スマートフォン、彼方、位置情報
今日はサンがいない。
そのことについて、はなは特に思うことはない、とは思う。
ちなみに、どうしていないのかといえば、サンは地元に戻っているからだ。
本日、サンは以前言っていた友人の姉の結婚式に出向いている。
日帰りではないため、昨日もサンとは会っていない。
「・・・・・・む」
特に思うところはない。
休日なら、約束がなければ会わないものだし、約束だって毎週交わしていたわけではないのだから。
ただ、会いに行っても会えないだけだ。
そのことを思って、自分でも意識しないうちにため息を吐いていた。
そして、ため息を吐いたことに気づいて、苦笑する。
「寂しがってますね」
一緒に暮らしているわけでもなければ、会う約束をしていたわけでもないのに、と自嘲する。
晴れた空を見上げて、首を振ると、気を取り直して歩き出す。
向かう先は、駅前だ。
いつもなら家で本を読んでいるところだが、今日は外に出ていた。
「おいっすー」
ナオに、呼ばれていたからだ。
「こんにちは、ナオ」
「おう。こんにちは」
にか、と眩しいとも見える笑顔を浮かべるナオに、はなは微笑みを返す。
「おー」
その笑みをみて、ナオはふむ、と首を傾げた。
「意外と、うちが思っている以上に重症だな?」
「・・・・・・何の話ですか?」
一瞬、はなは息をつめ、だけれど、聞き返した。
「いやいや。割と自覚あんじゃん? サンがいなくて寂しいんだろー?」
「絡み方がウザイですよ。ナオ」
「おう。手厳しいな」
けらけらとナオが笑っているのを、はなは少しにらんで、ため息を吐いた。
「なんなんですか?」
「いや? サンがいないからはなは暇だろうなー、とそう思っただけだぞ?」
「・・・・・・別に、サンがいても暇な時はありますけど?」
「うん? そうは思えないぞ? なんか見るからに落ち込んで」
「・・・・・・落ち込んでいるように見えますか?」
「見える」
即答で断言されて、はなは口元が引き攣るのを感じた。
「超見える」
イラっとした。
「はなは、自分で思っている以上に、サンにべったりしてるぞ? サンはそうでもないけど」
ナオの言うことは、はなにも分かる。
サンは割とあっちこっち自由にふらふらするタイプだ。
普段は、メッセージなど送ればすぐに既読がついて、すぐに返信がある。
だというのに、ときたま、丸一日既読も付かない時がある。
どうしたのか聞いてみれば、スマホの電源が切れてて、そのことに気づいていなかった、という。
着信でスマホが鳴るから気づくが、鳴らなければ気づかないどころか、スマホの存在すら忘れることがある、ということだ。
「・・・・・・サンって、ソシャゲとかやる割に、ログインボーナスとかは取れていなくても気にしないんですよね」
「ゲームは好きだけど、毎日やるほどじゃない、とは言ってたな」
二人、歩きながら、サンのことを話している。
はなとしては、その方が落ち着く。
「・・・・・・サンのことは、いろいろ考えちゃうんですよ」
「好きすぎだろ」
「そうですね。サンといるのは心地いいので」
「大親友って感じだな」
「そう言ってもらえるのはうれしいですね」
「そっかー」
ナオは頭の後ろで腕を組んで、しばらく空を見上げて、
「うちから見ると、サンとはなはいつも一緒にいるな」
「基本的にナオと会うときは大学ですからね」
「もう、うちからすると二人セットだからな。遊びに誘うにも二人呼ぶし。つうか、サンとか誘うと普通にはなも誘うし」
「あら。サンだけ誘うんですか?」
「いや。サンを誘えばはなも来るだろ、と思って、実際毎回来るからもうそういうもんだと思ってる」
「・・・・・・サンは、毎回誘ってくれるんですよね」
「予定が合わないとかないのか?」
「不思議と。・・・・・・サンが以前、バイト先で客が少ない時間を狙ってわたしが行くのを不思議がってましたけど」
「あれは怖い」
「いえ。あのお店は、お客の少ない時間帯が毎日あるんです。あとはそことシフトを合わせるだけですから」
「なんでシフト知ってんだ?」
「平日は大学終わりにそのままバイト行くんですから。週末の予定だけ聞いておけば把握できますよ?」
「・・・・・・お、おー」
ナオがなんか唸っているが、はなとしては首を傾げざるを得ない。
「教えてもいないのに、普通にカンでわたしの空いているタイミングを把握しているサンの方がすごいと思うんですけどね」
「聞いてみると、はなの方が普通に聞こえる。・・・・・・サンは、なんかそこらへんは不思議ちゃんだ」
「割と真面目に見えるのに、根っこのところがふわっとしている部分があって・・・・・・」
「あー。確かにそういうところはあるなー。考えているようで、なんか野生のカンみたいので動くときあるよな、あいつ」
うんうん、とナオも頷いている。
「・・・・・・ふう」
ちょっと、スマホを取り出して眺める。
「たぶん、電源切ってますね。昨日から返信ないんですよ」
「あー。・・・・・・いや、でもどうだろう? サンのことだから、なんかいいものみたら写真撮って送ってくるだろ」
「・・・・・・時間的に、結婚式の最中でしょうか?」
「かもなー」
「とすると、新郎新婦とか撮って送ってきそうなものですが」
「サンだからなー。・・・・・・そういうありきたりなのじゃなく、何か珍しいものに注目してそうな気が・・・・・・」
「なるほど」
ふふふ、とはなは笑う。
「スマートフォンの位置情報を検索したら、今サンがどこにいるかとか分かるかもしれませんが」
「やるなよ? さすがに引くぞ?」
「できませんよ。できるようにするには、サンの許可がいるんですから」
「まあ。そうだろうけどなー」
ナオは少し考え込んだ後で、
「はなはさ」
「はい?」
「サンとずっと一緒か?」
「一緒かどうかはともかく、大親友であることは、一生変わらないでしょう」
「断言したな」
「できますから」
「・・・・・・そか。サンも、きっと、同じこと言うんだろうなー」
「だったら、いいんですけれど」
はなは笑う。
否定するようなことは言いながらも、心の中では、サンも同じだと疑ってもいない。
そう思い、空の彼方へと視線をやれば、少しだけ、気が晴れた気がした。
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