公式、濃度、チキンナゲット
チキンナゲットをかじる。
「・・・・・・ぐう」
結構濃い味がするそれを眠気覚ましとして、キーボードを叩く。
コーヒーは飲み飽きた。
濃く煮詰めてみたり、逆に水を混ぜて薄くしたりとしてみたけれど、もう効果を感じない。
むしろ、何かを噛んでいた方が、眠気は晴れる気がするくらいだ。
ん、と麦茶を口に含んで、口の中の味を洗い流す。
レポートを書く、というのは、案外に辛い。
決まった文字数、内容を考え、論理だてて、結論を記載する。
ネットは十分に巡回した。
いろんなレポートの書き方のサイトは見た。
いくらか、図書館から本を借りて読みもした。
ただ、なんというか、うまく書けている気がしない。
別に、そこまでこだわらなくてもなあ、と思うけれども、逆にちょっと意地になっているところもある。
徹夜に近いテンションのせいかもしれない。
一時間くらいでできると思っていたのだ。
だから、夕食を食べ終わり、風呂にも入り、ほどよく体が温まったところで、始めようかとパソコンを立ち上げた。
それが、のんびりと間に動画視聴をしたりと、『ながら』でやっていたら、いつのまにか日が変わっていた。
やべ、と思って、慌てて動画を切り、レポート作成に集中しようと思ったものの、妙に集中力が続かない。
あっちへこっちへ、と意識が飛んでいるうちに、また数時間が経っていて、
「あー・・・・・・」
諦めの境地で、二時間ほど仮眠を取って、大学に向かったのが、昨日の話。
帰ってきて、再度レポートに取り掛かったものの、やっぱり集中できない。
眠気は増すし、なんだか疲れを感じるし、と来て、今だ。
「ほとんど徹夜に近いもんな―」
どうしようかな、と考える。
実のところ、このレポートは〆切はまだ先なので、今急いで片づけることもない。
「・・・・・・寝るか」
決めてしまうと早い。
もともと眠気は限界に近かったのだ。
シャワーを浴びて、歯を磨き、ほどよく温まった体。
髪を乾かし、寝巻に着替えて、
「おやすみなさい」
すぐに寝た。
+++
「というわけで、よく寝たのですごいすっきり」
「まあ、よく寝たことについてはいいんですけれど・・・・・・」
はなさんは、少し心配そうだ。
「レポート終わるんですか?」
「もう終わった」
「・・・・・・は?」
にや、と笑いながら言うと、はなさんは首を傾げる。
「いや、やっぱり寝不足はだめだね。煮詰まってた頭が、朝起きたらしゃっきり爽快!」
ちゃっきーん、と効果音でも流れそうな気分だ。
「朝起きて、パソコン起動して、レポート開いたら、三十分でできたよ! あんなに悩んでいたのは一体何だったのか!」
あっはっは、と笑う。
「・・・・・・テンション高いですね」
「なんか気分いいの。難しいと思ってたけど、ちょっと考えただけでここまですいすい書けるとは」
「寝不足はだめですね」
「本当だよ。よく寝ないとだめだね」
ふふふ、と笑う。
「あとで、印刷して、提出してこないと」
「そうですね」
提出には、事務室近くにレポート提出用の箱がある。
その時出されている課題なら、いつでも出せるようになっている。
「いやあ、締め切りがないっていいね」
「気持ちはわかりますけどね」
はなさんはくすくすと笑っている。
「終わったらどっか遊び行こーよ。せっかく天気もいいし」
「そうですね。何か、涼しいものを食べに行きましょうか」
「おー。・・・・・・アイスかな」
「普通に冷たい飲み物でもいいですけどね」
「そういや、商店街近くの公園の入り口にさ、新しいお店出てなかった?」
「いえ。あれはいつものお店ですよ。夏仕様に改装はしてますが」
「そうなの? やっぱ、売ってるものも違う?」
「ええ。アイスとかが中心のはずで」
「じゃあ、そこだ。買った後は、公園で食べる」
「そうしましょうか」
予定も決まると、気分も高まってくる。
「とにかく、今の気分は、本当にすっきりしている」
「よかったですねー」
+++
「そして、今の気分は本当にどんよりしている」
「落差が激しいですね」
肩を落とすぼくに対し、はなさんは苦笑している。
講義後の予定も決まり、何ともいい気分でいたところに、今日の講義でまた新たな課題が出た。
「宿題に追われるのなんか、高校まででいいっつの!」
「気持ちはわかりますけど、我慢ですよ。幸い、締め切りは来週なんですし」
「そうだけどねー」
はあ、とため息を吐く。
「今度は、楽に書けそうにないから、面倒」
「まあ、確かに」
ちょっとした化学の問題になっている。
「液体を混ぜ合わせた時の濃度の計算とか、高校の時にやったけど、もうほとんど内容を覚えてないよ」
「あー。・・・・・・一応、教科書に書いてはありますけどね」
読み解くの面倒そう。
「いっそ、高校の教科書探した方が早かったりして」
「あはは」
「はなさんは実家だからいいけど、ぼくはそんなもん持ってきてないんだよね」
「それもそうですね」
頷かれた。
「・・・・・・でも、不思議」
「何がですか?」
「高校の時はさ、なんだかんだ、一年生の時の内容が三年生の時もわかってたじゃない?」
「そりゃそうでしょう」
「受験終わったら、ほとんど忘れちゃった気がする」
「・・・・・・言われてみると」
む、とはなさんも唸った。
「・・・・・・なんだろう。高校までの勉強が無駄になった気分なんですけど」
「あらら。・・・・・・でも、確かに、大学入ってからは、高校までの時ほど勉強してませんからね」
「やっぱ、使わないとバカになるんだなー。頭って」
「こんなことで実感はしたくなかったですね」
はなさんの苦笑を見て、ぼくも苦笑する。
「さて、気分は切り替えていこう!」
「あら。どうするんですか?」
「決めてた予定通り、アイスを食べに行きます」
「課題は?」
「今日は忘れる!」
「潔いですね」
「いいの。公式に頭使うより、今日ははなさんと遊ぶことに頭使う」
「それはそれは」
くすくすと笑うはなさんと一緒に、大学を出る。
日は高く、遊べる時間もきっと長い。
昨日と違って、楽しい一日になりそうだ。
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