくですから、使わせてもらいましょう」
「こういうところに、ソツがないっていうのかなあ?」
「そうですね」
くすくすと笑うはなさんを見て、社会人はこういう気遣いが必要なのかなあ、と思うのだった。
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