期待、ガラガラヘビ、八つ当たり
「ガラガラヘビは、本当にいるヘビだった」
「・・・・・・? そうですよ?」
ぼくが言うとはなさんは、普通に頷いた。
「なんで知ってたのに教えてくれなかったの?」
「いえ。むしろサンがガラガラヘビを実在のヘビではないと思っていたことが驚きなんですが」
「え・・・・・・」
なんか信じがたいことを言われている。
「だって、童謡だよ?」
「・・・・・・ガラガラヘビの歌って、童謡でしたっけ?」
ん? とはなさんは首を傾げているが、そこは重要ではない。
「とにかく、絵本とかと同じレベルの空想物だと思ってたよぼくは」
「なんでまた・・・・・・」
はなさんが苦笑と微笑の混じった顔をしている。
「だって、なんだよ。しっぽがガラガラ鳴るヘビって・・・・・・。ガラガラが尻尾についてんのか?」
「ガラガラ・・・・・・」
はなさんが顔の横で何かを持っている手を振っているフリをしているのは、おもちゃのがらがらを示しているからだろうか。
「小さいころにさ、なんだろう? 身近な大人が描いたか、テレビの教育番組だったか、絵本? かなんか、とにかく、絵を見た記憶があるの。尻尾が、こう、赤ちゃんをあやす時のおもちゃのガラガラになってるヘビの絵」
「・・・・・・ほう?」
はなさんがなんか面白いものを見つけた顔をしている。
「で、そんなおもちゃが尻尾についているヘビなんているわけがない。だとしたら、ガラガラヘビなんているわけないって、ぼくは思ってた」
「あー。・・・・・・なるほど」
ふんふん、とはんさんは頷いて、
「まあ、日本にはいないヘビですし、あえて調べるか、動物園でも行くかしないと、見る機会なんてないかもしれませんね」
ふふ、と笑って、
「まあ、本物はすごい毒ヘビらしいですから、見たことあるとかだったら大変ですが」
はなさんはそう付け加えた。
「あんまりガラガラって感じはしない音だったね」
「あら。何かで見たんですか?」
「テレビで特集してた」
「あー」
危険な生物の特集、みたいなので、簡単に人間を殺せる生物の一つに、ガラガラヘビが特集されていたのだ。
そして、その特集番組を見たからこそ、ガラガラヘビの実在を知る理由となったわけだ。
「いるんだねえ。ああいうヘビ。・・・・・・ツチノコを見た気分だったよ」
「ええ? きちんと図鑑にも載っているヘビなんですし、別にツチノコほど珍しい生き物じゃないでしょうに」
「え? 昔ぼくが見た子供用の爬虫類図鑑には、ツチノコ載ってたよ? 他はちゃんと写真で載ってるのに、ツチノコだけ絵だったけど」
「まだ正式に発見されたわけじゃない生き物を載せている生物図鑑。・・・・・・それ、図鑑じゃないでしょう」
「・・・・・・あー。・・・・・・なんかの漫画雑誌の付録だった気も・・・・・・」
なにぶん、子供のころのことだから、記憶があいまいだ。
「・・・・・・まあ、とにかく、一つ誤解が消えてよかったじゃないですか?」
「誤解?」
「ガラガラヘビが空想上の生き物ではない、ということです」
「ああ、うん。そうね」
うん、と頷く。
「でも、テレビ番組でガラガラヘビについて言うから、てっきり尻尾がガラガラのあのヘビが出るのか、とちょっとわくわくしたぼくの期待は裏切られた」
「勝手に誤解混じりの期待をしておいて・・・・・・」
「まあ、まったくもってその通りだね」
あはは、とぼくは笑っておく。
「ヘビなんて、じいちゃんの家行ったときぐらいしか見たことなかったし」
「ヘビくらいそこらにいるでしょう?」
「そうかな? じいちゃんの家だったら、庭の木に巻き付いてたり、草刈してるところににょき、と出てきたりしてたけど」
「いきなり目の前に出てきたらと思うと、びっくりしますね」
「すごいする。・・・・・・結構細いヘビが地面にいて、最初紐でも落ちてるのかと思ったら動いたときはびく、ってした」
「噛まれなくてよかったですね」
「そうだね」
茶色っぽいのはよく見た。
たまに青いのを見た。
「・・・・・・そういう意味で言うと、とぐろを巻いたヘビの実物は見たことないかも?」
「ああ。渦みたいな」
「そうそう。ああいうぐるぐるー、としたやつ。・・・・・・実際、あれって人為的な手が加わらないとならないと思うんだけど、どう思う?」
「そうですねえ。わたしもヘビに詳しいわけではありませんし、はっきりとは言えませんが、自然界の蛇が自前であんな綺麗に渦を巻くとは思いません」
「だね」
今度調べてみよ、と思う。
「ヘビって、飼ってみると意外とかわいいという話を聞くけど、どう思う?」
「・・・・・・触れて、噛まれないなら、あるいは・・・・・・」
んー、とはなさんは考える。
「あー、でも、ヘビって変温動物ですし、きっとひんやりするでしょうし。ウロコもすべっとしているでしょうから。想像上では触り心地よさそう・・・・・・?」
「なるほど。そういう風に考えるなら確かに。ウロコか・・・・・・」
むむ、と考える。
「・・・・・・・・・・・・」
ヘビを、マフラーみたいに体に巻く図。
「・・・・・・絞殺されそう」
「実際、獲物を絞め殺して食べる生き物ですし、その考えはまあ、当たり前なのでは?」
「餌はネズミか」
「・・・・・・ネズミの死体を手でやるんですかね?」
「ペットとして考えると、何をやっていいか分からない生き物だな・・・・・・」
むう、と唸りつつ、
「犬とか猫は、割と雑食だけど、餌が限定される生き物って、飼うとなると大変だねえ」
「ヘビの話題からペットの話題に。・・・・・・何か買いたい生き物でもいるんですか?」
「・・・・・・。・・・・・・いや、世話が大変そうだからいい」
「あら? てっきり、フクロウ、とか、イメージ先行で何か言うかと思いましたが」
「いや、鳥系はダメでしょ。どこに飛んでいくか分かったもんじゃないし」
「じゃあ、他の動物だったら? 小さいのだったら、ハムスターとか」
「いらない。すぐ死にそう」
「おおう。金魚とかはいかがです?」
「金魚かー。・・・・・・猫の餌だよね」
「こらこら」
はなさんも苦笑している。
「はなさんはどうなの?」
「わたしですか? ペットはちょっと。言葉が分からない相手は嫌いなので」
「・・・・・・オウムとか」
「言葉を繰り返すだけじゃないですか。わたしの言っていることを理解しているかどうかではなく、相手の言っていることが分からないのが嫌なんです」
「・・・・・・なるほど」
はなさんは、んー、と考え、顔の横にぴ、と指を一本立てて、
「あれですね。海外の人に、日本に来たなら、日本語しゃべれ、と八つ当たりするような感じです」
「りっふじーん」
けらけらと笑うと、はなさんも笑っていた。
「ペットなんて、ある程度生活に余裕のある時に飼うものです。少なくとも、飼ってみたい、で飼っちゃいけないやつですよ」
「そして、ガラガラヘビを飼ってみたいと思った人が、手が付けられないと外に離した結果。野生化したガラガラヘビが・・・・・・」
「ガラガラヘビに限らず、大問題になるやつですよ、それ。というか、ペットを捨てるのは普通に犯罪です」
「気を付けなきゃ・・・・・・」
「かわいい動物を愛でるだけなら、ネコカフェとか、触れる動物園とか、探せばいいんですよ」
「・・・・・・なるほど。じゃあはなさん。今度ネコカフェ行こう。ネコカフェ」
ぼくが提案すると、はなさんは一瞬きょとん、としてから破顔して、
「・・・・・・いいですよ」
頷いてくれたのだった。
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