アカウント、青写真、就活
「おー。お帰り」
「あーうん。・・・・・・ナオさんだけ?」
実家にもどって、友人の結婚式に出て、今日戻ってきた。
「はなさんは?」
「なんか買いたいものがあるからって、ちょっと出てるぞ。さっきまで待ってたから、ちょっとタイミング悪かったな」
「ふーん・・・・・・」
ちょっと寂しい。
スマホを開いて確認するも、はなさんのアカウントからは何も届いていない。
「で? 結婚式ってどうだった?」
ナオさんに聞かれて、思い返す。
特筆すべきことは何もない結婚式だった。
「本当に、普通の、結婚式だった」
普通に、幸せそうな、よい式だったと思う。
「そーかー」
大学のサークル部室だ。
今日の戻ってくる時間の関係上、今日の講義は休んでいる。
単位を取る上で、特に問題にはならない、と計算した上でのことではあるけれど、ちょっと悪いことをしている気分ではあった。
わくわくした。
それはともかく、昨日は夜まで実家にいて、朝一番の列車で戻ってきた。
結婚式は、友人の姉が新婦だったけれど、その友人が、なんだかんだと夜までぼくを付き合わせたからだ。
酒も入ってないのにあのテンションはどういうことだったのだろうか、と思わなくもない。
下手すると、結婚式の会場の誰よりも泣いていた。
「・・・・・・ナオさんは、誰かの結婚式って出たことある?」
「んー? 従姉の姉ちゃんくらいかなあ・・・・・・。どした?」
「友達、結婚式でボロ泣きしててさあ」
「新婦の妹とかいうやつ?」
「そう。その友達が、なんか誰よりぼろぼろ泣いてて、なんでかなあと。あと、やたらテンション高くて、怒りっぽくて」
「酔ってたんか?」
「互いに酒なんか飲んでないよ。・・・・・・まるで酔っ払いみたいだったのは認めるけど」
「ははは。まあ、その友達にも、思うところあるんだろー。うちははなからの又聞きだけど、いろいろ因縁あったみたいじゃん」
ナオさんはけらけら笑っている。
ぼくも、その意見には賛成する。
なんだかんだ、付き合いは長くて、複雑な感情があるんだろう。
「・・・・・・・・・・・・まあ、最終的に幸せそうなら、多分いいんじゃないかな、とぼくは思うけどね」
「いいんじゃねーの? そこまで、サンが気にしてやることもないだろ」
「まぁね」
くすくすと笑う。
「ああ、そうだ」
カバンから、小さな箱を一つ。
「ナオさん。お土産あげる」
「お? 食い物か?」
テンション高く食いついてきたナオさんに、箱を差し出す。
「うん。まんじゅう」
「・・・・・・・・・・・・どこの名産か分からんな」
包み紙を見て、ナオさんはそうつぶやくも、すぐさま包装紙を破っていった。
「名産じゃないよ? 駅のお土産」
「・・・・・・おお」
ナオさんのテンションがガタ落ちした。
「・・・・・・まあ、外れじゃないから、うちはいいけどなー」
「ぼくの実家なんて、そんな名産があるような地方じゃないよ」
「それでも、駅の売店ならなんかあったろ?」
「あー。・・・・・・まあね」
確かにあった。ただ、
「ぼくが食べたいと思わなかった」
「・・・・・・ま、そういうもんか」
ナオさんは包みを開いて、一つ口に放り込んで、
「まあ、まんじゅうだな」
うん、と頷いた。
なんかおかしくなって噴き出す。
「おう、なんだ?」
「ん? 何でもないよ」
くすくす笑っていると、ナオさんは首を傾げる。
「でもよ。お前の、その友達? の姉ちゃんの結婚した相手って、何してるんだ?」
「何が?」
「同時期に高校通ってたんだろ? だったら、まだ大学生じゃねーの?」
「ああ。そのこと」
ううん、と考える。
「学生結婚、とは言ってた。・・・・・・まあ、お姉さんの方はもう就職してて、お相手の方は今就活中、らしいけどね」
「なんでそのタイミングで結婚なんだ?」
「さあ? お金溜まったからじゃない? 友達の方も、今結婚しなきゃいけない理由はないけど、できるうちにしとくのがいい、みたいなことを言われたって、言ってた」
ナオさんとしては、いろいろ推測しているみたいだが、
「邪推ってやつじゃないかな? それ」
「む。そうか」
ナオさんは頷いて、座っていた椅子の背もたれに体重をかける。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・?」
そうしていると、ナオさんがじ、とぼくを見ていた。
「どうしたの?」
「んー。やっぱ、サンははなと違うなー、と」
「は?」
何の話だろうか。
「いや。なんだかんだでさ。はなはサンがいないとすげえ寂しそうだったからなー」
「・・・・・・。別に、この世から消えたわけでもないだろうに・・・・・・」
「でも、会いに行こうと思って会えない場所には言ってたろ?」
そう言われると、と黙り込むと、ナオさんはちょっとにや、とした。
「でも、サンの方は、やっぱあんまり気にしてなかったな」
「んー・・・・・・」
どうだろうか、と思う。
「ぼくも、寂しかった、よ?」
「ははは。それでも、サンは大丈夫だろ。はなの方はなー。・・・・・・結構キテたぞー。あれ」
「えー? 普通に予定通りに一日いなかっただけじゃん」
「いや。でもお前スマホの電源切ってたろ」
「・・・・・・あー。そういえば式の間鳴らないように、って電源切って、朝起きるまでそのままだった気が・・・・・・」
「たぶん。そこらへんだぞー? 昨日も、せっかく遊びに誘ったってのに、ちらちらちらちら、スマホ見てたからなー」
「・・・・・・ほう? 昨日、はなさんと二人で遊びに・・・・・・」
「面倒くせーとこ拾うなよー」
「冗談だよ」
ナオさんがいやそうな声をあげるので、ひらひらと手を振って否定しておく。
「・・・・・・今日なんか、朝から結構うっきうっきしてたからなー。はなのやつ」
何か言いたそうだったが、ナオさんは結局話を続けることにしたらしい。
そして、そのはなさんの様子は、ぼくにも興味がある。
「そんな嬉しそうだったの?」
「おー。・・・・・・テンションの躁鬱が激しいぜ・・・・・・」
「はなさんがねえ」
ちょっと想像つかないだけに、面白いことになってるな、とも思う。
「・・・・・・ま、お前らの仲良いのはよっく分かってるしなー。できれば、そのままでいてくれー」
「言われなくても」
「まったくです」
おや、と振り返ると、はなさんがいた。
「何の話をしているんですか?」
「お前らほんと大親友だなって」
「・・・・・・まあ、そういうことにしておきますか」
ふう、とはなさんは椅子に腰かけ、ぼくを見る。
「お帰りなさい。サン」
「ああ。うん。ただいま」
にっこにっことした顔をしているはなさんを見ていると、なんだか面映ゆい。
「けー」
ナオさんがなんか吐いてるフリをしている。
はなさんはそちらには一切視線を向けずに、ぼくを見ていた。
「それで? 結婚式はどうでした?」
「幸せそうで何より、っていう感じ」
なんだかんだ、みんな幸せそうだったし、
「いいことだよ。うん」
友達がボロ泣きしてたのは気になるけれど、なんだかんだで笑ってはいたし。
「いいよね。幸せそうな雰囲気って」
「そうですね」
思い出す。
いつかは自分も、というのは、青写真にすらならない願望だけど、
「んー・・・・・・」
そうなったとき、はなさんは、ぼくにとってどこにいるだろう。
「・・・・・・?」
ぼくがじっと見つめると、はなさんは首を傾げる。
一つ分かるのは、きっとこれからもはなさんとは仲良くできるということだ。
「まあ、ぼくの番はまだまだ先そうだし」
「一生来ないかもなー」
「ナオさん」
ひどいこと言うなー。
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